第10話(3)
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要は小さく数回頷いて、「意外にいいかもな」と答えると、それを見た祐介は、満足そうな笑みを浮かべ、「それはよかった」と深く顎を引いた。
「でも、これでもすっきりしなかった場合は、もう一つ手段がある」
「なに?」
「叫ぶ」
「叫ぶ?」
「そう。こうやって」
そう言って、祐介は口から息を深く吸い込むと、大声を上げた。腹筋を使った太い声が校舎にぶつかりながら、裏庭に響き渡った。
細く、けして大きくはない身体から、思いもしなかった大声が祐介の口から響き渡ったのを見て、要は目を大きく見開いた。
「祐介、おまえ、すごいな。どっからそんな声出してんだよ」
笑い混じりの、親しみのこもった要の声に、祐介は微かに驚きつつも、嬉しそうに微笑んで見せた。要の口は無意識に、自然に祐介の名を呼んでいた。要は祐介だけでなく、誰に対しても目に見えない壁を常に高く聳えさせていた。だが、たった今、「祐介」と名前を呼ばれたことで、祐介に対して、その壁が低くなり、壁の向こう側にいる要の顔が見えた気がした。
祐介は「要も声を出してみると良い」と普段通りの穏やかな声で言った。要は深く息を吸い込むと、祐介に負けないくらいの大声を出した。どこからか、「うるさい」と声が聞こえた。ふたりは顔を見合わせると、声を合わせて大笑いする。何がそんなに可笑しいわけでもないのに、笑いは収まらなかった。要は、自分がこれだけ笑ったのが何時振りなのかさえ思い出せないほど久しぶりに笑ったことに、不思議な気分でいた。長いこと笑わなくても、身体は笑い方を覚えているのだと、嬉しくも思えた。
笑いが収まると、ふたりは教室へ戻った。中庭を通り抜けながら、要は祐介に礼を言うと「べつに。僕もむしゃくしゃしてたし」と、祐介はおどけるように眉を上げた。
「でも、何となく分かったよ。祐介が普段からあまり増悪を感じない理由」
「増悪?なんだよ、それ」と祐介は笑った。
「僕だって、腹立てて悪態着いたりするよ。ただ、あんまり不愉快な気分って、溜めておきたくないのは確かかな。精神衛生上、よくないしね。怒ってると血圧上がるし」
祐介は「血管切れるの嫌だもん」と、本気で言っているのか冗談なのか分からない表情で言った。隣を歩いていた要は、先ほど大笑いしたことで笑いのたがが外れたのか、笑い声を堪えるようにして笑った。教室に着くまでそれは収まらず、要をよく知る生徒が、廊下ですれ違う度に驚いた顔で振り向いていた。
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