第43話(2)
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「もっと前から知っていただろう。亜矢が俺と会ったことを話したと言っていた。知っていてあんたは連絡を寄越さなかった」
「嘘ではない。聞いたのはその時が初めてだった。そもそも、金を渡す変わりにお前の前に二度と現れないことを条件にしていたんだ。その約束を彼女は破り、なおかつお前からも金を要求していた」
宗太郎は震える拳を、ベンチの手摺りに押しつけた。
「……私は興奮して口を滑らせた彼女の言葉を受け流すそぶりをして、なぜ宗介のその言葉を信じたのか訊ねたら、彼女はこう言った。私は宗介のことならよく知っている。あの人は嘘をつくと、必ず耳を触ると言ってきた。その言葉に、私は笑いそうになったよ。随分と古い情報だなと。宗介の癖は、本人も知っていたし、彼女と再会したときには、宗介はその癖を既に直していたからね。彼女は宗介でなければ、他に思い当たる人物は私しか居ないと言った。私は祐介に会ったことも無いと言った。私は彼女の口座番号は知っていたものの、住所までは知らなかった。その時、ふと鈴子さんからの相談を思い出した」
宗介は突然出てきた自分の妻の名前に、目を見張り耳を傾けた。
「最近、土日でも宗介がどこかに出掛けているという話しだ。どこに行くのかも言わず、かといって女の気配はない。自分の考え過ぎなのかと、心配してた。それを思い出し、翌日、宗介の後をつけた。宗介は小さな子供と会っていた。それが祐介であることは、すぐに分かった。二人は何やら真剣に話しをしていた。良く聞き取ることが出来なかったが、一言だけ、良く聞き取ることが出来た言葉があった。祐介が言った、親を殺してくれという言葉だ。宗介が祐介を連れて家に向かった。まさか、殺しに行くのかと思った。急いで後をつけると、アパートの前に辿り着いた。身体中が震えた。もしも、宗介が血まみれで出てきたときには、私が何とかしようと思った。だが、宗介はすぐに家から出てきた。……翌日、宗介が実行に移す前に、私が手を下そうと思った。これ以上、宗介が苦しまないように」
宗介は小刻みに首を左右に振った。
「どうして……」
口の中で囁いた声は、誰の耳にも届いてはいない。
宗太郎は淡々と話しを続けているが、その表情は、精神科医とは思えないほど醜く歪みはじめ、声色も、低く地の底から押し出すような苦しさが混じり始めた。
「翌朝、私はアパートへ向かった。部屋のドアを叩こうとした時だ。大きな叫び声が聞こえた。だが、それもすぐに途切れた。不自然な途切れ方だった。私はドアを何度か叩いた。人の気配は確かにするにも拘わらず、誰一人出てこようとはしない。再びドアを叩くと、見知らぬ男が出てきた」
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