第33話(2)
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子供の頃、祐介と同じく、自分を怖がることなく接してくれた少年がいた。名前も住んでいる場所も分からないが、酷く虐待を受けている、可哀想な子供だった。同情したわけではなかった。ただ、彼の頭の中に浮かぶ空想の世界が、要は気に入った。今思えば、あれは彼なりの現実逃避の方法だったのだ。祖父の家に遊びに行ったときに知り合った少年は、翌日、公園へは来なかった。明日も遊ぼうと言うと、少年は大きな瞳にたくさんの涙を浮かべて頷いた。たった一度、ほんの数時間、遊んだだけ。それなのに、掛け替えのない、大切な友達になったと思った。小学校高学年に上がるくらいまで、正月や夏休み、何度となく公園へ行ったが、少年には一度も出会ってない。
虐待を受けていたのだ、きっと、あの時来られなかったのは、何かあったに違いないと思った。それでも、自分はまだ子供で、幼すぎて何もしてやれなかった。大切な友達だと思えたにも拘わらず、何も出来なかった。助けてやれなかった。
祐介に頼まれたとき断らなかったのは、無意識に、心のどこかで、彼と祐介を重ねていたのかも知れない。大切な友達を、今度こそ助けたい。
要は右手でぐっと拳を作り、左手でそれを覆った。
「今度こそ、助ける」
自分に言い聞かせるかのように、そう呟くと、祐介の養父にどう接触をするかを考えた。
どう考えても不自然すぎるのだ。
養父に話す度に消える記憶。それも、普通に「忘れる」という類ではない。完全に消去されているのだ。その物自体が、存在しなかったかのように。
精神科医、と聞いたとき、六年前の自分を思い出した。子供の頃に、一時通ったことがある。そこで催眠療法を受けたことを、何となく覚えている。要には催眠は掛からなかった。掛からなかったが、医師が自分の話しを聞いて、信じてくれるだけで、心が安まった事を覚えている。そして、その精神科医は静かに、要の言葉を噛み砕くように繰り返し、時折同情の言葉を思い浮かべる以外、彼自身についての個人的な言葉は、一切見ることも聞こえて来ることもなかった。要を気持ち悪がる人が多い中、その医師だけは、なんの増悪も感じない。その事が要に大きな喜びを与え、生きる力をも与えた。あの精神科医は、何という名前だっただろうか。「神様」と呼ばれていたことだけは、覚えている。もう一度、会いたい気がした。つい数年前まで、母親も世話になっていた。父親に聞けば、名前も病院もどこかすぐに分かるだろ。
そんなことを思いながら、何一つ妙案が浮かばないまま、時間だけが過ぎていった。
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