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僕は待ち合わせた

「とうちゃーく!」


 たっと駆けだして一足先に目的地にたどり着いた千夏は、その場でくるりと半回転した。夏の爽やかな風に、彼女の着ている水色のワンピースがふわりと膨らむ。


「その服、似合ってるね」


「! ほんと? ……えへへ、ありがと」


 僕が服装を褒めると、千夏は口元に手を当てて嬉しそうにはにかんだ。


 ――僕が竜一と学校に行った日から数日経った今日、僕と千夏は商店街に来ていた。


 目の前には『ようこそ 東町商店街へ』と書かれたアーチ状の看板。

 そこから奥には中央の道を挟んで、様々なお店が軒を連ねている。

 昼間の商店街はそれなりに盛況で、小さな子供を連れた主婦や部活帰りの中学生で賑わっていた。

 昔から家族で商店街を利用している僕達兄妹にとっては、慣れ親しんだ景色だ。


 えーっと……。

 今日はここの入り口で待ち合わせをしているんだけど、他の人はまだ来ていないみたいだ。


 日差し対策に帽子を被った千夏は、辺りのお店を見て目を輝かせていた。


「久しぶりのお休みだー! 一杯遊ぶぞー!」


 普段は勉強を頑張っている彼女はそう宣言すると、白い腕を夏のよく晴れた青空に向かって突き出す。

 と、その時駅の方からこちらに向かって歩いてくる二つの人影があった。


「へぇ、文芸部ってそんな感じなんですねぇ……あ、お二人とも。こんにちはぁ」


「よぉ」


「やあ、よく来たね」


「あ、こんにちは」


 利香と竜一が連れ立って現れて、僕達も手を挙げて挨拶する。ちなみにいつの間にか千夏もスッと余所行きモードに切り替わっていた。この子、本当に人前だと話し方変わるなぁ。


 ねぇねぇ聞いてくださいよぉ、と利香が僕達に向かって言う。


「私、竜一先輩と電車一緒だったんですけど、この人電車の中でおばあちゃんに席譲ってあげてましたよぉ。それ見て私びっくりしちゃってぇ」


「あぁ? それくらい当たり前だろうが。舐めてんのか?」


「きゃ~こわぁい」


 くすくすと笑う利香と、そんな彼女を呆れたように見る竜一。


 誰とでもすぐに仲良く出来る利香は流石だなぁと思うと同時に、竜一の方も彼女にちゃんと応対しているのにはちょっと驚いた。少し前までの彼ならもっと距離を取ろうとしていてもおかしくなかったと思う。


「今日は楽しみですぅ。おにぃさんと千夏ちゃんのおすすめの場所に連れていってくれるんですよねぇ?」


「きっと天道さんも気に入ると思いますよ。紅茶とお菓子のとっても美味しい店があるんです」


「いいですねぇ~、行ってみたいですぅ」


 千夏と利香が和やかに今日のことを話しているのを聞きながら、僕はちらっとスマホをチェックする。

 今日の待ち合わせで来てないのは、あと一人なんだけど……。

 と、その時ちょうどメッセージが届いた。


『着いた』


「え……?」


 軽く辺りを見渡すけど、それらしき人影は見えない。入口に皆集まってるよと返すと、すぐに返事が連続で送られてくる。


『ちょっと待って』

『心の準備が』

『覚悟の準備が』

『ていうか』

『俺知り合いゼロだが?』


『この前言った時は乗り気だったよね?』


『自分でもあの時は』

『どうかしてたと思う』


「……お兄ちゃん。あれって、御手洗さんじゃない?」


 彼とメッセージでやり取りをしていると、前に一度彼と公民館で顔を合わせている千夏が僕の袖を引っ張った。

 見ると彼女の言う方向――向こうにある電信柱の裏に、俯いてスマホをいじっている吉彦の姿があった。

 僕が傍まで歩いて行くと、彼がぶつぶつと何かを呟いているのが耳に入って来る。


「くそっ、俺は小学生に褒められて調子に乗ってたんだ……何なんだよここは? 陽キャのバーゲンセールか?」


「? 何言ってるのかよく分かんないけど、とりあえずこっち来なよ」


 僕がちょっと引っ張るようにしながら皆のところまで連れてくると、ようやく彼は諦めたように顔を上げて挨拶した。


「あ、どうも。えっと、初めまして。御手洗吉彦です」


 吉彦が名乗ると、利香がはぁい、と手を挙げて応えた。


「天道利香です。高校一年生で、このおにぃさんの彼女ですぅ」


「えっ。へ、へぇ~そうなんだぁ〜。…………お、おい! お前彼女なんていたのかよっ。聞いてないぞっ!」


 慌てた顔をした吉彦が小声で僕に詰め寄ってくる。一方、にっこりと笑った利香が僕の傍にすす、と半歩分距離を詰めた。


「………………………」


 めきゃりと音がして見ると、妹が持っていたペットボトルを握り潰していた。

 

「ちょっと、冗談だよ? もう、二人が真に受けちゃってるよ」


「はぁい、ごめんなさぁい」


「あ、あぁ。冗談か」

「…………なぁんだ」


 僕が訂正すると利香はてへ、と舌を出す。

 それを見た吉彦はほっと胸を撫でおろし、千夏は静かに笑った。

 どうやら二人の誤解は解けたみたいなので、僕は今度は隣の千夏を手で示す。

 

「それで、こっちが僕の――」

 

 僕が言うと、千夏ははんなりとほほ笑み一歩前に出て胸に手を当てた。……こうして見ると、このメンバーでは最年少の筈なのに不思議と一番年上みたいな大人っぽさも――――


「彼女、です」


「いや君も違うよねぇ!? 僕の妹だよね君は!?」


 ふん、と心なしか得意げに言う千夏。吉彦が信じていたものに裏切られたような顔で僕を見ていたので、慌てて訂正する。

 なんか冗談が好きな人が多いけど、取り敢えず最後に竜一の紹介だ。彼は真面目にやってくれるだろう。


「で、こっちが僕の……」


「分かった、この人が彼女なんだろ!?」


 もう何も信じられない、という顔をした吉彦が僕の言葉を遮って言った。

 彼の言葉を聞いてはぁ? と竜一がぴくりと眉を上げていたけど、吉彦は止まらない。


「正直に言えって、な? 別に俺は怒らないから」


 したり顔で僕の肩をトントンと叩く吉彦に、僕は言葉を選びながら真実を伝えることにする。


「いや、あの、吉彦…………彼、沢村竜一って言って。めちゃくちゃ男なんだけど」


「えっ」


 まぁ確かに、竜一は背がそんなに高くないし、線も細いから女の子にパッと見、見えないこともない。

 実際たまに間違えられる、と竜一が前にぼやいているのを聞いたこともあった。


 ちなみに、竜一は基本的に目つきが悪い。

 今のこの吉彦と竜一の目が合っている状況は、竜一本人は多分またか、くらいにしか思ってないけど、吉彦から見たら相当怒っているように見えている可能性が高い。


「…………チッ」


 軽く空を見上げて目を細めた竜一が無言で舌打ち。

 ビクゥ! と吉彦が震えたけど多分今のも竜一的には特に意味がない。恐らく今日のちょっと強い日差しに対してのものだと思う。


「あわわわ……」


「よし、じゃあ行こうか」


「フォロォォ!! フォローくれよ! 気まずいだろ!?」


 案の定泡を喰っている吉彦がちょっと面白かったので、少しだけそのままにしておこうかな。

 竜一は初対面の人とそんなに喋る方でもないので、あとで僕が間に入ろうとは思うけど。


 ともかく五人揃った僕達は商店街に入ることにした。


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