第28話
いつも読んで頂き、ありがとうございます。
いつもより少し長いですが、1話そのまま載せます。
よろしくお願いします。
要達はデパートを出ると、どこへ行くときめもせず、なんとなく左の通りへと歩き出した。
祐介は記憶の糸をたどろうとしているのか、真剣な表情で俯き、終始黙ったきりだった。
要はふと、反対側の通りに目を向けた。その瞳の先に映ったのは、歌穂の姿だった。隣を、この間のヴィジョンで見た男が歩いている。腕を組んで、笑いながら要が行く方向とは違う方角へ歩いて行く。
要は歩みを止め、その姿を目で追った。
「要?」
少し先を歩いていた祐介が、ぼんやりした表情のまま振り向き、声をかけてきた。
要は祐介に顔を向けると、生唾を飲み込み「祐介、ごめん。俺、ちょっと用事思い出した」と言った。
なぜか声が上ずっている。
祐介は特別何も聞くこともなく「わかった、じゃあ。今日はありがとう」と言って手を軽く上げると、前を向き歩き出した。
要は「ああ、またな」と祐介の背中に向かって言うと、祐介とは反対方向へ走りだした。
歌穂の姿が見当たらない。
スクランブル交差点へ来ると、人ごみの中に歌穂を見つけた。
要は見失わないように凝視する。歌穂達が待っている信号が青に変わり歩き出した。要は自分が待っている信号を睨みつけた。やっと青に変わると、走って歌穂を追った。
歌穂達は映画館に入って行った。幸い、今流行りの大型映画館ではなく、二種類の映画しか上映していない小さな映画館だった。歌穂好みを考えればいい話だ。こちらに違いないと思ったチケットを一枚購入すると、要は静かに隠れるように映画館へ足を踏み入れた。
ポップコーンや飲み物を買っている二人の姿を見つけ、要は足早にトイレに逃げ込むように入った。
映画上映時間ぎりぎりまでホールでチラシなどを見て過ごし、館内が暗くなってから中に入って行った。
身を低くして、横目で歌穂を捜す。場内にはそれなりに客が居て、二人は真ん中辺りの席に座っていた。
ビンゴ、と心の中で呟くと、要は歌穂たちの席から少し離れた斜め後ろの開いている席に、静かに腰を下ろした。身体を椅子に深く沈め、静かに二人を見る。
映画本編が始まると、いかにも歌穂が好きそうな映画だと思いながら、襲ってくる眠気と戦いながらも、要は目を開いて映画と、二人を見ていた。
映画が終わると、要は益々身を隠す様に身体を低くし、歌穂達が出て行くのを見て、席を立った。
「何をやってんだろ、俺は……」
そう、小さく呟くと、なんだかとても惨めに感じた。それでも、足は歌穂達の後を追い続けた。
カフェに入り、歌穂の好きそうな店を練り歩く。そして、二人は細い通りへ入っていた。
要はその通りの前で足をとめた。
「本当に俺は……なにやってんだよ……」
ぼんやりと二人の後姿を眺める。建物の中に入っていく歌穂の後姿を見るか見ないかで、要は踵を返し、来た道を足早に歩き、その場から離れた。
二人が入っていったのは、ホテルが犇めく通り。
歌穂の腕を掴んで、止めるべきだっただろうか、そんな考えが頭をかすめる。だが、塾講師と一緒にいた歌穂の笑顔を思い出すと、小さく唇をかんだ。
自分の知らない歌穂がそこには居た。見たことのない、はにかむ笑顔や、童心に返ったかのように嬉しそうに手をたたく姿。自分はそんな顔を歌穂にさせた事は一度もない。そう考えると、何もできない自分に虚しさを感じた。
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