第43話(1)
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宗太郎は要を通り越し、手摺りに両手を置き、街並みを見下ろした。空は群青色に染まり、辺りを同系色に変えようとしている。しかし、闇に抵抗するかのように家々に明かりが灯り、街灯の明かりが道を照らしている。
「以前の君なら、他人の過去には関与しなかった。どんな過去が見えても」
そう言うと、弱々しく笑う声が聞こえた。
「……。祐介は、俺にとって初めての友達なんです。祐介は俺の能力を知っても、何一つ態度を変えることなく接してくれた。……確かに、この話は知らない方が良いことなのかも知れない。それでも、祐介の頼みなら、俺はそれがどんな結果であろうと、本人が望むのなら力になりたい」
「そこまで言うなら、なぜこの場に祐介がいない?私には、ただの好奇心にしか思えない」
要は自分の足下に目を落とし、何も答えなかった。
「まさか、君と祐介が親友になるとは。なんとも皮肉な運命の悪戯だな」
宗太郎はゆっくりと振り向くと、ベンチに置かれていたCDウォークマンを手に取り、音楽を止めた。ゆっくりとした動作でそれを元の場所に置くと、静かに話しを始める。
「君のことは、予めご両親から話は伺っていてね。予約表を見て、君が来る日だと分かったときには、君の言うとおり、自己催眠をかけていた。君に私の全てが見透かされないように。大事な秘密だからね。そして、もう一つ。私は君を恐れていない、と。それはとても良く効いた。君とはほんの数回しか会わなかったが、その数回は毎回ハラハラした。いつ、私の心の砦を破られるかとね。君はもともと心の強い子供だった。普通は簡単に立ち直れない。ゆっくり時間をかけて治療をするものだが、君の場合、家族以外で自分を信じてくれる存在を欲しがっていた。私は君を信じていたからね。たった一人、自分をよく知らない人間が、自分を信じてくれていると言うことが、君にはとても重要な事だったんだ」
要は小さく顎を引いた。
「家族さえ君を認めたくないと拒絶し始めたのが分かり、誰のことも信じることが出来なくなっていた君には、自分の存在を認めてくれる人が必要だった。たった一人でもいいと、君の心は思っていたんだろうね。だから、私が君を認めたことで、君は立ち直る事が出来た。普通なら、もっと多くの人にと、欲を出すが、君は欲深ではなかった。君のお父さんも、同時期にカウンセリングを受けていたことを、君は知らないだろう」
要が目を見開いた。それを見て、宗太郎は柔らかな笑みを浮かべた。
「君はお父さん似だ」
そう言うと、静かにベンチに腰を掛け、一つ、息を深く吐き出す。
「事件が起こる、二日前。佐々木亜矢から私の元に電話があった。金の催促以外でかかってくることはなかった。入金したばかりで、何故かと思っていたが、珍しく金のことではなく、祐介のことについてだった。祐介のことについて言ってくること自体、初めてだったが。……最近、外で誰かが祐介に食事を与えている、と言ってきた。勝手なことをされては困ると言ってな。私では無いと言ったら、彼女は宗介に聞いたが、宗介は違うと言ったと。その時、始めて宗介とまだ接点があったのだと知ったよ」
「そんなはずはない」
ずっと黙っていた宗介が尖った声を出し、宗太郎を睨み付けた。
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