僕は花火をした
「え。でも、先生に勧められたって」
「まぁ。それは私があの高校に行ってくれれば、学校としては嬉しいでしょうけどー。……でも、私の人生なのでー。私が決めますよー」
……うん。まぁ、うちの高校だって、一応は県で一番の進学校だ。不足が過ぎるということはないだろう。と思っていると、
「――――早希!!」
突然彼女の名前を呼ぶ声が聞こえて。
見ると、千夏が公園の入り口の立っていた。ここまで走ってきたのか、彼女の息は荒く、頬は上気して、汗ばんでいた。
「私、やっぱりやだよ。早希と離れるの……」
今にも泣きそうな表情をしてそう言う千夏に、早希ちゃんはベンチから立ち上がった。
「千夏、あのね……」
「わからなかったの! 同い年でここまで仲良くなった友達なんて、初めてだったから。早希がそうしたいって言うんなら、応援してあげた方がいいのかなって」
「その話、なくなったんだ。やっぱり私、山桜高校に行くよ」
「でも本当は、絶対同じ高校が良かった! 早希と一緒に高校生活を送りたかった!…………って、へ?」
「ごめん、急に変なこと言い出して。それに、急に取りやめたりして」
「…………………」
早希ちゃんの謝罪と共に、千夏は急に無言になった。
「よ、」
よ? と僕と早希ちゃんが首を傾げる中。
「良かった~~~~~~~~」
言いながら、千夏は早希ちゃんに抱きついた。
その勢いに早希ちゃんは少しよろける。
「本当に良かったよぉー! ……ねぇ、高校に入ったらさ、一緒な部活に入ろうよ! 文化部かな運動部かな? 私たち二人ならどんな部活でだって楽しくやれると思うんだ! 一杯部活をして、一緒に帰って、休みの日には一杯遊びに行って、いろんな話をするの!」
「………うん。うん!」
早希ちゃんは抱きつかれたまま少し苦しそうに、でもその何倍も嬉しそうに返事をしていた。
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「じゃあ今から花火を! したいと思いまーす!」
「「「うぉおおおおおおおおおおお!!!」」」
それから、僕が早希ちゃんと合流出来たというメッセージを送ると、公園に続々と知り合いが集まってきていた。
最後まで屋台を見たい人や、まだお祭りの方で仕事がある人は来てないけど、それを差し引いてもたくさん人が集まっていた。僕の直接の友達は勿論、お祭りの準備を一緒にしていた子供たちや、演劇部の面々もいる。
「おーっす、買ってきたぜ。買い占めて来たぜ」
吉彦と霞も来ていた。吉彦は両手にコンビニ袋を持っていて、そこから花火のパッケージが見えていた。
「暗闇に奔る閃光が、世界に波紋を呼び起こす……!」
花火の種類は霞のチョイスなんだろうな、中身を確かめてはフッと意味深な笑いを零している。多分意味深なだけなんだろうけど、楽しそうで何よりだ。
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早希と千夏が集まった人に花火を配り、受け取った皆は思い思いに集まって夏の醍醐味を楽しんでいた。
公園の中心の方では、霞が花火を両手に持ってくるくると回転していて、吉彦や子供達が歓声を上げていた。
僕はその集団からそっと離れると、公園の端の水場まで移動し、そこにいた男女に声を掛けた。
「お疲れ。ありがとう、さっきは」
「あァ? 何のことだよ」
僕がお礼を言っても、そこにいた男の方――竜一はとぼけた。まぁ、彼は認めないと思っていた。
「何かあったら、今度は僕が力を貸すよ」
「何か、なんてねェよ」
「そうかな? 学校が始まったら、色々変わりそうだけどね」
今日のステージで、竜一に対する見方が変った人はきっとたくさんいる。僕が言わんとしていることを理解したのか、竜一はあー、と手を頭にやって空を仰いだ。
「…………だりィな」
そう呟いた彼の表情は、良く見えなかったけど。声音からしても、きっとその言葉通りの感情だけではないはずなのだ。
大変なこともあるだろう、でも、それ以上にきっとたくさんの良いことがあるだろうから。
僕は彼からそっと視線を外し、この場にいたもう一人に目を向けた。
「……あぁ……私は友達もいませんし、体力もないですから、何の役にも立ちませんでした……もう消えてしまった方がいいのかも知れませんね……」
そう呟いた彼女――凪はどんよりとしたオーラを纏いながら、バケツに蛇口からドボドボと水を汲んでいた。
「先輩にあれだけお世話になったのに……何にもない私って……」
どうやら随分と落ち込んでいる様子だ。どう声を掛けるべきかと思っていると、そこにちょうど花火を配り終えたらしい千夏が通りかかった。
「あ、それ消火用のバケツですか? すみません、助かります」
「……っ、い、いえ、これは知り合いのお店の方に融通してもらっただけなので……」
微笑んだ千夏がお礼を言うと、慌てたように凪は首を横に振った。
表情に未だ気まずさのにじむ彼女に、千夏は笑って言った。
「神社でのことは、本当に気にしないで下さいね。あなたの謝罪は受け取りましたし、私も取り乱しちゃいました。だからもう、水に流しましょう」
「あっ、はい、ありがとうございます……すみませんでした」
いいですよいいえ本当にすみませんでした、と余所行きモードの千夏と、すっかり委縮した凪がやり取りをもう一度繰り返していた。するとヴヴとスマホのバイブレーションが鳴る。
スカートのポケットからスマホを取り出した凪は、画面を見ると僕達にすみません、と一言断わってから通話を繋げた。
「……もしもし、おじいちゃん? ううん、別に怒ってないよ。……お祭り、大成功だったね。おじいちゃんはやっぱり凄い。……って、え? 何で泣いてるの?」
動揺した様子の凪が珍しくて少し笑ってしまう。と、そんな僕達に気付いた凪は慌てた様子で手で追い払う仕草を取った。ほんのりと耳が赤くなっている。
「ちょ、ちょっと、盗み聞きはダメですよ……ううん、何でもないよこっちの話。え、今誰といるかって? …………えっと、先輩達と、早希と、先輩の妹……」
その時近寄った千夏、凪の耳元で何かささやいた。
すると凪がパッと驚いたように彼女を見て、千夏はそんな彼女に向けて軽くウィンクした。それは余所行きというより、いつもの千夏の表情に近くて。
「ううん、友達」
凪はそう言い直した。
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しばらく話をした後、僕は凪たちのところを離れ、公園の隅で一人で夜風に当たりながら考え事をしていた。
「大丈夫ですかぁ?」
「うわぁ!?」
その時、ぴたりと首筋に冷たい感触があって、飛び上がって背後を振り返る。そこに冷えたペットボトルを持って立っていた利香は一瞬きょとん、としていたけど、すぐに笑い出した。
「何ですかその反応……ふふっ。元気そうで良かったですぅ」
隣に座った彼女が両手に持っていたうちの一つをありがたく受け取って、改めて腰掛ける。
「ありがとう……さっきもだけど、なんか心配かけてばっかりで、不甲斐ないや……」
早希を探している途中、彼女にもう休んだ方が良いと心配された。結局僕は彼女を振り切って捜索を続けた訳だけど。
「どうしても花火が終わるまでに見つけたかったから、強引に振り切っちゃってごめん。あと、ありがとう。心配してくれて」
「…………っ、えぇ、まぁ、はい」
何故か少し動揺したように、彼女の肩が震えた。お礼を言うのは変だったかな?
「そのぉ、花火って……例のおまじないですよねぇ?」
「……あ、そういえば、そういうのもあったね」
「………え、忘れてました?」
「うん」
僕が、いなくなった早希ちゃんを急いで追ったのは、このお祭りの一番の目玉である花火を、かけがえのない友達である彼女を含めた、皆で見ようと思ったからだ。
おまじないのことは、すっかり忘れてしまっていた。
おまじない――花火を異性と手を繋いで見ると結ばれる、だっけ。
「……あの中学生、関係ないんですねぇ。はぁ、やれやれ。くたびれ損でした。もう、人騒がせな人ですねぇ」
彼女は、
演劇部の輪の中ではしゃいでいる演劇の先輩達を呆れたような笑顔で浮かべながら近づいていった。
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そうやって花火を楽しむこと、しばらく。
いつしか僕達は何となく集まって、適当な話題で話したり、黙って手元の花火を見たりしていた。
そして夏が終わり、また次の季節がやって来る。
『男として見れないと振られた僕は激ヤセしたんだけど、それから周りの女の子たちの様子がなんだかおかしい』 -完-
-あとがき-
無事、完結させることが出来ました。これも、読んで下さった皆様のお陰です。本当にありがとうございます。途中で何度も更新を止めてしまったことは自分の見通しの甘さが原因と反省しています。
最終話の更新まで間が空いてしまった理由についても書かせて頂きます。
これも自分の見通しの不足ではあるのですが、この話は、自分の想像以上に多くの方に読んで頂くことになりました。それ自体は嬉しいことなのですが、有難くも多くの方から感想を頂くうちに、自分の書いているものが、多くの方に受け入れてもらえるかどうかばかりを考えてしまっている自分がいました。正直、終盤の話を書いている時は、感想の通知には嬉しさよりも怯えの方が大きかったです。自分は以前にも明言した通り、自分の読みたいものを書くために書いています。だと言うのに人の目ばかりを気にし、感想の一つ一つに過剰に反応している自分に失望し、当時はそれ以上何も書く気になりませんでした。
そのような経過があって、最終話の投稿までには少し時間を取らせて頂きました。
当たり前のことですが、読んで下さる方、感想を書いてくださる方、ブックマークや評価をつけて下さる方、本当に感謝しています。今回のことは、全て自分の未熟さが招いたことだと思っています。頂いた感想は、実は余りまだ見れていないものもあるのですが、いずれ確認するつもりです。ありがとうございます。
最終話の後の話も、後日投稿したいと考えています。また、他の話も幾つか頭の中にあるので、いつか書けたらいいと思っています。
改めまして、ご愛読誠にありがとうございました。




