第20話(2)
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半分ほど食べると「うまいよ」と、擦れた声で言った。
歌穂は要の仄かにピンク掛かった横顔を見ながら「よかった」と、満足そうに言った。
「おまえ、食べないの?」
「私は軽く食べてきたから平気」
「そう」
要の頭に塾講師の顔が浮かんだが、軽く頭を振って、粥を食べ進めた。
「今日、二戸神くん来なかった?」
「来たよ」
「今日、始めて彼とまともに話したけど、カナちゃんが心許しちゃうの、何だか分かる気がした」
要はちらりと歌穂を一瞥し、すぐに手元に目を戻した。歌穂は遠くを見つめるように窓の外に目をやると、短く笑い声を上げた。
「なに?」
「ううん。何かね、嬉しいなあって思って」
歌穂はそれ以上何も言わなかった。要があらかた食べ終えると、歌穂は冷凍庫で冷やしていた桃缶の桃を硝子皿に入れて持ってきた。歌穂は要に硝子皿とフォークを手渡すと、自分でも桃を食べ始めた。硝子皿に入った桃は、一口大に切られていて、要は適当にフォークを刺すと、それを口に入れた。桃は程よく冷えており、熱を持った喉を優しく冷やしていく。
「私ね。カナちゃんは私のヴィジョン見て、具合悪くしちゃったのかなって、ちょっと責任感じてるんだ」
硝子皿に入った桃をフォークで刺しながら、歌穂は言った。伏せた睫が頬に影を落とし、切なげに見える。要は桃を食べる手を止め、上目使いで歌穂を見ていた。
「何となくだけど。子供の頃から、カナちゃん誰かのヴィジョン見た後って、元気なくなっちゃって。まるで生気を吸い取られたみたいに」
そう言うと、歌穂は小さく笑った。
「寝込んだこともあったじゃない?」
「……たまたま本当に風邪引いただけだ。歌穂のせいじゃねえよ。それに、寝込んだのはガキの時だけだ。今はそれほど柔じゃねえよ」
「そう?」
「あのさ……」
「なに?」
真っ直ぐ見つめてくる歌穂から目を逸らしながら、要は眉を顰めながら訊いた。
「例の講師と、別れるき、ないの?」
部屋の中が妙に寒く感じた。持っていた硝子皿は、先ほどよりも冷えているように思え、沈黙が部屋の中を埋め尽くす。薄暗く、気が遠くなるような静けさ。たった数秒間が、何分、何時間にも思えた。要は耐えられずに「なんてな」と、無理矢理、明るい声を出した。
「そう簡単に別れようとか思えるなら、最初から付き合わねえよな」
それだけ言うと、要は残っていた桃を一気に食べ干した。
「ごちそうさま」
空になった皿をキャビネットの上に置くと、ベッドに潜り込んだ。
「明日は、学校行くから」
くぐもった声に、歌穂は目を上げた。布団を頭から被った要を見て、歌穂は声無く苦笑しながら「明日は学校、休みよ」と答えた。
「ここにお薬とお水、置いておくから、飲んでね」
静かに立ち去る音を、要は目を閉じて耳を澄ませる。歌穂は静かにドアを閉め、部屋を出て行った。
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