第27話(1)
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暫くして、要は身体を起こし、ベンチの背もたれに身体を預けた。
怠そうに身体を投げ出し、顎を上げて空を見上げる。目を開いているはずなのに、辺りは薄暗く、星が瞬くように目の中にチカチカと細かい光が見える。呼吸が落ち着くと共に、目に見えていた星が消え始めた。本物の空の色が視界に入り込み始める。
要は深く息を吸い込むと、姿勢を正してベンチに座り直した。生ぬるくなったコーラを一口飲む。炭酸の泡が喉をくすぐり、泡が胃袋へ収まると、要は静かな声で話し始めた。
「記憶喪失のせいかな、詳しくは見えなかった。事件当日のことは、全く見えない。病室の天井と、知らない医者が祐介の顔を覗き込んでいるヴィジョンが一番古い記憶だった。役に立てなくて、ごめん……」
「いや、そんな……。そうか……。ありがとう」
祐介は心なしか眉を下げ、微笑んだ。そんな祐介を横目に見ながら、要は何かを考えるように腕を組んだ。要の視線を感じ取ったのか、祐介は顔を上げて「本当、ありがとう。疲れさせて悪かったね」と半笑いの表情で言った。本人としては、精一杯の笑顔だったのかも知れない。
要は小刻みに頭を横に振り、口を尖らし低く唸り声を上げると、「あのさ」と言った。
「夢、誰かに話したら忘れちゃうんだろ?今日のも、俺に話したことになるのかな?」
「いや、どうだろう……。なんで?」
「うん。あの夢さ、さっきもちょっと言ったけど、ただの夢じゃないんだよ。お前が実際に体験した記憶が、断片的に見えていたんだ。おじさんは、妄想だって言ったって言ってたけど、妄想と本物の記憶は作りが違うんだ。時々、妄想を本物の記憶として置き換える人が居るけど、俺から見たら、見え方がまるで違う」
祐介は眉を顰め、困惑気味に「どう、違うの?」と質問した。
「俺が見るヴィジョンは、体験者の目線で見えるんだよ。でも、妄想はちょっと違う。例えば……。よくある妄想が、好きな人と一緒に過ごしている様子を妄想する人が多いけど、その場合、妄想している本人の目線以外に、TVドラマみたいなアングルで相手が見えたりする、つまり第三者が見ているような浮遊した目線の二通りが混じってるんだ。つまり、本来の視野からは見えないはずの死角の部分までもが見える、っていう。実際に体験して、この両目で見ている目線であれば、そうはならない。一定した目線。あの現場の記憶は、後者だ。恐怖で瞳孔が揺れて、視点が定まらない様子は、妄想ではないよ」
「じゃあ、僕は思い出していたんだ……。でも、なんですぐに忘れてしまっていたんだろう……」
「口では犯人を捜し出したいと言っているものの、実際は思い出したくないと、心の奥底では願っていたのかもしれないな」
「そんなこと……」
要の言葉を否定しようとした祐介の声は、最後まで言い終わることなく消えた。
「でも」
要はベンチから立ち上がりながら、両腕を天に向けて突き上げた。力強く上げていた両腕を、操り人形の糸が切れたように、ばたりと降ろすと、口角をにやりと上げた。
「何度も見るって事は、捜し出したいって気持ちが勝ってるってことなんじゃねえの?」
その言葉に、祐介はゆっくり瞬きをし、小さく顎を引いた。
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