第32話
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要は祐介のベッドの上に腰を下ろすと、「さて、どうしたのもか」と、腕を組み、唸った。
祐介は、麦茶の入ったグラスを勉強机の上に置き、椅子に座る。
「おじさんに触れさえすれば、なんでお前の記憶が飛んだか、絶対分かるんだよ」
「でも、過去まで遡るとしたら、この間みたいに利き手に触れて、その間は黙ってなきゃいけないんだろう?」
祐介は足を組み、椅子を左右に回転させながら言った。椅子がきいきいと、高い音を鳴らす。
「そういう訳じゃない」そう言うと、要は軽く首を回し息を吐き出すと、麦茶に手を伸ばした。
「どこを触っても、見えるは見えるんだ。ただ、利き手の方が、映像が濃く見えるっていうか。でも、問題はそこじゃなくて」と言うと、麦茶を一口飲む。
「触れてる時間」祐介は呟くように言った。
「そう言うこと」
要は頷くと、グラスを机の上に置き、再び腕を組んだ。部屋の壁に貼られている数枚の写真に何気なく目を向ける。
壁には直接、青空の写真が貼り付けてられている。要は立ち上がり、写真を見た。どれも綺麗によく晴れた青空で、白く眩しい雲が浮かんでいる。
「これ、祐介が撮ったの?」
「うん」
「なあ、なんで空ばっかりなんだ?」
祐介は椅子から立ち上がり、要の隣りに立つと、ポツリと話し始める。
「空をぼんやり眺めるの、結構、好きでね。雲見てると、色んな形に変えるだろ?それで、面白いなあって思った雲を、撮ったんだ」
要は、ふうん、と相槌を打つと、写真をじっくりと見た。そして、若干、眉間に皺を寄せ、首を捻りながら祐介に顔を向けた。
「……どの辺が、おもしろいの?」
祐介は声を出さずに苦笑いをすると、一枚の写真を指さした。
「例えばこれ。この雲、何となくダックスフンドに見えるだろ?耳が垂れて、長い胴体。で、これはアヒル。こっちは、龍っぽいなあって。あ、これは、食パン」
「……食パン」要は噴き出し、「確かに」と言うと、小刻みに頷いた。
その様子を見て、祐介も笑った。
「そうとう、腹減ってたんだな」
「そうかも」
要は、再びベッドに座ると、ふとあることを思い出した。
「なんか、あれに似てないか」
「なに?」
「ほら、心理学でよくある。なんて言ったっけ?だまし絵みたいなヤツ。インクのシミの形から、何に見えるかって」
「ああ、ロールシャッハテスト?」
「そう、それ。人によって、見え方が違う」
「確かにね。前に父さんがこれを見て、何だか色々分析されたけど、真面目に聞いて無くて忘れちゃった」
祐介は困ったような表情で笑った。
「なに、祐介のおじさん、心理学好きなの?」
「いや。好きというより、職業。精神科医なんだ」
要は、はっと顔を上げ、「精神科医……」と口の中で呟くように復唱し、黙り込んだ。何かを考え込むように、片手の指先で自分の唇に触れる。
「催眠術……」
「え?」
要は口元から手を放し、祐介に顔を向けた。
「おじさん、催眠術、得意?」
その質問に、祐介は不思議そうに首を傾け、考えるように視線を下に落とした。数秒考えてから「いや」と首を横に振った。
「父さんは、銀行の健康相談室で働いてるんだ。カウンセラーとして。だから、催眠術とか関係ないと思う。それに、父さんが催眠術の話しをしているの、聞いたことないな」
「そうか……。でも、出来ないとは限らない」
祐介は首を傾げながら、煮え切らない返事をした。
「まあ、その辺は調べれば分かるか」
「で、どうするの?」
「どうしようかねえ……」
要はベッドに腰を下ろすと、そのまま寝転び、天井を見上げて溜め息をついた。
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