僕はもう間違えない
僕は彼女の方を見た。
「…………っ」
ベンチに座り潤んだ瞳で僕を見上げる彼女は、僕がここに来てからまだ何も言葉を発していなかった。
その潤んだ瞳で僕を睨んだ。
「どうやって……ううん、なんで来たんですかー……もうすぐ花火、終わっちゃいますよー?」
「だから来たんだけど」
「……全然、何言ってるか分からない」
「友達の手を離さない」
それは、この夏休みで学んだことだ。
義彦もそうだし、凪だってそうだ。
最初はぶつかって、傷ついたとしても、僕たちは、
「………いやいや。いやいやいやいや」
僕が黙っていると、彼女は呆れたように呟いた。そしてやれやれ、といった調子で軽い笑みを浮かべた。
「ほんとにもー。確かに、お姉ちゃんと、きちんと関係を修復したのは感心しましたけど、私のは別に、ふらふらだったっていうのもあなたが見た訳じゃないですよね? たまたまそういう風に見えただけなんじゃないですか? ここに来たのも、お祭りの騒がしさに疲れただけだよー」
そういう風に誤魔化されるのはもうこりごりだった。だから僕は彼女の核心を突く。
僕の言葉に、彼女の顔色が変わる。それは多分、彼女のそれなりに大切な部分。
「でも、縁の深さっていう意味なら、僕達にだってあるはずだ」
だからこそ僕は今、自分の切れる最大のカードを切った。
「僕達は五年前の夏に、ここで一度会っている」
公園の地面を踏みしめ、僕は言った。
夜風に吹かれ、公園に植えられた木々がさわさわと音を立てる。
少し年季の入ったベンチに座る彼女と、目の前に立つ僕。
――――かくれんぼは、誰かが見つけてあげなきゃ寂しいでしょ?
あの時とは立場が逆だけど。
彼女は弾かれたように顔を上げ、思わずと言ったように言葉を漏らした。
「気づいてたの……」
力なく下を向くその姿が、あの時の少女と重なる。当時の印象とは随分違うけど、彼女はやはりあの時の女の子だった。子供の頃一日だけ、夏休みを共にした少女。僕が名前も聞かずに別れた少女。自分とは違う強さを見せた、優しい少女。
「正直、最近までは気付いてなかったよ。確信が欲しくて、当時君とよく遊んでいたっていう子達に聞いて回っちゃった」
五年前のあの時、君に会えたから今の僕がある。君に会わなかったら、多分僕は今でも周りを見下した嫌な子供だったと思う。
「まぁ、過去のことが無くたって、君はもう、ただの妹の友達なんかじゃない。そういう態度で接していたつもりだったけど、気付かなかったかな」
「…………で、でも」
「この夏休みもそうだ。丁度この場所で、僕が最も落ち込んでいた時に必要な言葉を掛けてくれたのは、君だった。凪じゃなくて――――他の誰でもなくて、君だった」
僕がこの夏休みで一番辛かったのは、やっぱり吉彦と喧嘩したとき。
何となく上手くやれている気がしていた彼と衝突した時、僕は凪に振られたことも重なって、もうどうすればいいのか分からなくなっていた。
そこに君が居てくれた。
一番欲しかった言葉を掛けてくれた。
「…………っ」
「花火を見よう、この夏の、このお祭りの、この花火は、もう二度と見れない、今しか見れないんだ」
ドン、と大きな音がして、そして最後の花火が上がった。




