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僕はバイトを始めた

「ここだよ!」


 妹に案内されながら歩くこと十数分。目の前には落ち着いた雰囲気の喫茶店があった。

 僕が躊躇する間もなく、妹が扉を開ける。チリン、と涼やかな音が鳴った。



---



 店の中には二人の人がいた。

 中央のカウンター席の一つに僕と同じ高校の制服を着た女の子が一人。それとカウンターの向こうに、この喫茶店の制服らしきものを着た綺麗な女の人がいる。


「いらっしゃい、待ってたよ千夏ちゃん」


 綺麗な女の人がそう言って、妹はペコリと頭を下げた。


「いつも利用させてもらっています。今日は急に押しかけてしまい、申し訳ありません」


 妹は口調も大人びて、すっかり余所行きモードだ。見た目も相まって、結構様になるんだよね。


「いいよいいよそんな畏まらなくて。今丁度空いてたから、こっちがお願いしたんだし」


 それにひらひらと手を振ってにこやかに答える女の人は、いかにも出来る大人って感じだ。


「あー、千夏ちゃんだぁ、こんにちはぁ」


 女子高生の方にも妹は無言でペコリと頭を下げた。


「今日はまだ千夏ちゃんの好きなケーキ、いくつか残ってるよ。後で食べて行きな。……それでそっちの人が、千夏ちゃんのお兄さん?」


 ! 話がこっちに来た。紹介してくれた千夏の為にも、恥ずかしい真似は出来ない。


「はい、千夏の兄です。千夏からこの店でバイトを募集していると聞きました。是非、ここで働かせて頂きたいです」


「ふぅん。…………じゃあ、いくつか質問するから答えてくれる?」


「はい」


 今までバイトの経験はあるのか、どれくらいシフトに入れるか、普段学校では何をしているか、などの質問に答える。……なんとか、無難な返事が出来たかな。


「……こんなところかな。利香はどう思う?」


 利香と呼ばれた女子高生はこちらをしばらく見つめた後に口を開いた。


「え~、良いんじゃないですか~?」


「ふむ。じゃあ、合格で」


「えっ」


 綺麗な女の人はあっさりとそう言った。


「良いんですか!?」


 バイトをしたことはないけど、もっと審査とかあるものかと。


「うん。ここは私の店だからね。私が良いって言ったら良いんだよ。……あ、そういえばまだ名乗っていなかったね。店長です、よろしく」


 はいはぁい! と女子高生の方が手を挙げる。


「私は天道利香(てんどうりか)って言ってぇ、ここで春からバイトしてまぁす。あ、高校一年生です、よろしくお願いしまぁす。えっと、千夏ちゃんの二個上って話だからぁ、高校二年生ですよね?」


「あ、うん。そうだよ」


「じゃあ先輩って呼びますねぇ? あれ、でもここだと私が先輩かなぁ?」


「あはは……」


 ぎゅっ、と。

 なんだかマイペースな感じのする天道さんと挨拶していると、服の袖を掴まれた感覚がした。


 この場でこんなことをするのは一人しかいない。僕が天道さんから目を逸らして横を見ると、妹は掴んでいた手を離して、口を僕の耳元に寄せてそっと囁いてきた。


「ね、気に入った? ケーキ食べて帰ろっか」


 耳元でささやかれるのはどうにもこそばゆく、僕が身体を震わせないようにしながら頷くと、妹はにこと一瞬笑い、それからすぐに真顔に戻った。


 ……相変わらず、人見知りだなぁ。

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