第6話(4)
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要は、自ら家を出て行くことを決意した。父親にその事を告げると、父親は猛反対をした。そして、普段滅多に触れることのない要の身体に触れ、怒りや悲しみやらで赤黒くなった顔を近づけた。
「いいか、要。どんなことがあっても、自分から命を絶っては駄目だ」
どうして分かったのだろ、と思った。その時の父親の「心の声」は、悲鳴に近い声で、泣いていた。そして、家族が楽しく暮らしていた頃の父親の「過去の記憶」が、要の頭に流れ始めた。暖かい記憶で、涙が溢れた。
「お父さん、僕は大丈夫。僕は死なないよ。死なないから。でもね、僕は行かなきゃ。お父さんはお母さんと竜太を守ってあげて。僕は大丈夫。大丈夫だから」
泣きながら何度も何度も説得をした。父親が納得するまで、何度も何度も。要の思いが通じると、父親は要専用のマンションを買い与えた。家から遠い場所ではない。マンションの自分の部屋から、家の屋根を見ることも出来た。なのに、要にとってはどこの世界よりも遠い場所に思えた。
「母さんが元気になるまで、しばらくの辛抱だ。毎日、父さんが行く。おばあちゃんにも来てもらう。ご飯の支度や掃除をしにね。要、私たちは、本当にお前を愛しているんだよ。お前は大事な家族だ」
その時の父親の「心の声」を、要は今でもよく覚えている。口に出した言葉と、何一つ違うことのない、心の底から自分を愛してくれている、本当の言葉だった。
この一年、憎しみと悲しみの声しか聞こえてこなかった父親の心。このたった一言で、要は生きていることを許された気がした。
中学に上がると、TVに出る前まで過ごした小学校の頃の幼なじみだった佐伯歌穂と再会をした。歌穂は父親の出張で引っ越してきたのだと言った。要はあの地獄の日々を思い出し恐れたが、要の過去について歌穂は誰にも口外することはなかった。後に、歌穂を恐れていたことを言うと、歌穂は顔を赤くして怒った。
「私、一度だってカナちゃんを怖がったこと無いでしょう。それに、人が嫌だなと思ってることをしようと思うほど、暇じゃないの」
その言葉を聞いて、よくよく思い返してみた。確かに、歌穂は一度も要を怖がったことがなかった。それどころか、学校中が敵に回っても歌穂だけがいつでも側にいてくれた。気がつけば、今でも側にいる。
一人暮らしを始めて、今年で五年目になる。
死のうと決意してから、五年。まだ生きている。自分を恐れずに側にいてくれる歌穂という存在、そして父親と可愛い弟。五年間まだ一度も会っていない母親も、今は元気だ。要の周りの空気が、少しずつ、幸せだった頃の空気に近づいている。このまま、静かに暮らしていくことが出来れば、他に何もいらない。そう、思っていた。
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