第16話(4)
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要は不思議で堪らなかった。
いくら「紙に書いて燃やす」行為をしたところで、全てを消し去ることは出来るものだろうか。どんなに心を閉ざしている人間でも、増悪について多少の「声」は聞こえてくる。だが、祐介からは、何一つ聞こえては来ない。
要は祐介と居ることが楽だった。何かしらの増悪に満ちた人間社会の中、こんなにも、心静かな人間が居るのかと、驚いた。そしてなにより、自分が普通の人間だと感じさせてくれる存在だった。
「二戸神くんと一緒にいるようになってから、一年の時よりカナちゃんの周りに人が集まりだしてる感じだしね」
「あれは、あいつの友達。俺の友達じゃないよ。あいつの周りには、人が集まりやすい」
「またあ、そういう捻くれたこと言って。素直じゃないんだから」
「本当のことだよ」
確かに歌穂の言うとおり、小林と宮崎に絡まれた一件以来、要の周りには、今まで話したことの無かった川崎や中村が寄ってくるようになった。でもそれは、祐介が自分の側にいるからであると、要は思っていた。
要はふと手を止めると、顔を上げて遠くを見つめるように目を細めた。
「あいつは、歌穂や竜太に近いな」
「え?どういう意味?」
歌穂は驚いた顔で要を見つめる。要が洗剤を洗い流し始めると、布巾を持って要の隣に立った。
「歌穂は、俺を怖がらないで居てくれる」
歌穂は気持ちの良い笑い声を立て、「何で怖がる必要があるのよ」と言った。
「俺は、人の心を読む。隠してることを見てしまう」
「触れたら、でしょう?こうして隣に立ってるだけじゃ、読まれないし、見られないじゃない?もしかしたら、私だって、心のどこかでカナちゃんを怖がってるかもよお?」
歌穂は一切悪気も、恐怖心も感じない声で言った。嘘を言っていない、それが冗談であることを、要にもすぐに分かった。
要は小さく微笑むと「まあね」と答えた。
「でも、邪気や憎悪は、触れなくても聞こえる」
歌穂は「そうね」と食器を拭きながら頷く。
「それで?もしかして、二戸神くんに話してみたの?それで、二戸神くんも怖がらなかったって意味で、似てるってこと?」
「いや、話してないよ。歌穂はさ、ときどき、すっんごい勢いで怒ってることがあるけど。まあ、それを口にも出して怒ってるから、心を読むもまでもないんだけどさ」
要は笑いながら言った。歌穂はちらりと要を睨み付けると「ひどい」と呟いた。
「あいつの場合、それも無いんだ。怒ることがないのかと思うくらい、静かなんだよ。憎悪や邪気が一切感じられないんだ。初めてだよ、あんな人間。何も聞こえてこない。誰かといて、何も聞こえないことが、こんなに嬉しいこととは思わなかった。一時でも、自分が普通の人間な気がしてさ」
「何言ってるの。カナちゃんは普通の人間よ」
歌穂は口を尖らせて言い、要は困った顔で微笑むと、最後の箸をすすぎ蛇口を閉め、手を拭いた。
「歌穂だって、ほとんど聞こえないに等しい。それだって、すごいことなのに、全く聞こえないんだぜ?どれだけ心広いんだ、あいつ」
要は楽しそうな声で言った。それを見た歌穂は小さく微笑む。
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