第9話(2)
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祐介が要の変わりにコートへ入ると、相手チームはまだ何かを話していた。教師が「早く位置に着け」と声を上げたが、相手チームの生徒は位置に着かず、囁くように何かを話していた。
「お前、あいつに触りすぎだよ」
「大丈夫か?何言われたんだよ」
「……なんでもねえよ。さっさと散れよ」
「じゃあ、なんで震えてんだよ?何か言われたんじゃねえの?」
「うるせえよ!」
体育館中が静まり返った。要に何か耳打ちされていた生徒が怒鳴り声を上げた。顔を赤くし、肩で息をしている。
「なんだ、こいつ」
「心配してやってんじゃねえか」
「頼んでねえよ」
「もう、放っておこうぜ」
生徒が散ると、コートの中には気まずい空気だけが残った。
祐介たちのチームは、目配せしては首を傾げ、我感せず、という態度を取っている。
祐介は、今すぐにでも心の苛々を払拭したかった。この場に紙とペンがあったら、それは簡単なことだったが、何もない。祐介は要の代わりにコートの中に入ると、自分に回ってきたバスケットボールを思い切りゴールに投げつけた。ボールは見当違いの方角へ飛んでいき、誰も居ない場所でバウンドし、転がっていった。
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屋上のドアを乱暴に開けると、足早に金網に近寄り、拳をそれに打ち付けた。緩い手応えで反動が返ってくる。要は、くそっ、と短く悪態をつくと、金網を背にしてその場に座り込んだ。
屋上のドアが開き、ドアの前には歌穂が立っていた。何も言わず要に近寄ると、黙ってタオルを手渡し、隣に腰を下ろす。
「良い天気だねえ。気持ちいい」
雲一つ無い青空を、歌穂は眩しそうに目を細めながら見上げていた。
要は歌穂に渡されたタオルに顔を埋めて消え入りそうな声で一言呟いた。
「……気持ち悪い」
歌穂は横目で要を見ると、「何を見ちゃったの?」と訊ねた。
要は顔を上げ、壁に身体を預けるように寄りかかり、空を見上げた。空の高い位置を、小鳥が二羽、飛んでいる。
「それは、それは酷いものですよ。あいつの素行が悪いって事は、噂で知っていたけど、ここまで酷いとはね」
歌穂は黙ったまま要の言葉に耳を傾けていた。要は再び黙り込むと、微かに顔を歪ませた。そして、詳しい話しをすることもなく「気をつけろよ」とだけ言った。歌穂は「え?」と聞き返すと、要は同じ言葉を繰り返した。
「気をつけろよ。あいつにだけは、なるべく近寄るな」
「私は大丈夫よ。宮崎くん、今、彼女居るし」
歌穂は、要の身体を触っていた宮崎という男子生徒の顔を思い浮かべながら言った。クラスではムードメーカー的存在でもあり、一方、学校外では様々な噂が流れていて、その殆どが他校の女生徒との噂だった。
「関係ねえよ、女が居る、居ないなんて」
要は忌々しそうな表情をし、タオルを歌穂に返した。
「あいつはケダモノだ」
要の一言で、歌穂はおおよその見当がついた。歌穂は小さく息を吐き出すと、「分かった」と答えた。
「気をつける。ありがとう」
「うん」
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