第20話(1)
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どのくらい寝ていたのだろうか。インターフォンの呼び出し音で目を覚ました。ベッド脇に置いてあるキャビネットの上の時計に目を向けると、時計の針は午後九時を指していた。この時間にセールスでは無いだろう。今日は訪問者の多い日だと思いながら、ベッドから起き上がった。
インターフォン画面を見ると、歌穂が立っていた。
「なんで……」
要は口の中で呟いた。
「どうしたの?」
しゃがれた声で、画面の中の歌穂に話しかける。
歌穂は要の声を聞いて、一瞬、微かに緊張した顔つきをしたが、すぐにいつもの笑みを浮かべた。
「ごはん、作りに来た」
要は戸惑いながらも、エントランスの自動ドアロックを解除した。
部屋に入ってきた歌穂は、塾帰りなのか制服姿のままだった。
「まだ何も食べてないでしょ?」
歌穂はエプロンを着けると、手際よく準備を始めた。要が「ああ」と小さく返事をすると「だろうと思った」と歌穂は呆れた顔で言った。
「ちょっと遅い時間だけど。何も食べないよりはマシでしょ?お粥、すぐ出来るから」
「……うん」
要は素直に頷くと、ダイニングテーブルの椅子に腰を下ろした。
「どうして……」
要が言いかけると、歌穂は鍋に火をかけながら要の声を制した。
「カナちゃんが風邪で休んでるって、今日、二戸神くんから聞いたの。どうせカナちゃんの事だから、何にも食べないでいるんだろうなって思って来てみたら。来て大正解ね。一週間前よりガリガリだよ。そんなんじゃ、治るものも治らないわよ」
歌穂は子供を叱り付けるような口調でいい、要を軽く睨み付けた。
「別に、全く食べてない訳じゃない……」
その返事を聞いた歌穂は冷蔵庫を開けて息をついた。冷蔵庫の中には何もない。
「どうせ、インスタントラーメンとかじゃないの?そんな栄養価のないもの食べたって駄目よ」
そう言いながら、歌穂は持参した桃缶を冷凍庫の中に入れ、買い物袋の中を漁りながら、手際よく準備をしていく。
「出来たら声かけるから、寝てたら?顔色よくないわよ」
歌穂の言葉に要は頷くと、黙って立ち上がり、寝室へ入っていった。
しばらくして、寝室のドアをノックする音が聞こえ、要はベッドから上半身を起こすと、「どうぞ」と声をかけた。
お盆に粥の入った一人用の土鍋を乗せ、歌穂が寝室へ入ってきた。
「お待たせ」そう言うと、お盆ごと要の膝の上に乗せる。
「ありがとう」
一人用土鍋の蓋を開けると、たまご粥の旨そうな香りが漂った。
「いただきます」
「どうぞ。熱いから気をつけてね」
要はゆっくりとたまご粥を食べた。久しぶりに食べる、誰かの手作りの食事。風邪を引いた事で、両親にも祖母にも、家に来ないように伝えていた。この一週間、まともな食事は取っていない。歌穂の作った粥は、冷え切った要の身体を、芯から徐々に温めていく気がした。
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