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僕は内緒の話をした

 僕達は最後に喫茶店に立ち寄った。利香と僕が働いている店とは違う、店主が一人で切り盛りしている小さなお店だ。


 綺麗に盛りつけられたパンケーキを一足先に食べ終わった僕は、皆のいるテーブルから少し離れたカウンター席で、店主のトメさんと祭りの日の手伝いについて話していた。


「――だいたいこんな感じかねぇ。ごめんねぇ、忙しいだろうに」


「全然大丈夫です! 良いお祭りにしましょう!」


 話を終えたトメさんが一度厨房に入っていくと、僕は背中をちょんちょん、とつつかれる。振り返ると、そこには悪戯っぽい笑顔を浮かべた後輩が立っていた。


「おにぃーさん」


「あ、利香。もう食べ終わったの? 早いね」


「おにぃさんと話がしたかったのでぇ、持ってきちゃいましたぁ」


 よいしょ、と隣の席に座った彼女は、席から持って来た紅茶に口をつけた。つられて僕も自分の分を一口すする。落ち着いた店の雰囲気に合った、なんだかほっとする味の紅茶だ。


「美味しいですねぇ、ここ」


「うん、僕と千夏はたまに来るんだ。気に入った?」


「とっても」


 カップから口を離しほう、と一息吐いた彼女は、ぺたんとカウンターに両肘をつくと、その上で組んだ手の上に頭を乗せて、僕を見た。


「そう言えば私、一つ気になったことがあるんですよぉ」


「ん、何?」


「今日、竜一先輩を誘ったのはどうしてですかぁ?」


「…………」


 利香は首を横に傾けて僕の方を覗き込んだ。


「だって考えてみると、ちょっと変じゃないですかぁ? 商店街を紹介するって言っても、竜一先輩は、おにぃさんとこれまで放課後、学校帰りに商店街によく来ていたって言ってましたしぃ。紹介する側として呼んだにしても、妹さんがいれば足りているはずです」


 これは私の妄想ですけど、と彼女の横向きになった大きな瞳が僕を写した。


「自分は周りに嫌われていて、孤独なのだと――そう思っている彼に友達を作る為に、あなたは竜一先輩を誘ったんじゃないですかぁ?」


 僕は一瞬彼女から視線を外し、向こうのテーブル席で霞や吉彦、千夏と楽しそうに話している竜一を見た。…………。


「……違うね。僕はただ、僕の好きな人達が、仲良くなってくれたらいいって思っただけだよ」


「…………あはは、じゃあ、そういうことにしておきましょうかぁ」


 そう言って頷いた利香だったけど、いつまでもにこにこと笑っている。

 手玉に取られている感じでちょっと悔しかったので、僕も彼女に気になったことを聞いてみることにした。


「そうだ。さっきの雑貨屋、なんで入ろうとしなかったの?」


「あれぇ? 言いませんでしたっけ? お腹が空いてたんですよぉ」


「そうなんだ。じゃあお腹も一杯になったと思うし、この後寄る?」


「…………」


「これは僕の妄想だけど。君は多分、このあいだあのお店に行って、お祭りに出るように言ってくれたんじゃないかな?」


 雑貨を扱いながら服も販売しているあの店は、もとはお祭りに出る気が無かったと大人たちが話しているのを聞いた。それなのに、ある時期に急に意見を変えて参加を表明していた。


「どうして、そんな突拍子もない考えが浮かぶんですかぁ?」


 僕は彼女に返事をする代わりに、紅茶のお代わりを注ぎに現れたトメさんを呼び止めた。


「あの。今年のお祭りに雑貨屋が出店するみたいなんですけど。何か聞いてません?」


「ん~? ……あぁ、そう言えば。あそこの店の子がこのあいだうちの店に来てねぇ。若い子がうちの服を褒めてくれて、それが嬉しくて祭りにも出ることにしたって話してたねぇ」


「…………!」


「そうなんですね、ありがとうございます」

 

 トメさんが千夏たちのテーブルに向かうのを見届けた後、利香は小さくため息を吐いた。


「ダサくないですかぁ? こういうのバレるの」


「そうかな? 僕はそうは思わないけど。……あ、そうだ。これ、もう一つの約束の分」


 僕がポシェットの中から買っておいたものを取り出してカウンターに置くと、利香は驚いた顔をした。


「? ……っ! どうしたんですかぁ、これ」


「さっき見てた気がしたから。どうかな?」


 霞のお店に行く前、雑貨屋の店先で千夏と話している彼女が見ていたのがこれだった。僕も良いと思ったので、中華を食べた後にこっそり買いに行っていたのだ。


「……さっそく、着けてみますねぇ」


 利香は慎重な手つきで丁寧に包装を外し、髪飾りを取り出した。

 綺麗な意匠が凝らされたそれは多分、髪を結ぶ時に使うものだと思う。

 彼女が背筋を伸ばし、下ろしていた髪をたくし上げると、真っ白な首元が露わになった。

 僕は見てはいけないものを見てしまった気分になって、慌てて視線を逸らした。


「……似合ってますかぁ?」


 そんな僕の様子には気づかずに、いそいそと髪を留めた彼女は目を細めてにこ、と微笑みながら聞いてくる。良く似合っている、と思う。


「う、うん」


「私、嬉しいですよぉ」


「よ、良かった」


「ちゃんと分かってますかぁ? 別に、この髪飾りを買ってもらったことが嬉しい訳じゃないんです。いえ、勿論それも嬉しいんですけどぉ」


「? どういうこと?」


「私がこれを気に入ってるってことを分かるくらい、私のことを見てくれてたのが、嬉しいんですよぉ」


 そう言って彼女は笑った。その表情はどうしてかいつもよりもずっと魅力的に見えて、思わずドキリとした。

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