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ある少女の結末

少し長いです。


 けれど、幾ら私がそのように落ち込み、世界が終わるかのように感じていたところで、夏の日々は当たり前のように過ぎていく。


 夏休みに入ってすぐに塾の夏期講習に申し込んだ私は、勉強漬けになることで現実を忘れることに執心していた。

 

 そんな時にあの電話を受け取り、先輩との件を否応なく思い出した私は、しばらくの逡巡の末、己の犯した過ちと向き合うことに決めた。


 それが、あの文芸部という居場所を与えてくれた先輩達へのけじめだと思ったから。今更私がどんな顔して会えばいいのかは分からなかったけど、せめて謝罪だけでも伝えたかった。

 

 あの町に戻ることに決めた私は、町内の祭りの準備を手伝いを申し出た。


 そこで先輩が子供達のまとめ役をしていると聞いたというのが大きな理由の一つだったが、家族の役に少しでも立ちたいというのも、私の中に幼い頃からあった嘘偽りない気持ちだった。


 最初私が手伝うことに反対していたおじいちゃんは、しつこく頼むと祭りの二週間前からなら構わないと言ってくれていた。認めてくれたようで嬉しかった。

 帰る日になって、駅のホームで予定の電車を待つ間、確認の意味を込めて家に電話した。


「え? 凪ちゃん何言ってるの? お祭りは今日だよ? おじいちゃんからも、凪ちゃんは当日になるからって聞いていたけど。……もしもし? 凪ちゃん、どうかした?」


 スマートフォンのスピーカーの向こうのおばあちゃんの声が、私の耳を通り抜けていった。


 私はおじいちゃんに嘘を吐かれていた。



---



 私はどうやら、最早家族にさえ必要とされない人間らしかった。

 胸にぽっかりと空洞が出来てしまったような喪失感。

 やがてホームにやって来た電車の前で立ち止まった私を、駅員が怪訝な顔で見ているのが分かったので、機械的に足を動かして車両に乗り込んだ。

 

 ガタン、ガタンと列車は少しずつ見慣れた景色へと私を運んでいく。

 夕陽の差し込む車内は比較的空いていたが、浴衣を着た乗客が目についた。

 祭りに向かう人だろうか、彼らは楽しそうな様子で同伴者たちと話をしていた。


 私の予想通り彼らは私と同じ駅で降車した。


 ホームに降りたまま動かない私の前を多くの人達が通り過ぎていく。


 今日は祭りの当日。

 ……おじいちゃんがせっかく準備した祭りなのだから、顔くらいは出すべきだと思った。

 私はのろのろと、ここで降りた乗客たちの中で最後に改札をくぐった。



「――――ひっでェ顔してるじゃねぇか。せっかくの綺麗な顔が台無しだぜ?」



 そんな私を迎えたのは、予想だにしない人物だった。

 女の私でも羨むような細身の体躯に整った顔、剥き身のナイフのようにぎらついた眼光。

 私のもう一人の先輩は、改札を抜けた先の広場で私を待っていたらしい。


 どうして、竜一先輩がここにいるのだろう。

 私が今日ここに来ることを彼にも、彼の知り合いにも伝えた覚えはなかった。


 呆然としながら私がそう思ったのが顔に出ていたのか(表情が薄いとよく言われる私だけど、この人は私の表情を読むのが上手かった)、彼はああ、と納得したように言った。


「祭りで知り合った、三国早希って奴に聞いた。親戚なんだろ?」

 

 全く接点の無かったはずの二人がいつの間にか繋がっていたことに驚く。


 そして私を置いて、世界は当たり前のように回っているということを実感する。

 例えばそれは、体調不良で休んだ日の翌日の教室の雰囲気。世界から切り離されたような孤独感。

 

 彼はそんな私に構わず話を続け、

 

「…………全部聞いた。振ったんだってな、あいつのこと」


 そう、言った。

 驚きはなかった。

 私は彼を振ったことを誰にも話していなかったが、彼がこの人に打ち明けるだろうことは想像に難くなかった。


「………………はい」


「…………ッたくよォ」


 ぼやきながら近づいてきた竜一先輩がすっと私に向かって手を上げ、私は思わず目を閉じた。


 はたかれる、と思った。

 でも、それは当然だ。彼にはその資格がある。

 彼にとっても、あの場所は大切だったに違いないから。それを壊した私は、何をされても文句は言えない――――。



「まァ、大変だったな」



 私は、頭を撫でられていた。


 ……訳が、分からなかった。


「なん、で。そんな優しくするんですか。私、先輩を傷つけて……」


「……あいつは確かに傷ついただろうが、俺からすればどっちもどっちだったと思うぜ。あいつの想いに応える覚悟もなくただ悲劇のヒロインを演じて逃げたお前も、お前の中にありもしない幻想を見つけた気になって、人との距離の詰め方も分からず、それで結局告白したあいつもな」


 私は恐らく、到底納得出来ないという顔をしていたのだろう。

 彼は私の顔を見ると苦笑した。


「……それによ、別に良いじゃねぇか。俺達はもともと、学校に馴染めない自分勝手な連中の集まりだったろ。なら勝手な思いをぶつけたのもお互い様、傷ついたのもお互い様だ。それなら、俺はタメの男より可愛い後輩の肩を持つぜ」


 叱って欲しかった。

 嫌いになってくれてたら楽だったのに。

 胸の内で荒れ狂う感情を抑えきれず、ついに私は生涯誰にも言うまいと決めていたことまで口に出す。


「あの、私実は、先輩とお近づきになりたくて文芸部に入ったんです」


「あァ、そうらしいな。俺に惚れちまったか?」


「いえ、財産目当てです」


「…………はははははははは! 三国お前、やっぱ面白いよ!」


 軽蔑されることを覚悟して言ったのに、何故か先輩は大笑いしていた。



---



「ヒヒっ………あー、笑った笑った」


 彼はしばらくして笑いを何とか、というように収めた。

 私は彼に向き直り、頭を下げた。普段はしないくらいに深く。


「本当に、申し訳ありませんでした。あの場所を壊してしまって」


 私が真剣に謝罪しているのが伝わったのか、彼は口元から笑みを消して言った。


「――――あの部活は無くならねェよ。俺があいつを絶対に引っ張って来るからな」


「!! そう、ですか」


 素直に羨ましく思った。

 ここまで想ってくれる友人が、私にこれから先出来るとは思えなかった。

 ……そして多分私の思い違いでなければ、あの日私があんなことをしなければ、私のことも同じように想ってくれていただろう。


「……………ッ………!」


 不意にもう戻らない日々のことが頭をよぎり、感情が溢れそうになる。

 泣いては駄目だ。私にその権利はない。

 そう思い、零れそうな涙を必死に我慢する私を見て、先輩は笑った。



「おいおい、何泣いてんだ馬鹿だなァ。三国、お前も一緒に来るんだよ」



「…………え、」


「今更お前がいなくなったら物足りねェよ、だから誘ってンだろ。じゃなきゃこんなとこまで呼びに来たりしねェよ。……何度すれ違ったり、クソみてェな感情押し付け合ったって、そのたびにまたやり直せばいい。思い出すだけで死にたくなるような恥ずかしい思い出だって、いつか笑って話せる日が来るさ」


「………ッ!……」


 …………本当に、この人は。

 他人に見くびられないように孤高を気取ったこの人は。

 人付き合いが苦手で、それでも人と関わることを諦めないこの人は。 

 私と似た部分を持ちながら、私よりもずっと先を行くこの人は。


 再び頭を撫でながら言われて、私はぐちゃぐちゃになった顔を見られないように下を向いた。


「……ありがとうございます」


「うわ、お前が素直に礼なんて言うのなんか気持ちわりィな」


「余計なお世話です。……手、退けてください。セットが台無しです」


「おーおー、そいつは悪かったな」



---



 初めて見た先輩の妹は、とても綺麗で、そして大人びた子だった、あらかじめ早希から話を聞いておかなければ、とても自分よりも年下には見えなかった。

 きっと学校ではかつての私と同じように、とても異質な存在なんだろうなと容易に想像がついた。

 そして少し親近感が湧いた。先輩だって私と理由は違えど、学校で浮いた存在だったからあの部室が居場所になっていたのだし、その妹である彼女も、どこかで欠けた部分があるのではないかと思った。

 けれど、彼女の眼を見てすぐに分かった。分かってしまった。

 桐山千夏は完璧だった。


 恐らく自分と似た境遇にいたであろう子が、こんな風にまっすぐに成長して私の眼の前にいることに、何も思わないではいられなかった。

 私は、誰とも上手くいかずに、どこにも居場所が無い。あまつさえ、ようやく見つけた居場所を自分で壊してしまったというのに。

 彼女の在り方そのものが、私の心の弱い部分を刺激した。


 彼女は、先輩のことを守るように立ち、私に敵意を向けた。でもそれは当然で、客観的に見れば私は、気持ちを踏みにじった相手の傍に、平然といる女なのだ。

 それらをまとめて理解させられた。

 

 ひどく惨めだった。涙が出そうだった。今すぐ、膝を抱えて座り込んで、喚き散らしたかった。だけど、それを表情に出すことだけはかろうじて堪えた。

 今まで生きてきた中で身に着けたそれだけが、私に残された唯一の盾だった。

 

 言葉は出てこなかった。


 会ったら、まず初めに先輩に謝ろうと思っていたのに、もう、何も分からなくなっていた。

 あとにはただ、ちっぽけなプライドだけがあった。

 決して屈しないと、口は勝手に回っていた。それが私の処世術だったから。



---



 凪が、泣いている。


「……夏休み前、最終日のあの日」


 ぼそりと彼女は言った。

 それは勿論、何を指しているか分かっている。

 僕が、彼女に告白した日だ。


「あの日、私はとてもひどい言い方をしました。ごめんなさい」


「……いや、僕の方こそ、ごめん。唐突だったし、怖かったよね」


 思い返す。

 ほんの一月ほど前のことだというのに、随分昔のことのように感じられる。

 それだけ、この一月が濃密だったということなのかもしれない。


 彼女の味方になりたかった。

 それは、告白をしたあの時から変わらない気持ちだ。

 不器用で、どこにも寄る辺が無い、今にも砕けてしまいそうな彼女の、安心になりたかった。

 それをどうにか伝えたくて、あの時僕は告白という形を選んだ。

 それが最も、手っ取り早くというと語弊があるか?

 確実に、率直に、彼女との関係の特別性を、信頼と友愛を伝える表現だと思ったからだ。

 しかしそれが、彼女にとって逆効果だったのだろう。

 思えば、彼女は多くの人間から告白され、その全てを拒絶している。

 だから彼女は男女交際自体に忌避感があったのかもしれないし、そうでなくても、唐突な感は否めなかった。

 それにこの行為は見方によっては、彼女にとって、(僕の傲慢でなければ)少なくとも学校内では唯一の居場所であっただろう部室を人質に取ったようなものとも取れる。

 無論僕にそんなつもりは無かったが、しかし受け取り方次第だ。


「……やめて、下さい」


 凪が首を横に振った。


「優しくしないでください。こんな私に、何も出来ない、人を傷つけることしかできない私に」


「あれは、私を、助けようとしてくれたんですよね?」

 

 彼女が口下手なことは知っていた。


 頭の回転が遅い訳ではなく、むしろ格段に速いことは彼女の成績を見れば一目瞭然ではあるが、それでも彼女は人とのコミュニケーションを取るのが苦手らしい。


 加えて彼女は敵意に敏感で、他者を攻撃することで自身を守ろうとする。

 実際、僕は彼女が学校で誰かと親しくしているところを見たことが無い。

 だから僕くらいは、彼女の味方でいたかった。


 ……それに、僕が彼女の肩を持つのはもう一つ理由がある。


 聞いた限り、彼女のこれまでの境遇は、千夏に少し似ていると思ったのだ。


 高い能力と綺麗な容姿を持った、普通の少女。千夏は上手くやれているみたいだけど、それは千夏が器用だったからで、多分凪は、それほど器用じゃなかった。

 だからこの少女は僕の妹に有り得た未来なのだと思うと、どうしても嫌いになることは難しかった。


 僕が隣の少女に向けて右手を差し出すと、彼女のその琥珀色の瞳が驚きに開かれ、また泣き出しそうにくしゃりと歪んだ。

 その後、ゆっくりと、迷うように伸ばされた手を取って、僕達は再びの友好を誓った。

 すっかり陽の沈んだ空を見上げると、僅かに星が見え始めていた。



---



 そうして、凪と一応の仲直りを果たした後。

 

「でも、話はそれだけじゃないんでしょ」


 僕が言うと、隣に座る彼女はピクリと僅かに肩を動かした。

 どうやら当たりのようだ。竜一も驚いたような顔をしているので、彼も知らなかったみたいだ。


「……いえ、あの、でも先輩に話すようなことでは。それに、これ以上迷惑掛ける訳には……」


 彼女が言いにくそうに辺りに視線を散らしたが。


「話してみなよ――僕は先輩だからさ。後輩に何か悩みがあるなら、力になるよ」


 すると、彼女は今度こそ本当に驚いたように目を見開いた後、


「……先輩は凄いですね、本当に」


 と、観念したように呟いた。



---



「……先輩は、このお祭りの準備に、私が参加していなかったことをご存知ですか?」


 無論、知っている。

 彼女の祖父に会った時から、もしかしたら準備の間に何処かで会うんじゃないかと予想していた。しかし、実際は彼女に会うことは一度もなかった。――ただの一度も。

 その理由を、僕は彼女の口から聞いた。



「……私は祖父から、今年の祭りは例年よりも二週間遅れると聞かされていました」


 ジリジリと鳴く辺りの虫の声が強まったように錯覚する。

 ……当然、そんな事実はない。お祭りは例年とほとんど同じ日程で行われている。

 つまり、彼女の祖父は凪に嘘を吐いていたということになる。


「私が帰るのはお祭りの二週間前、ということになっていました。お祭り自体に興味はありませんでしたが、例年お祭りの準備は直前が忙しくなりますからね。祖父は渋い顔をしていましたが、私は必ず準備を手伝うつもりでした。ところが戻る予定にしていた日――つまり今日ですね――に祖母に連絡を入れてみれば、驚いたような声と共に、今日がお祭り当日だと聞かされました」


 彼女はその時、何を思ったのだろうか。


「大方、私のことを思ってのことなのでしょうが。それでも、私は役に立ちたかった。そもそも本当に私にその意思があったなら、気付けたはずの嘘だと思うんです。それなのに私は、何をしていたんでしょうね……大変なときには何も気づかず、独りよがりに勉強をして、これっぽっちも役に立たない。本当にどうしようもない」


 ……………。

 これだけ弱気な発言をする彼女を見るのはこれが初めてかもしれなかった。


「……ごめんなさい、悩みというか、懺悔と言うか。こんな話、聞いてもらったところで困りますよね」


 申し訳なさそうに言った彼女は、ああそう言えば、と話を変えた。


「聞きましたよ、先輩が子供達をまとめていたらしいじゃないですか。流石ですね」


「私がこの夏休みに必死になってやっていた勉強も、先輩は同じくらいはできますし。……ああ、これは嫉妬じゃないです。純粋な賞賛ですよ」


 凪が珍しく僕のことを褒めているというのに、なんでだろう……全然嬉しくなかった。

 それは彼女が、とても悲し気な表情をしていたからだろうか。


「祖父も先輩のことを褒めていました。とても気に入ってるみたいでした。……私は、手伝いすらさせてもらえないのに。あの人に認めてもらいたくて、私は頑張ってきたのに」


 淡々とそう話し終えた凪は、夜の暗闇に今にも溶けて消えてしまいそうに見えた。

 ……でも。

 

「……なんだ、そんなことか」


 彼女の悩みと言うのを聞き終えた僕は、少し拍子抜けした気分だった。


「……そんなことって。確かに、私の下らない意地かもしれませんが」


「君は多分、勘違いしている」


 彼女の実家に行った時のことを思い出す。


『こぉんな仕草で、おじいちゃんは無理しないでなどと言って――』


『最高の祭りにしよう。さっきも言いかけたがの、孫の為にも成功させたいんじゃ』


「……君のおじいさんは、君を認めていない訳じゃない。ただ、まだまだ孫に助けられるほど弱ってないんだって伝えたかったんだと思うよ」


 僕は立ち上がり彼女に向けて手を差し出したが、凪は困惑した表情のまま自分で立てます、と拒否した。彼女が立ち上がるのを待って、二人で参道を歩き、石造りの階段の近くまで歩く。


「君のおじいさんが見せたかったのは、この景色なんじゃないかな」


 挨拶に行った日に感じたあの人の人柄と、取った行動から推察するなら。

 あの人が例年と異なる二つの商店街との合同の夏祭りを押し通したのは、孫である彼女の為だったんじゃないか。だとするなら、今眼下に広がるこの景色は――――。


「君だけの為に光らせた世界だよ」


 すっかり陽の落ちた世界で、整然と並べられた提灯が煌々と明かりを灯している。眼下には通りを賑わう人達の姿が見えた。走り回る子供。連れ立って歩く夫婦。騒がしい若者の集団。誰もが、笑顔を浮かべていた。


「……私だけって、そんなわけないです」


 隣から呆然とした声が聞こえた。


「そんなに的外れでもないと思うけど。あの人、僕が前会った時は君の話ばかりしていたし。君が如何によくできた子かって話」


「……! ……嘘、です。私はあの人に何にも返せてなくて……」


「嘘じゃない。なんだったら、あとで一緒に聞きに行こうか」


 そう言って隣を見ると、いつの間にか彼女は顔を俯けていた。

 僕は彼女の表情を見てしまわないように、ただお祭りの景色を眺めていた。



---



 このあとどうするの、と先輩に問いかけられる。


「先輩の妹さんに、謝ってこようと思います」


 私が言うと、先輩は少し驚いたような顔を浮かべていた。同時、何故かほっとしていたようにも見えた。


 攻撃されないようにと願いながら、いつの間にか相手を傷つけることが目的になってしまっていたのかもしれない。

 傷つけられる痛みを、身を以て知っていたはずだったのに。

 今更謝ったところで私のしたことが消える訳じゃないけど、それでも謝らないよりはずっとマシなはずだ。


「……君からそんなことを言い出すとは思わなかった」


「……先輩だって、本当は怒ってますよね?」


「まぁ、それなりに腹を立てていたのは確かだね」


 先輩はあくまで軽い口調でそう言ったが、彼の纏う雰囲気からして、恐らく先輩は相当怒っていたようだ。…………危ない所だった。


 謝ると言い出していなかったら多分、私は見放されていたんじゃないか、と思った。

 先輩に見放される未来を想像して、背筋が凍った。

 一度は失いかけた私のただ一つの居場所を、もう二度と失いたくない。



---



「……君は、弱くなんかないよ。そうやって思える時点で、君は十分に特別な女の子だ」

 

 私が顔を上げると、先輩は感心したような顔でそんなことを呟いていた。


「……特別、特別ですか」


 彼の言い回しに、つい笑ってしまう。この私が、特別?


「さっきの彼女と比べれば、私なんて、取るに足らない普通の女の子ですよ」


「……千夏のこと?」


 私は先輩の問いに静かに首を振った。

 違う。彼女は確かに強くて綺麗な女の子だけど、その中身自体は理解できる。

 特別というのは、違うのだ。

 届かない、自分とは根本的に違うと思わされるような存在。

 私はその存在をずっと子供の頃から知っていた。だからこそ、自分は凡人なのだと理解していた。

 詰まるところ、その少女とは――――

 

『…………あー、テステス』


 その時、ザザ、と音がして拡声器を通した音声が耳に入って来て、神社にいた私達は顔を見合わせた。

 どうやらお祭りの会場で流れているアナウンスがここまで届いているらしい。


『あ、OK? よし、じゃあ、ごほん。……えー、自分達の店で配っていたクイズ大会の優勝者を発表します。』 


『いやー、これ、相当難しい問題も載せたんですよ。正直、優勝者でも正答率は半分くらいかなって思ってたんですけど』

 

 ちょっと、今はそういうのいらない! とスピーカーの向こうでマイクの主が怒られ。へいへい、と彼はその続きを口にした。


『えー、驚いたことに、全問正解者が出ました。クイズ大会優勝者は』




『三国早希さん』




 それはまさしくこの町に住む、特別な少女の名前。

 

 神社を囲う林が、夜風に吹かれざわざわと音を立てて揺れていた。

 


 更新が遅れ申し訳ありません。また感想の方も返すことは出来ていませんが、全て読ませて頂いています。いつもありがとうございます。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] 更新が止まったところで読むのをやめた方が良かったと思ってしまいました。 あまりにも理解不能。嫌悪感しか湧かない。 作者さん、あなたは自分の作ったキャラは絶対に自分の思った通りになってい…
2021/08/30 16:48 あいうえお
[一言] >「……あいつは確かに傷ついただろうが、俺からすればどっちもどっちだったと思うぜ。あいつの想いに応える覚悟もなくただ悲劇のヒロインを演じて逃げたお前も、お前の中にありもしない幻想を見つけた気…
[気になる点] 竜一が1番幻想の中で生きていると感じました [一言] 謝罪受け入れても文芸部は地獄に変わりないどうなっていくのだろう…
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