利香視点 1
「ありがとうござましたぁ、またお越しくださぁい」
「じゃあこれから、よろしく頼むよ。また初出勤の日は追って連絡する」
二人が出て行くのを見届けて、ほっと息を吐く。……そこで初めて、自分が緊張していたことに気づいた。
「お疲れ様、利香。すまないね、もう帰るところだったのに引き留めてしまって」
さっきお昼までのシフトが終わって帰ろうとしていた私に、これから新人の面接があるから、良かったら残って見ていかないかと誘ってきた店長は言う。
「いいえ~、暇なのでだいじょうぶですよぉ。というか、私もこれから一緒に働く人が、どんな人なのか気になりますしぃ。……それに、千夏ちゃんのお兄さんって聞いてましたから」
私の頭の中に、さっきまでそこでケーキを食べていた彼女の姿が浮かぶ。
あの中学三年生は、どうにも接し方に困る。
モデル並みのスタイルといい、中学生にして可愛いって言うよりか綺麗って方がしっくりくる子は、中々いない。
彼女は放課後友達とよくこの店に来るけど、そこのテーブルだけ空気が明らかにおかしい。この田舎町の喫茶店が、まるで渋谷の駅前のカフェだ。いや渋谷の駅前のカフェなんて行ったことないけどね。
いつも友達と話すとき、彼女は相槌を打ちながら穏やかに微笑んでいて、深窓の令嬢っていうのはこういう人を言うのかと思っていたけど。
さっきの彼女は普段店に来る時の様子とは明らかに違った。……あんなに無邪気な感じで笑うんだなぁ。普段とのギャップに、思わず私もドキリとしてしまった。
そしてその原因は恐らく、彼女とケーキの食べさせ合いをしていた人。
身長は多分180センチくらいだろうけど、それ以上に大きく感じるほどの巨体。でもあんまり威圧感みたいなのが無かったのは、ずっと柔らかい笑顔を浮かべていたからかな。
「――――あのお兄さんについては、どう思いましたぁ?」
「受け答えもしっかりしてたし、良いんじゃないかな。……ひとまずは、君が色々教えてあげてくれ。何か問題があったら、いつでも言ってくれていいから」
「はぁい。…………ついに私も先輩かぁ。うまくやれるかなぁ」
「おや、柄にもなく自信無さげだね」
むぅ。その言い方。
店長はどうにも、私のことを勘違いしている気がする。
「柄にもなくって……私、ただのか弱い高校一年生の女の子ですよぅ? 年上の男の人なんて、困っちゃいますぅ」
「…………ふむ。じゃあ、君があのお兄さんに対して思ったことが聞きたいな。正直なところを聞かせてくれ」
…………店長の言い方は、ちょっとずるい。私を試すようなその言い方に、つい考えていたことをそのまま口に出してしまう。
「そうですねぇ。良いんじゃないですかぁ? 千夏ちゃんと私達が知り合いだって分かっていたら、そうそう変なこともしないんじゃないかって思いますしぃ。あとは……そうですねぇ、千夏ちゃんとずいぶん仲良さげでしたからぁ、年下には弱いんじゃないかってとこもいいですねぇ。保護欲そそる系女子の私ならなおさらですぅ」
「はは、全然困ってないじゃないか。それに、本当に保護欲を掻き立てるような子は、自分のことをそんな風に言ったりはしないものだよ」
そう言ってぽんぽん、とカウンター越しにこちらの頭を軽く撫でてくる店長の手がなんだかウザかったので、頭を振ってその手から逃げる。
「にしても店長、最初からあの人のこと、採用するつもりでしたよねぇ?」
しかも、特にそれを隠す気もなかったと思う。じゃなくちゃ、シフトのことなんて早々に聞いたりしないよね。
「うん、まぁね。なんか、ビビっと来たって言うか」
その経営者としてはあるまじき適当さに唖然としてしまうけど、似たような感じで採用された私には文句を言う資格は無さそうだった。
「いや、それに彼、料理とか出来そうじゃない? 見た目的に」
私のいぶかしむような視線に流石にそれだけじゃ不味いと思ったのか、ちょっと慌てたように店長が付け加えた。……あんまりフォローになっていない気もするけど。
「あぁ、ちょっと分かりますぅ。ラーメン屋さんみたいな感じですかぁ?」
「そうそう、タオルとか頭に巻いて、職人気質みたいな雰囲気出しても似合いそう」
頭の中で想像してみる。……あ、たしかに似合いそうかも。
「あはは。なんだか、上手くやっていけそうな気がしてきましたぁ。それにあの人――――熊さんみたいで、可愛いですし」




