第5話(4)
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「よかったらぁ、私の見てもらおっかなぁ」
若い女性タレントが両手を差し出してきた。
男優の透視が外れたことで、安心したのか、まったく怯えてもいない。
要は無言でその手を取った。
流れてくるヴィジョンに、要はすぐに手を離した。
その速さに、一同目をあわせ、要を見た。
「どうしたの……?」
女性タレントは小首をかしげ、不思議そうな何とも言えない笑みを浮かべて要に訊いた。
「今ので、何か見えたのかな?それとも、私の手、嫌だった?ちょっと、汗ばんでるから」
と、自虐的なことを言いながら笑って見せた。スタジオにも、その言葉で笑いが漏れた。
要は、ごくりと生唾を飲み込むと顔を上げた。
「男の人をムチで……叩いていました……」
その言葉に、スタジオはまたもやざわめいた。
「え……」
女性タレントは笑顔が固まったまま、それ以上声が出なかった。
「なに?ノンちゃん、SM好きだったの?」
と、笑いながら他の出演者が野次る様に言った。女性タレントは、顔を強張らせながら「ええぇ。ないです、ないですぅ。えぇ、なんでそうなるのぉ?ノン、わかんなぁい」そう言いながら、顔を赤くさせ、微かに涙を浮かべた。
「君ね、見えないのに嘘言っちゃだめだよ」
ふんぞり返って椅子に座った年配の俳優が言った。
「さっきから見てれば。どうも、胡散臭いんだよねぇ。君には何がどうやって見えてるんだい?詳しく説明して欲しいもんだね」
すると、その隣にいた煌びやかな衣装を身にまとった女優が「本当ですよねぇ」と頷いた。
「こんな小さな子供相手に言うのは酷かもしれないけれど。嘘はだめよ?その歳で、そんな嘘ついてたら、狼少年になっちゃうわよ?知ってる?狼少年の話」
「この子のお母さんねぇ、だめですよ、こんな嘘つかせちゃぁ」
男優は、スタジオの端に立っていた要の母親に向かって言った。それに対し、母親が何かを言おうとしたとたん、要は俳優と女優の手を取った。
二人のヴィジョンが一気に流れ込んでくる。
手を放すと「おばさん」と、女優に向かってはっきりした口調で言った。
「おばさんって……」彼女は顔を思い切り引き攣らせ、骨ばった額には青筋が立っていた。
「おばさん、人を脅すのはやめた方がいいよ。人をだましてお金取ってるじゃない。それの方が、僕よりよっぽど犯罪じゃないの?それから、こっちのおじいさん」
おじいさんと呼ばれた男優は、大きな目を剥きだして要を見た。
「いい加減、女のひと追いかけるのやめなよ。嫌がられてるの、分かってないんだね」
それだけ言うと、要は身を翻し、今度は霊媒師の前に立った。みな一様に手を隠したが要にはそんな事は関係なかった。有無も言わさず相手の肩に触れると、どの霊媒師が偽物かを言った。唯一、一人だけ、本物の霊媒師が居た。
それが、要を最初に疑った男だった。
「おじさんは、本物だね」
そう言うと、男は若干驚いた顔をしたが、満更でもなさそうに「当然だ」と一言言っただけだった。
要は舞台から降りると、母親のもとへ駆け寄った。
「帰ろう。もう僕の出番は終わったから」
要が母親の手を取ると、彼女から流れ込んできた感情は、悔しさと怒り、そして後悔でいっぱいだった。
「ごめんね、要」
「お母さんのせいじゃないよ。僕が言い出したことだもん」
「要……」
母親の手を引っ張り、急ぎ足で歩く要を抱きしめると、「ちょっと待ってて」と一言いい、母親は一人、スタジオへ戻って行った。
スタジオ内は未だに混乱していた。
出演者、霊媒師は怒りの丈をスタッフにぶつけていた。
「ちょっと、よろしいですか?」
その声に、一斉に話声が静まった。
「うちの子は嘘を言いませんわ。うちの子が嘘だというのなら、みなさんでお調べなさい。そう言うこと、テレビ局は得意分野でしょう?それから」
くるりと向きを変えると、最初に挨拶に来た厭らしい笑みの男を一瞥する。
「うちの子のところ、カットしてください。出演料いただけるって話でしたけど、こんな胸糞悪いテレビ局からいただきたいとは思いませんわ。ですから、カットしてくださいませね。では、失礼」
母親がスタジオを出ていくと、誰もかれも、彼女が去ったドアをじっと黙って見つめていた。
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