第44話(1)
いつも読んで頂き、ありがとうございます。
【注意】
事件回想のため、犯行シーンを描いております。残虐な描写のため、苦手な方は回避して下さい。
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男はドアの外に立つ宗太郎を睨み付けると、「なんだあ」と気怠そうな口を利いた。
「いま、叫び声が聞こえたんだが」
「知らねえなあ、そんなもん。あんたの空耳だろ」
そう言うと、男はドアを閉めようとした。
が、宗太郎が、すかさずドアに身体を滑り込ませると、男は驚いた顔をした。
しかし、その顔は瞬時に恐怖の色に変わる。
宗太郎は後ろ手にドアを閉めると、手に持ったナイフを男の腹に押し当てたまま、部屋の中へ入った。
男はよろけるようにして後ろ歩きをし、居間の床に尻餅着くように腰を下ろした。
何かを言おうと、口を鯉のようにぱくぱくと動かすだけで、声は出ていない。
居間の隣りの部屋から、何かを叩く音が聞こえている。
「ほら、なに寝てんだ!目ぇ覚ますんだよ!」
亜矢の怒鳴り声が聞こえてきた。
男はぎょろりと見開いた目で、閉められている襖を見た。
宗太郎は表情を変えることなく、ナイフを持った右手を大きく振りかぶり、男に向かって突き刺す。
男は腰を抜かしながらも懸命に逃げた。その拍子にテレビのリモコンに手が触れ、テレビがつく。逃げまどい、手を動かすと同時に、音量のボタンに触れたのか、テレビは瞬く間に大音量で音を鳴らし始めた。
ナイフは男の左足に深く突き刺さる。
叫び声は、テレビの音に紛れた。
「ちょっと!何やってんのよ」
亜矢の怒鳴り声が、宗太郎の耳に届くと、ゆっくりと振り向いた。襖を開けて居間に入いろうとした亜矢が、目を見開いて立っている。
「ちょ、ちょっと……。何なのよ……。なんであんたがここに居るのよ……」
宗太郎は亜矢の後ろに見える部屋に目をやると、畳の上に、意識を失っている祐介が見えた。
その瞬間、宗太郎は我を忘れた。
亜矢の腕を取ろうと手を伸ばすと、亜矢は叫びながら狭い部屋の中を逃げまどった。
居間に逃げた亜矢は、男を盾に身を隠したが、男は亜矢を押しのけ、痛めた足を引きずり逃げた。
玄関に向かって逃げようとした男を、宗太郎は容赦なく背中からナイフを突き刺した。そして振り返ると、亜矢に向かった。
テレビからは、まだ小学生くらいの少女が、淡いピンク色のドレスを着て、ピアノを弾いている。
天才少女か何かだろう。
宗太郎は、そんなことを思っていた。
美しいピアノの旋律を聴きながら、亜矢の、醜く泣き叫ぶ顔を見ながら、ナイフを振り落とした。
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「その時、テレビの中の少女が弾いていた曲が、ベートーべンのピアノ・ソナタ #14 嬰ハ短調、『月光』の三曲目。プレスト・アジタートだった」
「それで、祐介の記憶を消すにも、これを使ったんですか」
擦れた声で聞いた要の質問に、宗太郎は小さく顎を引いた。
「あの時、一瞬、祐介の意識が戻った。視線を感じ振り向くと、畳の上に横になったまま、ぼんやりとした顔で、こちらを見ていた。だが、すぐに目を閉じた。祐介の側に近寄ったが、完全に意識を失っていた。それでも、顔を見られたと思った」
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