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僕は円陣を組んだ

 多くの観客たちの拍手と歓声が溢れる中、会場アナウンスが告げる。


「――ありがとうございました! 素晴らしい演奏でしたね!」


「続いての出演者は……」



---



 服屋で利香に指摘された通り、竜一の為、というのを演劇部のステージに参加する条件を呑んだ時に考えていたのは本当だ。

 竜一の、恐らく何らかの過去の経験に端を発する異常なまでの自己評価の低さ。

 正確には、自分の能力には自信があるが、他者からの評価を極端に低く見積もる性格のこと。

 それは謙虚と言い換えることも出来るかもしれないけど、僕は竜一には日の当たる所で輝く資格があるし、そうするべきだと思ったのだ。そしてこのステージはそのきっかけになり得るとも。


 だから僕はステージで何をやるか考えた。

 竜一と二人だけで何かをする、というのは考えれば考えるほど、困難な気がした。

 僕と二人となると、確実に観客の視線は華のある竜一に集中する。それは今まで目立つことを避けて来た彼にとって負担になる可能性があった。仮に失敗してしまった時の竜一の心情を考えても、二人というのは避けておくのが無難だろう。

 

 では、誰を誘うか。

 竜一は勿論、僕も誰とでも気が合うタイプの人間じゃない。

 完全に初対面の人間と今から仲良くなる、というのも難しいだろう。

 そうやって考えていった時、僕の頭には二人の人物が浮かんでいた。



---



 冬二が俺をステージに立たせようとしているのは分かっていた。こいつはずっと俺をもどかしそうに見ていたから。もしかしたら、と思う自分も確かにいた。だけど、その度俺は自分を慌てて押しとどめた。期待しても、裏切られるだけだ。

 だからこのステージが上手くいったとして、俺は、自分が人気者であるなんてことを受け入れるのは難しいだろう。

 だけど、それでもいいと思った。冬二と、それと他の二人とのステージに向けた練習は楽しかったから。自分と似た境遇の奴らと、同じ目標に向けて取り組むということがこれだけ愉快なことだとは思わなかった。

 冬二は俺に何か変化を期待しているのかもしれないが、その期待には応えられないかもしれない。だって、俺の願いはもう、叶っているのだから。



---



 自分がステージに立つことなんて一生ないと思っていた。


 それは憧れが無かったって訳じゃない。

 ただ、皆と上手くやれない自分には出来っこないと、諦めていた。


 顔もイケてないしな。

 あーあ、なんで俺の周りの奴らはあんなに顔整ってんのに、揃いも揃って控え目なんだろう。もし俺があんなだったら、今頃やりたい放題やって人生楽しんでただろうに。自分に自信があって、性格もこんなに捻くれてなくて、友達もたくさんいたかもしれない。考えれば考えるほど虚しくなる。実は眼鏡外したらイケメンとかいうありがちな設定が俺にも欲しいだけの人生だった。

 

 ……あぁ、でも。

 そうしたら、夏休みにあいつらと会うことも無かったのかな。

 じゃあこれで良かったか、なんて少しだけ思ってしまった自分にショックを受ける。

 世の中の不平等を嘆いて生きて来た癖に、今更ちょっと友達と上手くやれたからそんな風に思うって、どんだけ単純なんだ、俺。


 そんな単純な俺は、冬二にステージを誘われて即行OKした。

 君とやりたいんだ、なんて口説き文句で簡単に落とされちまった。失敗したら一生恨む。友達にお前の悪口あることないこと言いふらすとここに誓う……って、俺そんな友達いなかったわ。


 遥か昔に諦めたと思っていた夢、だけどずっと憧れは心の何処かにあった。そもそもよく考えてみれば、もう今の俺に失う物なんてなかったわ。クソダサい勘違い野郎と罵られても知ったこっちゃない、俺達の叫びを聞かせに行こうじゃないか、クソったれ。



---



 私はこの変に賢しらぶった振る舞いのせいか、いつも傍にいるのは家族と冬二か千夏、それに早希さんくらいだった。十分に恵まれているとは感じていたが、同い年の友人が欲しいと思ったことがなかったと言えば噓になる。


 そして最近、その貴重なチャンスがあった。


 祭りの準備を一緒にしていた女の子達に、遊びに誘われたのだ。彼女達は同じ中学だったけど、この準備が始まるまで話したことはなかった。だけど少しずつ話すようになっていって、最近遂に彼女達から誘いがあった。


 嬉しかったのは本当だ。

 でも気付けば、私は断っていた。


 ステージの練習があったから。そのステージは、冬二に誘われたものだったから。それだけの理由で私には十分だった。彼に事情を話したら、きっと自分のことはいいから彼女達の方に行けと言っただろうけど。


 彼は何にも分かってない。いつも正しいことを言うようで、的外れなことばっかり言ってる。

 優しいようで――――人の気持ちに、余りに鈍感。

  

 自分が馬鹿なことをしているのは分かっている。

 叶いもしない初恋を捨てきれず、未練たらしく引きずって。彼が自分を幼馴染以上に見てくれたことなんて一度もないし、きっとこれからもないのに。自分で自分を傷つけているようなものだ。

 それでも、彼と過ごす時間は特別だった。いつか手の届かない遠くへ行ってしまう彼の心に、少しでも寄り添っていたかった。


 私はきっとこの夏を後悔しない。胸を張って言おう、私にとっての青春は、今なんだ。



---



 ――ステージ後方、楽屋裏。


「いやー、凄い歓声だったね。……今の観客の様子を見れば分かる通り、多分僕達に期待している人はそんなに多くない。こんなところに僕達が出て行ったところで、なんか最後によく分かんない変な人達が出て来た、ってなる可能性は高い。とはいえ――」


「――とはいえまぁ、それはおおよそ常と変わらない。そうだろう?」


 隣に立つ少女が彼女らしくフッと笑みを浮かべた。流石この幼馴染は、僕の言わんとしていることなんてお見通しらしかった。


「なんだか因果を感じるね」


「いや、因果は別に感じないだろ。意味もなく意味深な言葉を吐くな。……はぁー、緊張してきた」


 冷静にツッコミを入れつつ、ソワソワと落ち着きのない僕の友達に、その場で沈黙を保っていた最後の一人が喝を入れた。


「馬鹿、お前それはな――武者震いって言うんだよ」


 そして彼はいつもの不敵な表情を浮かべた。



「……っし、全員の度肝抜いてやる。行くぞ!」



 そして僕達はなんとなく目を合わせ、円を描くようにそろそろと並び、体をちょっぴり前に倒して、両手を広げた。

 

 円陣。


 学校行事なんかでクラスの中心っぽい人達が言い出して組まされるあれ。

 ここにいる人達はいつも、それを少し冷めた目で遠巻きに眺めているか、あるいは円の端で申し訳程度に参加するかだったのだろう。


 だから僕達が今組んだ円陣は酷く不格好で、どの程度の距離感で肩を組むのか分からなかったし、そもそも普段の人とのコミュニケーションにボディータッチを含まないから、皆平気な振りをしてたけど内心これでいいのかという疑問と羞恥心で一杯で、きっと団結を示すという意味での本来の円陣の効果は全く以て失われていた。

 

 もし傍から見ている人がいたら、やり慣れてないんだろうな、ってすぐに分かったはず、そんな円陣だった。


 だけどここには傍から見ている人なんて誰もいなかった。

 僕達しかいなかった。


「……お、おい、これ、どうすんだ、掛け声とか? なんて言えばいいんだ?」


「え、わ、分かんね」


「愚問だね。ボクが知る訳ないだろう」


「……もう、適当でいいんじゃない?」


 さぁ、僕達のステージを始めよう。

 今まで感じて来た孤独も、皆に時に笑われ、時に見下されてきた経験も、そんな皆への嫌悪感も劣等感も憧れも、すべて否定せず、そのまま持っていこう。

 誰かになろうとするんじゃない。自分に誇れる自分になるんだ。

 昨日投稿できなかった分、あとでもう一話投稿します。

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