僕は仲を取り持った
夏真っただ中のお昼過ぎ。ファミレスの店内はクーラーが効いていてひんやり涼しい。
僕たち三人の座る席も、しっかりと冷えていた。
空気が。
早希ちゃんがやって来た時に簡単に挨拶をした以外、会話はほとんど弾んでいなかった。
「………………ちぇ、SRかよ」
向かいのソファに座った吉彦がスマホを見ながら呟いている。……ゲームの話かな?
「…………ちゅー」
一方、僕の隣に座った早希ちゃんは無言でジュースを飲んでいた。
…………。
グラスを白い両手で支えてストローを咥えた彼女は、小動物ぽくって可愛い。
見た目は大学生みたいだけど、ちょっとした仕草が子供っぽいんだよね。
と、早希ちゃんの方を見ていると、ストローから口を外した彼女に、
「……あんまり、飲んでるとこ見ないでくださいよー」
「! あっ、ごめん」
ちょっと恥ずかしそうに言われて慌てて目を逸らす。
……うう、なんだかこっちまで恥ずかしくなってくる。
ほんのり頬を赤くした早希ちゃんはこほんと咳払いした。
「んんっ。……そういえば、最近、お姉ちゃんとは仲良いんですかー? 同じ部活でしたよね?」
「……っ!」
彼女はこてりと首を傾げると、いきなり核心をついてきた。
「……う、うん! まぁ、そこそこね。夏休みに入ってからは会ってないけど!」
「へぇー。私も最近連絡とってないんですよねー。元気かな……」
「そ、それよりさ! 二人は今日どうして呼ばれたのかって気にならない!?」
僕が遮って言うと、正面でスマホを触っていた吉彦も顔を上げた。
「お、やっと本題か。で、俺は何をすればいい?」
そう聞かれて、今度は僕がごほんと咳払いして改まる。
「吉彦と、早希ちゃん」
名前を呼んだ二人からの視線を感じながら言った。
「――――僕は二人に、仲良くして欲しいなって思ってる」
「………………は?」
吉彦がぽかんと口を開けて、ちらっと早希ちゃんを見る。そしてさっと目を逸らした。
吉彦、さっきからずっと見ないようにしてたもんね……。
一方早希ちゃんの方は…………いまいち表情の読めない顔をしていた。怒ってはないと思うけど……と、彼女は僕に向かって首を傾げた。
「……何か、理由があるんですよねー?」
「うん。えっと、吉彦は西町商店街の……」
「あっ、そういうことですか。お兄さんのこの前の相談って、やっぱりこの人ですか」
ふむふむ、と頷いた早希ちゃんは、僕に確認してくる。
「えと、つまり、お祭りのためってことですよね?」
「まぁ、そういうこと」
すごい、もう分かったのか。やっぱりこの子は頭の回転が早い。
「そういうことなら、まぁ……いいですよ。私は。何でもするって言いましたし」
「――お、おいおい! ちょっと待てよ、何で俺がこいつなんかと仲良くしなきゃいけないんだ?」
吉彦が慌てたように口を挟んだ。そうだよね、普通はそうなるよね。隣で早希ちゃんは「こいつなんか……?」と小声で呟いていた。
「大人の会議がうまく進んでないのは見たよね? けど、ここでもし君たちが仲良くなったら、何か変わるんじゃないかなって」
西町、東町ふたつの商店街を代表するお店。「御手洗洋菓子店」の吉彦と、スーパー「みくにや」の三国早希ちゃん。
二人が仲良くなれたら、きっと良い影響が出るんじゃないかと思うんだ。
「最初は何も言わないで会ってもらおうかとも考えたんだけど、でもその方が不誠実だと思ってさ」
なるほど、と早希ちゃんは頷いた。
「パパも、今更引けないから大変だって家で言ってたし」
うちと同じか、と納得した表情を見せた吉彦はやれやれと肩を竦めた。
「そういうことなら、まぁ、しょうがねぇな。親友の為だからな」
「……すみませーん。その、嫌々仲良くしてやる、みたいな感じ出すのやめてもらっていいですかー?」
早希ちゃんがにっこり笑って言うと、吉彦はピキリと額に青筋を浮かべた。
「はぁ? ったく……あーやだやだ。これだから女子は。すぐ嫌味を言う」
「女子とか性別で一括りにするの、自分がどれだけ馬鹿なことを言ってるか気づいてます? 女の子の友達がいないの、バレてますよー」
「……は、はぁ? マジなんなのお前。き、きっしょ、きっしょ!」
小学生みたいな悪口のボキャブラリーを披露した吉彦を見て、早希ちゃんはふん、と鼻を鳴らした。
……なんか、すごく攻撃的だな。
どうかしたのかな、と思っていると、彼女はちょっと罰が悪そうに唇を尖らせた。
「だってー、この人さっき、店の外にいた私を指さしてなんか言ってましたよねー? 直接は聞こえなかったけどー、表情からして絶対悪口でしたよねー?」
……あー。あれ、ばれちゃってたのか。
確かにあの時吉彦は早希ちゃんのこと苦手だって……ん? あれ、でもさ。
「……いや、その時たしか吉彦は、あの子可愛いなって言ってたんだ。そうだよね、吉彦」
「は、はぁ!? そそそそんなこと言ってないが!?」
びくりと動揺した吉彦がぶんぶんと首を左右に振って否定する。
いや、でも仲良くなるにはここしかない! 頼む、吉彦!!
「そ、う、だ、よ、ね!?」
「…………ッ!」
僕が彼の目をじっと見ると、吉彦はたらたらと冷や汗を流しながら目を泳がせる。
「「…………」」
それでも僕が彼から目を逸らさず、席に沈黙が続いた後、先に折れたのは吉彦だった。
「…………まぁ、そんなことも言ったかもな」
「そ、そうだよね! そんなことも言ってたよね!」
ありがとう、吉彦……!
しかし、早希ちゃんはまだ半信半疑みたいだ。
「えー、本当かな? じゃあ、私のどの辺が良いと思ったんですか?」
頑張って、吉彦! あと一息だ……!
彼は腕を組んで首を捻り、言葉を選ぶように間を取った後、視線を窓の外に向けながら小声で言った。
「……あー、親しみやすそうな、とこ」
「……………ふーん」
彼の言葉を聞いて、早希ちゃんはそれだけ呟いた後、ドリンクバーに無言で口をつけた。
だ、ダメだったのかな…………?
吉彦はそんな彼女をちらりと見て、ふんとテーブルの上に肘をついた。
…………やっぱり、ダメか。
そもそも、他人が口出しして仲良くしてもらおうとするなんて、上手くいきっこなかったのかもしれない。
僕がそう反省していると、暫くの沈黙を破って早希ちゃんが口を開いた。
「…………それじゃ、とりあずSNSの交換でもしますー?」
そう言ってバッグからスマホを取り出す彼女。
…………え。それって、
「! 協力してくれるの!?」
驚いて聞くと、彼女はまぁ、と微妙な表情のまま頷いた。
「私も勿論、お祭りが上手くいけばいいって思ってますから。……御手洗さんは、くれぐれも、勘違いしないで下さいねー。あくまでお兄さんと、パパの為だから」
「はぁ? こっちも冬二に言われてなきゃ、誰がお前となんかよぉー」
二人は言い争っていたけど、場の雰囲気自体は不思議とそれほど悪くなくなっていた。
「と言うか喋ってないで、手、動かしてくださいよ。友達の追加方法分かりますー?」
「おっ、お前、マジで舐めんなよ!? 冬二と交換したときに覚えたわ!」
「あっ、そうですかー」
………多分。




