僕は商店街を見て回った
今日の目的は、お祭りの前に皆に商店街を知ってもらうことだ。
「えぇ? 本当に怒ってないのか? あんなに睨んでたのに?」
「だから別にどうとも思ってねぇって。あと、この目つきは生まれつきだ」
竜一と吉彦の間に入り、三人横に並んで歩く。ようやく吉彦は竜一が本当に気にしていないことを理解したみたいだ。
「そうだったのか。それは苦労しそうだな」
「…………まぁな」
「けど、それも含めて学校で竜一は人気者だけどね」
「おい冬二、冗談は良くないぜ。信じちまうかもしれねぇだろ」
「別に冗談じゃないんだけどな……」
一方、女の子二人は僕達の前を歩いていた。千夏が近くの店の前に設置された陳列棚を指さす。
「あ、利香さん。そこのお店可愛くないですか? 雑貨屋さんなんですけど、センスが凄く好きなんです。利香さんはどれが好きですか?」
言われて利香はしゃがんで棚を覗き込んだ。前髪を耳に掛けながら、思案気な顔で商品を見比べている。
「んー、そうですねぇ……」
「ここ、よかったらちょっと入ってみません? お兄ちゃん、いいかな?」
「そうだね、まずはパン屋に行こうと思ってたんだけど、あれだったら先に――」
「すみませぇん、私お腹空いちゃいましたぁ。よかったらパン屋さんに行きたいですぅ。千夏ちゃん、ごめんね?」
「いえ! 大丈夫ですよ」
「冬二、パン屋っていつものとこか?」
「そうだよ。吉彦には多分、珍しいものが見れるかも」
「え? って、ここの商店街のパン屋ってことは……」
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「やあ、いらっしゃい……って、え、」
こちらを見て固まった彼女が着ているのは、白を基調に所々に茶系色のチェックがあしらわれたブラウス、同様の柄のスカートには派手にならない程度にフリルがついていた。
いつもは素っ気ない服ばかり着ていることもあって、パン屋の制服に身を包んだ彼女は普段との落差で更に可愛らしく見えた。
吉彦がそんな彼女を見て感嘆の声を上げる。
「へぇ。相良、パン屋の制服似合うな~」
「……なんで、御手洗がいるんだい?」
「だって吉彦がいるって言ったら霞、顔出してくれないと思ったから」
僕の方に射殺さんばかりに視線を飛ばしてくる霞を見て、利香があ、と声を上げた。
「髪染めてますけど、この前見せてもらった写真の子ですよね? ……こんにちはぁ、初めまして」
「……ど、どうも」
利香がそう言って微笑むと、霞はぎごちなく返事をして小声で母さんを呼んでくる、と言って奥に引っ込んでしまった。
利香が少し困ったように僕の方を見てくるけど、彼女は割と人見知りするからしょうがないと思う。
竜一と吉彦は霞の消えていった方を向いてうんうんと頷いていた。
「分かるぜぇお前の気持ち」
「俺も。正直、人との距離感の掴み方とか分からんわ」
ん、と二人は顔を見合わせる。
その時、奥から出て来た霞のお母さんがパンパンと手を叩きながら言った。
「いらっしゃい! 今日は来てくれてありがとうねぇ! 早速で悪いんだけど、お祭りで出すパンについて意見を聞きたいんだ! いくつか作ってみたんだけど、これだと思うものが無くてね。良かったら食べた上で、感想を貰えないかい?」
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店の奥のテーブルを囲み、皆で試作のパンを食べる。
「霞は店番結構入ってるのか? この前俺が来た時もやってたよな」
「今日は君達が来るって聞いてたからね。普段はたまにしかやってないよ」
「やるなぁ。俺、家の手伝いなんてしたことないわ」
近くで三人が話しているのが聞こえてくる。
吉彦と竜一は全く違うタイプのようでいて、何か通じる部分があったみたいだ。今は共通の知り合いである霞を交えて、和やかに会話は進んでいた。
隣に座った霞のお母さんが僕達にこそっと耳打ちしてくる。
「ここだけの話、霞に店番させていると売り上げが増えるんだ」
「はぁ~、看板娘ですかぁ。凄いですねぇ」
「実際、霞は中学でも人気がありますよ」
霞が二人と話しながら時折笑っているのが見えた。
「ところで、今の時期に出すメニューを決めるんですね。僕、もう少し早いものかと思ってました」
「あー、実は例年はもっと早いんだけどね。今年はまだどの店が何を出すか決まっていなくて、結構ギリギリになりそうなんだよ」
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試食のパン以外にもお礼だと言って幾つかパンを貰った後、僕達は商店街のお店を幾つか見て回った。
例えば本屋。
「おっ、ここラノベの品揃え結構いいじゃん」
「へぇ~、御手洗さん、こういうのが好きなんですかぁ?」
「! アッ! アッ! ソウデス! テ、テンドウサンハ?」
「私はあんまり読まないですねぇ~。よかったらおすすめとか教えてくださいよぉ」
「アッ! モチロン、モチロン!」
「おい、御手洗の奴壊れたロボットみたいになってるぞ」
「まぁ、嬉しそうだしいいんじゃないかな」
「――お兄ちゃん、この問題集はどうかな?」
「……うーん。もう少し易しめな方が良いと思うな」
「分かった」
「そっか、お前の妹はもうすぐ受験か。どこ志望?」
「うちだよ。僕と同じ文芸部に入りたいらしくて」
「…………はーん」
例えばスーパー。
「いやなんでスーパー?」
「分かってないね吉彦。実はこのスーパー、ただのスーパーじゃないんだよ」
「言っとくが俺初めて来たからな。けど、何が違うんだ? 普通の色々置いてあるスーパーにしか見えないな…………あ、さっきの本屋で売ってなかった漫画置いてるじゃん。やるなぁ」
「……なるほどねぇ。それぞれの店で微妙に手の届かない部分をここで補う形にして、他の店と共存してるのか」
「流石竜一、そういうことらしいよ」
「本当に色々売ってますよ。化粧品売り場とかも結構充実してますし、確か最新のがこっちに……」
「本当だぁ。千夏ちゃん詳しいですねぇ。よく来るんですかぁ?」
「あ、はい。ちょっと友達に詳しい子がいて」
例えば中華屋。
僕達はここでおやつに軽めのものを注文した。
「――ごちそうさまです、美味しかったです!」
「いや冬二食うの早ッ!」
「トウジタベルノハヤイシ、タクサンデモ、オイシソウニタベテクレル。ミテテキモチイイヨ!」
「ミンさんの作る中華はやっぱり絶品ですね! ペロッといけちゃいました! 皆、僕ちょっと腹ごなしにその辺歩いてくるから、食べ終わったら呼んで!」
「了解だよ、いってらっしゃいお兄ちゃん」
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「…………さて、食欲お化けのお兄ちゃんは置いておくとして。どなたか心優しい人、困っている年下のか弱い女の子を助けてくれませんか?」
柔らかな笑顔を浮かべていた千夏は、兄が見えなくなるとスッと表情を消してこてりと首を傾げた。
竜一は彼女のその変貌ぶりに思わず苦笑する。
「思ったよりなんだか捻くれてんなぁ。まぁ、考えてみれば方向性は違うが、兄もちょっと変だしな。おい千夏、食えない分ここ乗せろよ」
「ありがとうございます。でも、下の名前で呼ぶのはやめてください」
「けど桐山って呼ぶのも変だしなぁ。なんて呼びゃあいい?」
「下の名前以外で馴れ馴れしくないものならなんでも。兄に勘違いされたくないので」
「へいへい……って、ん? 勘違い?」
首を捻る竜一の隣で、吉彦は何とか食べきれそうだ……と思っていると、正面に座る利香の箸が進んでいないことに気がついた。
「……天道さん、それ残すなら貰おうか?」
「あ、ありがとうございますぅ。ちょっと量が多くて。……御手洗さんって、気が利くんですねぇ」
「え? それって高度な皮肉? 暗に何見てんだ陰キャがって言ってる?」
「あはは、そんな訳ないじゃないですかぁ。御手洗さんおもしろぉ~い」
「あっ、そ、そう? ……お、おい沢村。この子、俺のこと好きなんじゃないか? 告られたりしたらどうしよう」
「その心配は要らねぇよ、多分な」




