第50話(1)
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「カナちゃん」
不意に名前を呼ばれ、要は顔を上げた。
目の前には、歌穂が座っている。
ファストフード店の二階にある窓際の席で、二人は遅めの昼食を取っていた。
歌穂は先ほど見てきた映画のパンフレットを袋にしまいながら、要を軽く睨んだ。
「なんかさっきから、ずぅっと上の空。今日は一日私に付き合ってくれるって言ったの、カナちゃんだよ?なのに、なにその態度。映画館でも爆睡してるし。なんだか私と居るのがつまらないですって感じ」
要は愛想笑いをしながら「悪い」と言い、ほぼ空になっているジュースの紙コップを手に取った。
「つまらない訳じゃないよ。最近、寝不足続きだったから」
「だからって、爆睡って酷くない?」
「ほら、あれだよ。歌穂と居たら、何だか安心してさ。ちょっと、気が抜けて」
要は、へへ、と笑うと、ストローに口を付けた。勢い良く吸い込むと、ごごご、と音を立て、口の中には氷で薄まったコーラが少量流れ込んでくる。
「……そういう言い方、ずるい……」
歌穂は呟くように言うと、仄かに頬を赤らめて目を逸らした。
祐介の件が終わって、一か月が経った。解決したはずなのに、要の心は悶々としていた。そんな時、歌穂から電話がかかってきた。
「先月のお礼、いつしてくれるの?」
要は「お礼?」と聞き返した。
「酷い。たった一か月前のことなのに、もう忘れたの?手伝ってあげたでしょう。CD何枚も聞いて、図書館にも一緒に通って、新聞調べたじゃない」
「ああ、そのお礼か……」
宗介の記憶を見た翌日から、要は歌穂に電話をして、クラシック音楽のCDを借りた。歌穂の持っているCDには、宗介が祐介に聴かせていた曲は見つからず、学校へ行って音楽の教師に頼み、レコードを何枚も聴かせてもらった。曲が見つかると、今度はいくつもの図書館へ通った。
当時の新聞に、事件のことが書いていないか調べるためだ。一人では探しきれなくて、最終的には歌穂にも手伝ってもらったのだ。
歌穂は何の事情も訊かずに、要の手伝いをしてくれた。
「これだけ手伝ってるんだから、何かお礼してよね」と、言われたのを、要は上の空で返事をしていた。
それまで、ずっとぎくしゃくしていた筈の二人は、いつの間にか以前のように自然に接することが出来た。
そして、今日。
歌穂の希望で、一日、歌穂が行きたいところ、したいことに付き合うという事になった。
朝九時半に待ち合わせをし、隣町にある映画館へ行き、映画を見た。と、言っても要は、三時間近くあった映画の、三分の一も見ていない。本編が始まる前には、寝てしまっていた。記憶にあるのは、予告の映像。そして、エンドロールが流れ始め、歌穂にペットボトルで横っ腹を突かれ、目を覚ました。だから、エンドロールの黒い背景に名前が次々と流れる映像も、覚えている。
歌穂は、氷を頬ばっている要を見ながら、小さく息をついた。要はいい音を立てながら氷を囓っている。外を眺めている横顔は、相変わらず美しく、思わず見とれそうになる。
「なんだか、すっきりした顔してる」
歌穂がそう言うと、横を向いていた顔が歌穂に向いた。
「三時間、熟睡したからな」
と、要は歌穂が一番好きな笑顔を向けた。
歌穂は笑いながら「そういう事じゃなくて」と首を振った。
「一か月前までは、もっと辛そうで、切羽詰まった感じだったけど。今日はいつものカナちゃんの顔だなぁって」
「ああ……。それは、合ってるかも……」
要はそれ以上何も言わなかったが、穏やかな表情を見ただけで、歌穂は満足した。
「さて。もう、行こう」
歌穂は立ち上がりトレーを持つと、さっさと出口へ向かった。
要は氷をもう一口頬ばると、容器をゴミ箱に捨て、歌穂を追いかけた。
デパートに入りウィンドーショッピングをする歌穂の後を、要は文句一つ言わず黙って着いて歩く。アクセサリーショップや婦人服の店、ファンシーショップ。女の子が好きそうな店を練り歩いた。
「ちゃんとしたデートするの、初めてだね」
不意に歌穂が言った。要は平静を装ったように「そうだな」と短く答えたが、急に胸の奥が擽ったくなる。先程まで全く意識していなかったが、改めて言われると「そうだ、これはデートだ」と思い、要は何とも落ち着かない気分になってきた。
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