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僕はステージ裏で話をした

「――以上、山桜高校演劇部の皆さんでしたー! 拍手でお送りください!」


 パチパチパチパチ! と観客席からの拍手の音が鳴り響く中、中世風の衣装を着た女の子達が、最後の挨拶をしていた。


 ここは、お祭り会場の奥に設置された仮設ステージ。

 二日前からトラックで資材を運び込み、商店街の男手が総出で設置したこのステージは照明や音響もかなり大がかりなもので、少し前の年にはお笑い芸人やアーティストなんかの有名人を呼んだこともあったらしい。


 今年はそういう人は呼んでいないけど、ステージの袖からこっそりと様子を見る限り、今の演劇の段階で既に観客席はかなりの盛り上がりを見せていた。いつも全校集会で表彰されているのを見ていたけど、その実力は本物だったみたいだ。


 実際、彼女達が演技をしているのを見て、驚いた。

 普段の学校生活での姦しさとは打って変わり、寡黙な人物から男性まで様々な役を自在に演じる彼女達の舞台に、すっかり飲み込まれてしまった。それと同時、彼女達の演技に対する情熱や誠実さも伝わってきた。


「ひゃー! 久しぶりの舞台はやっぱ緊張したなぁ」


「お客さんがあったかくて助かったよ」


「あ、おにぃさんも、良かったですよねぇ?」


「ちょ、ちょっと利香。やめてよ……恥ずかしいよ」


 それなのにステージを降りた瞬間、彼女達はいつもの雰囲気に戻ってしまう。この屈託の無さというか変に気取らないところが、彼女達の魅力なんだろうな。とはいえ僕なんかと仲良くしてくれてる時点で、その性格の良さは元から明らかだったけど。


「じゃあ、君達の方も楽しみにしてるよ」


「私は忘れないからな。今日の、このステージを……!」


「まぁ、期待してますねぇ」


「あ、あの、竜一君にも応援してるって言っておいて下さい」



---



 次のステージ。

 舞台の中央に立った商店街のおじいさん二人組が、ジャグリングをしている。

 結構うまい。

 既にひょいひょいと空中に何個もピンを真上に放り投げ、あるいは互いに投げ合いながら、観客からの歓声をもらっている。

 ただ結構年配だから、少し動きがプルプルしているのが心配だ。

 若干ハラハラしながら見ていると、


「あ、お兄ちゃんいた」


 声を掛けられて、振り向く。

 そこにはアイドルのような衣装を着た二人の少女がいた。千夏は家でよくKPOPアイドルの曲を聞いているから、それを意識した衣装なのかもしれない。


「じゃーん、どう。可愛いでしょー」


 小声でそう言うとその場でくるりと一回転してみせた。

 うん。確かに、白い衣装が二人に抜群に似合っていると思う。白い肌と合わさってまるで雪の妖精みたいで。それが今の季節のアンバランスもあって幻想的な雰囲気を生み出していた。少女というよりは、少し大人っぽい感じもぴったりだ。……ぴったりなんだけど。


「……良いと思う」


「ん、なんか間があった?」


「いや、何でもないよ」


「えー、気になるじゃん。何?」


「…………いや、ちょっと、複雑な気分になって」


 僕が言うと、千夏はピタリと固まってしまった。

 ……あれ、何か語弊があったかな?

 いつの間にか妹がこんな風に綺麗な衣装を着こなすようになって、勿論それは嬉しいことなんだけど。同時に兄離れというか、いつも僕の後ろをついて来ていた子供は、もういないんだなと実感して、寂しくなった。だから、複雑な気分。


 兄として素直に成長を喜べないのが、自分の未熟さを感じて恥ずかしいけど、そこまでちゃんと言った方が良いかな。


「……もしかして、独占欲? 人前では見せたくない、みたいな。だ、だとしたら、お兄ちゃんも、私のこと……」


「えっと、千夏、今の複雑っていうのはね」


「! いいいいいや、だだだ大丈夫だよ。お兄ちゃん、全部分かってるから」


「そ、そう? じゃあいいけど」


「…………」


 少しほっとした僕と何故か顔を赤くした千夏を、どうしてか早希ちゃんが少し険しい表情で見ていた。彼女は僕が見ていることに気付くと、何でもないですよ、という風に笑ったけど、どうしてかそのことが記憶に残った。



---



 ステージへと続く階段に三人で腰掛ける。ステージの暗幕に日の光は遮られ、辺りは薄暗かった。時折吹く涼しい風がステージの熱狂から僕らを少しだけ遠ざけていた。


「二人共、次だっけ」


「うん、そう。……あー、緊張してきた。早希は?」


「んー、そんなにかな。……嘘、結構してる」


 女の子二人はこしょこしょと話しながら笑っている。


「そういえばさっき屋台の方を歩いてたら、二人のステージを観に来たっぽい女の子達を見かけたよ」


「うそ、何で知ってるんだろ。私、誰にも出ること言ってないのに」


「え、そうなの?」


 僕が驚いて聞くと、千夏はこくんと頷いた。


「うん。……だって、恥ずかしいじゃん。学校の人とか見に来たら。学校であんまりこのお祭りに行ってるって話聞かないし、言わなかったらバレないかなって」


「でも、バレてるんだよね」


「そう、なんでなのかなぁ……。しかもすごい人数来てるし、流石に全員が私達を見に来る訳じゃないだろうけどさぁ……」


 頭を抱えた千夏の横で早希ちゃんがうーん、と首を傾げた。


「何でだろう、もしかして私がSNSで出るよーって言ったのが原因だったりするのかなー」


「絶対それじゃん! なんでそんなことするの!?」


「ちょっと千夏、声、声落として」


「あ、ごめん」


 慌てて口を抑えた千夏と、一方の早希ちゃんはのほほんとした口調を崩さない。


「えー? だって、やっぱりステージやるってなったら、観てくれる人は多いほうが良くない? 最後の夏だし、おっきい思い出作りたいかなーって」


 その時、ありがとうございましたー、と司会の声が聞こえ、おじいさん達が向こう側の袖に掃けていくのが見えた。


「やばいやばいもうすぐだ。早希には後でお話しがあるからねっ! あっ、お兄ちゃんは出番もうすぐだし、観てる余裕なかったりする?」


「いや、大丈夫。ステージ袖から見てるよ」


「だよねー。あはは、みんなが見るんだなー……うー、落ち着けー、私ー……」


 千夏は本番前の緊張からか若干パニックになっているみたいだ。

 と、その時早希ちゃんが名案を思い付いたような顔で、ちょんと僕の方に寄ってきた。

 元からそんなに空いていなかった間隔を更に詰めて来たものだから、彼女の存在がすぐ傍に感じられるようになる。

 清涼感のある良い匂いと、かすかに聞こえる息遣い。

 お祭りという非日常的空間と、ステージ前の緊張と高揚感のせいか、つい彼女に触れてみたくなる衝動を堪えた。


「あ、じゃあじゃあ、千夏の緊張を和らげるために、おにーさんは私のことだけ見てるっていうのはどうかな?」


「……あー、じゃあ、そうする?」


「!! だめだめ! それはだめだからね!」


「やったー。それじゃ、ちょっと頑張ろっかなー」


 千夏が小声で反対していたのを無視して、僕の言葉に緩くガッツポーズを決めた早希ちゃんは、次の方準備お願いします! というアナウンスに従って、すたりと立ち上がるとステージ袖の方へいつもと変わらない調子で歩いて行く。


「頑張ってね」


「はーい、あ、おにーさんのステージも楽しみにしてるよー」


 そして彼女が配置に着くと、僕の隣にはいつも一緒にいた家族だけが残された。


「…………」


「……千夏」


「……うん、分かってる」


 僕がそろそろだよ、と口に出す前に千夏はよしょ、と立ち上がった。


「…………早希があんなにこのステージに本気だったのは計算外だったな……いや、練習の時からそうだったかも。私と同じペースで仕上げてたのって、よく考えたらおかしい…………あー、駄目だ切り替えろ、もう本番だ。お兄ちゃんにかっこ悪いとこは見せられらない」


「千夏?」


「……何でもないよ? 頑張ろうって思っただけ」


 よし、と意気込みステージへと歩いて行く彼女が、くるりとこちらを振り返る。

 何、と目で尋ねた僕に向かって放たれる一言。



「――――ね、千夏のこと、見ててね」



 え。

 時に助け時に助けられてきた、誰よりもよく知っている彼女が、一度も見たことのない表情でそう言った。

 呆然と固まった僕を置いて、彼女達のステージが始まる。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] 主人公を振った人があまりにも出て来なすぎる。 そろそろ出て欲しい。 ずっと読んできたけど。
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