第16話(2)
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ここに暮らすようになって五年。始めの頃は祖母が来ていたが、母が元気になった頃からは、要が留守の間、母が来て掃除や食事の用意をしてくれていた。
高校へ上がってからは、自分でも料理をするようになったが、簡単な物しか作らない。
台所に立っていた歌穂がふと顔を上げたが、要は歌穂から目を逸らすことなく、ぼんやりと眺めていた。
「なに?なにかワタクシにご用かしら?」
歌穂はおどけるように言い、要は小さく微笑んだ。要は歌穂がこうしておどけて言う言葉が好きだった。彼の特殊能力を知っている者は、十中八九、要に見つめられることを嫌がる。そして、要が見ていると気がつくと、必ず顔を引き攣らせ「心、読まれてます?もしかして」と、冗談でも言う口ぶりで言ってみせる。
だが、誰が見たって、誰が聞いたって、冗談ではなく、恐怖心がありありと滲み出ていた。その度、要の心には小さな棘が刺さったが、相手の冗談に付き合うかのように、精一杯の笑顔を見せて「いえ、ガードが堅すぎで見えませんでした」と答えた。それでも、そう言われた相手には冗談に聞こえず、心を読まれたと思うのか、一瞬顔が硬直し、次の瞬間、顔を赤くした。そして、必ずと言っていいほど、要から顔を逸らす。子供頃と違って、今は触れない限り分からないと言っても、誰一人信じなかった。歌穂以外は。
「歌穂がここに来るようになったのって、いつからだっけ?」
歌穂は野菜を炒めながら、考えるように首を傾げ、すぐに「中二の頃からじゃないかな」と答えた。
「調理実習で習った料理をしに来てからだったと思う。ほら、始めて作りに来たとき、鮭のムニエルだったかな?焦げちゃって固くなって、大失敗したときからよ」
歌穂はその当時を思い出したのか、大笑いした。心地の良いソプラノの笑い声が、静かな部屋に響く。
「食べないでいいって言ってるのに、カナちゃん、全部食べてくれたの」
要は黒焦げになった鮭を思い出して、苦笑した。
「そんなこと、あったな」
「あの時、カナちゃん、何て言ったか覚えてる?」
「何か言ったっけ?全然、覚えてない」
要は困った表情で首を傾げた。自分がいった言葉は覚えてはいなかったが、味覚は覚えていたらしく、口の中に苦い味が広がった気がした。歌穂は優しく微笑んで見せた。
「あの時、カナちゃんは、おいしいって言ってくれたんだよ。嘘でも、すごく嬉しかった」
要は微かに目を見開いた。自分にそんな紳士な所があったとはと、自分自身に驚いた。
「そうだっけ?」
「うん。私、それがすごく嬉しくて、次回こそは、本当に美味しいものを食べさせてあげるんだって、思ったんだ」
「じゃあ、歌穂が料理上手になったのは、俺のお陰でもあるんだな」
要が冗談めかして言うと、歌穂は「ありがとうございます」と真顔になってうやうやしく頭を下げる。ふたりの小さな笑い声が、室内を静かに優しく包み込んだ。
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