第26話(1)
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要は口元に残っていた笑みを消し、冷たい瞳を祐介に向けた。探るように尖った視線が、祐介の顔を通り越し、脳裏にまで突き刺さる様だ。祐介はその視線を逸らさずに、見かえしながら言った。
「要が人に触って欲しくないのは、人の記憶を見ると、君に何らかのリスクがあるからだろ?それに、お互い、あんまりいい気はしないもんね」
「……」
「人の記憶を見るのに、どれだけ君に負担が掛かるのか僕には分からない。それでも、見て欲しいんだ」
賑やかな人の笑い声が聞こえてきた。屋上に入ってきた若い女性が二人、ペットショップへ入っていく。店に入った途端、再び静かになった。
「記憶をなくしてるんだろ?思い出したくない記憶だから、今までだって思い出せないでいるんじゃないの?あの血の海のヴィジョンは、単なる夢を見たってだけのものじゃない。ちゃんとした、祐介自身が過去に体験したヴィジョンだった。その記憶の一部を、怖い夢だとお前は言った。思い出してどうする?余計苦しむだけじゃないのか?」
「犯人を知りたいんだ」
要の言葉を消し去るように、祐介は声を上げた。屋上に虚しく響く。
要はさり気なく辺りを見回した。離れた位置にある他のベンチに座っていた数人の客が、訝しげにこちらに顔を向けただけで、要と目が合うと、すぐに視線は散った。
祐介は要から顔を逸らし、前を向いて遠くを見つめた。
「僕は知りたいんだ。僕には両親の記憶が全くない。でも、小学一年まで僕を育ててくれていた彼等が、誰に殺されたのか、僕は見ている筈なんだ。未だに捕まっていない犯人を見つけ出せるのは、僕だけなんだ……。僕だけが、本当の両親を救うことが出来るんだよ」
それきり、祐介は前を向いたまま口を閉じた。要は黙ったまま腕を組み、どこを見るわけでもなく、目の前に見える光景を瞳に写す。
暫くして、要は「分かったよ」と言った。
「ただし。俺も記憶喪失した人間に触れるのは初めてだ。見えるかどうか、正直、俺にも分からない。だから、あんまり期待しないでおけよ」
顔を前に向けていた祐介は、ゆっくりと要を見ると、若干、不安そうな顔で頷いた。
「でも、殺害事件だから、決して良い記憶じゃない。もしかしたら、要の具合を悪くするかも知れない。それでも、やってくれる?」
その言葉に要が一度、深く顎を引くと、祐介は感謝するように穏やかな表情を見せ、口元に笑みを浮かべた。
「じゃあ、早速いきますか」そう言うと、要は自分の服の袖を捲った。
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