第45話
いつも読んで頂き、ありがとうございます。
※少し長いですが、分割せず投稿します。
一人、亜矢と話し合うためにアパートへ向かっていた宗介は、少し前を、足早に歩く男の後ろ姿が目に入った。
黒い服装に、キャップ帽をかぶったその後ろ姿は、どこか見知った人物のように思えたが、誰なのかは思いつかなかった。
アパートの前に到着すると、足早に先を急ぐ男の後ろ姿から目を逸らし、二階にある一室を睨み付けるように見上げた。
曇った空は、今にも雨が降り出しそうで、宗介の心の中その物のような色だった。
宗介は二階に上がり、「佐々木」と書かれた札が着いたドアをノックした。
少しドアが開いていることに気がつき、「佐々木さん」と声を掛けながら、家の中に恐る恐る入っていった。
中に入り、状況を飲み込む。
先ほどの男の後ろ姿。
あれは、自分の父親だと。
宗介は痩せ細った我が子を抱き上げ、声を殺して泣いた。
そして、ジャケットから携帯電話を取りだし、父親に電話を掛けた。
その顔は、怒りと憎しみに満ちた、鬼のようだった。
宗太郎は電話を切ると、車のエンジンを掛け、パーキングを出た。
頭の中では、今一番にしなくてはいけないことを、素早く考え始める。
宗介の電話で、自分がこれから起こすアクションを、冷静に考えなくてはいけないと、脳が勝手に思考開始した。
自宅からここまでかかった時間を素早く計算すると、車を走らせながら、どこかにCD屋が無いか考える。
来る途中に見かけたショッピングモールを思い出し、そこへ向かうことにした。
しかし、宗太郎はショッピングモールとは反対方向へ車を走らせ、遠回りの道を選んで向かった。
宗介は、全く動かずに重なり合う男女の死体に背を向け、已然、気を失ったままの祐介を抱えていた。
どのくらい時間が経ったのか、玄関のドアが静かに開いた。
人の気配に、ゆっくりと振り向く。
と、同時に、ふと記憶が途切れた。
目を開けると、目の前には宗太郎が立っていた。
「お前はもう帰れ」と、厳しい口調で言う。
室内には、微かにピアノ曲が聞こえている。窓際に置かれたオーディオに目を向けると、そこから音楽が流れていた。
どこかぼんやりとした頭を左右に振り、「いや、俺も居ます」と答えた。
「いい。ここは私が何とかする」
「でも……」
「お前はもう帰りなさい」
「……父さん」
「なんだ」
「祐介は、昨日、俺に二人を殺して欲しいと、言ったんだ。でも、俺はそれを断った……。もし、俺が断っていなかったら、祐介はこんな事をしなかっただろうか……」
「……」
「祐介の記憶を、消してください」
「分かっている」
宗介は小さく頷くと、ゆっくりと立ち上がった。ドアを少し開け、辺りを見回し、誰も居ないことを確認すると、静かに部屋を出て行った。
*******
「宗介さんの記憶からは、あなたを見た記憶が消えている。その代り、書き換えられた記憶が存在している。彼の記憶も、『月光』が流れたら消えるように細工したんですね」
要は宗太郎の丸まった背中を、何の感情もなく見つめた。
宗太郎はただ頷いた。
「手を掛ける前に、話し合おうとは思わなかったのですか」
要の質問に、宗太郎は鼻で笑った。
「話し合って分かるような女じゃない。祐介と宗介を助けるためには、こうするしかなかった」
「あなた程の人なら、法的手段を使えば二人を守ることは容易だったはずです」
「そんな生易しいものではないんだよ。法を無視するような女だ。あの女は法などあって無いような生き方をずっとしてきたんだ。だったら、その生き方を尊重してやろうと思ったまでだ」
宗太郎は声を荒げ、唾を飛ばしながら言う。その両肩は微かに震えている。
「だからって、おじいちゃんが手を汚すことはなかったんだ」
思いもよらぬその声に、宗太郎と宗介は同時に振り向いた。
最後まで読んで頂き、ありがとうございます!
同時進行でbooks & cafeが舞台の現代恋愛小説
『光の或る方へ』更新中!
https://book1.adouzi.eu.org/n0998hv/
「続きが気になる」という方はブックマークや☆など今後の励みになりますので、応援よろしくお願いします。




