第8話(1)
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いち、に、さん、し、ごお、ろく、しち、はち、にい、に、さん、し、ごお、ろく、しち、はち……
体育館中に気怠い声が響き渡る。祐介は、その掛け声に会わせて、前屈運動をしていた。祐介の背中に手を置くか置かないかのぎりぎりの所で寸止めし、押している振りをしている要が、不意に話しかけてきた。
「なあ、二戸神。俺さ、いっつも不思議に思うことがあるんだけどさ」
祐介は体を前に倒しながら「何?」と返事をした。自力で倒れるところまで身体を前にし、開脚した両足のつま先を触る。
「今みたいにさ、準備運動の時に回数数えるかけ声、なんで、最初はちゃんと1、2、なのに二回目からは2、2、3、4、なんだと思う?」
祐介が立ち上がり、要が座り込むと、今度は祐介が要の背中を押す振りをしようとしたが、要は軟体動物のように、べったりと床に身体を付けた。祐介は押す振りをすること自体を諦め、要の疑問に答えた。
「二セット目っていうことが分かるようにじゃない?」
「じゃあ、三セット目には3、2、3、4になるのか?」
「なんじゃないかな?知らないけど」
「じゃあさ、なんで八までなんだよ。どうせなら、十まで数えろって、思わねえ?」
「知らないよ、そんなの。僕が考えたんじゃないし」
祐介が苦笑しながら答えると、要は戯けたように「つれないねえ」と言って黙った。
二クラス合同で行われる体育の授業では、毎回、生徒たちの前に立ち、柔軟体操の手本を見せている体育委員がいる。彼等は今日も、相も変わらず怠い掛け声をだし、要が不思議がる掛け声をかけ、手本を見せている。要は体育委員の生徒を横目に見ながら準備運動を、そこそこ手を抜いて行っていた。
体育館内にバスケットボールが弾む音が響く中、壁により掛かって自分のチームを応援していた祐介の隣に、他クラスの男子生徒が立った。祐介は気にすることなくコートに目を向けていると、男子生徒が声を顰めて話しかけてきた。
「おまえさ、よく藤森としゃべれるよな」
男子生徒は、冷やかすように言ってきた。祐介は微かに眉間に皺を寄せると、「だったらなに」と不機嫌そうに返し、再びコート内に目を向けた。丁度、要がスリーポイントシュートを投げ、ゴールが決まった。
「ああ、あいつが居ると、下手に近寄れないから不利だよな。触ると殴られるしさあ」
祐介に話しかけてきた男子生徒が大声で言うと、数人の男子生徒が失笑した。
祐介はコートに立つ要を見つめた。要は外野の声が聞こえていないのか、一向にこちらに顔を向けることなく、試合に集中していた。
(誰に何を言われようと、自分の考えは変わらない。藤森はお前らよりも、ずっと良い奴だよ。)
祐介は、コートの中をゆっくりと走る要の姿を見つめながら、心の中で呟いた。
要のことで祐介が他の生徒から絡まれるのは、すでに慣れてしまった。自分が誰と付き合おうが、他人の知ったこっちゃ無いだろう、と言うのが祐介のもっともな意見だった。誰に迷惑をかけているわけではない。むしろ、祐介と一緒に行動することが多くなってからの要は、周りの目から見てもよく分かるほど落ち着いており、鋭かった眼光も、どこか穏やかになってきている。
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