第44話(2)
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隣から、乱暴に壁を叩く音が聞こえた。
宗太郎は慌ててテレビを消すと、ゆっくりを目を閉じた祐介の側に近寄った。
閉じた目の前に、手をひらつかせる。
意識はない。
その瞬間、宗太郎はすぐに家に向かわなくてはと思った。
ベートーベンの「月光」が必要だと思った。
この曲を聴いて、記憶が蘇り、自分が犯人だと分かった時を想像した。ならば、この曲を利用し、この曲が流れたら、この事件の記憶は全て忘れてしまうようにすればいいと思った。
カーテンを少し開け、外を見た。人の気配はない。玄関のドアを薄く開け、素早く見回す。
テレビの騒音のせいで、隣近所がこの家に注意を向けている可能性は十分にあり得た。今、ここから動くのは危険だと、充分、わかっている。
それでも、今、動かなくてはいけない。早急に、「月光」が必要だと、心が焦った。
もう一度、外を確認し、誰も居ないと分かると、宗太郎は素早くアパートを出て行った。
アパートから少し離れた住宅街内にあるコインパーキングに着くと、一番奥に止めてある紺色の車に、足早に乗り込んだ。
血の付いた衣類、革手袋、靴、キャップ帽を、予め用意していたビニール袋に詰め込んだ。そして、助手席に置いてあったボストンバッグの中からウエットティッシュを取り出すと、しつこく、何度も手を拭いた。手袋をしていたが、それでも、血が滲みたかのような気がしていた。
バックミラーで自分の顔を確認する。
土気色になっている肌に、デスマスクのように固まった表情。その皮膚に、点々と赤い血が付いていた。ウエットティッシュを数枚取ると、力一杯に擦り落としたが、自分の手が顔に触れているという感覚が無かった。
血を落とし終えると着替えをし、すぐにこの場を離れる予定だったが、ナイフを忘れた事に気が付き、気が動転した。とりあえず着替えを先にしようとするが、全身が震え、着替えもままならない。瞳孔は揺れ、視界が定まらない。それでも何とか着替えを済ませると、突然、携帯電話の着信音が鳴った。
宗太郎は奇声に近い声を短く上げ、震える手で携帯電話を掴んだ。
ディスプレイには、宗介の名前が出ていた。
宗太郎は両目を閉じ、深く呼吸を繰り返し、六回目の呼び出し音で、電話に出た。
「あなたが、殺ったんですか」
宗太郎は固まった。
「な、何の話しだ?」
「あなたが、祐介に催眠をかけて、この人達を殺させたんでしょう」
「……殺させた?」
「惚けないでください。あなたがアパートから立ち去る姿を、俺は見たんですよ」
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