僕は親友に打ち明けた
短めです。
……グラウンドの運動部の喧騒も、部室棟の端のここからは少し遠く聞こえる。
人気のない静かな廊下には、夕陽のオレンジ色が満ちていた。
結局、あれから演劇部の他にもいくつか知り合いのいる部活を回って、ステージ参加を募集する張り紙も掲示板に貼らせてもらった。
利香にはお礼を言って既に別れていて、今は竜一が忘れ物をしたと言うので、二人で文芸部室に忘れ物を取りに来ているところだ。
「……ふぅ」
竜一はさっきから部室の中にいるけど、僕は中には入らず壁に背中を預けて、目を閉じた。
流石にちょっと、疲れたな。
あれからも行く先々で、たくさんの人達に話しかけられたし。
「……でも、収穫はあったな」
何より嬉しかったのは、夏休み前から仲の良かった人たちが変わらずに接してくれたことだ。
それだけじゃなく、ステージへの参加を約束してくれた人もいたし、ステージに参加はしなくても夏祭りには行くと言ってくれた人もいた。
いい人たちだ、と思う。
『――――貴方がいい人だから、世界がいい人ばかりに見えるんですよ』
僕はふと、彼女の声が聞こえた気がして目を開ける。
だけど勿論、周りには誰もいない。
さらさらの亜麻色の髪も、小奇麗な一年生用の緑色の靴も、折れそうなほど華奢な背中も、なんにも。
……こんなところにいるから、思い出してしまうんだ。
僕はもたれかかっていた文芸部室横の壁から、ずるずると背中から滑り落ちて、その場にしゃがみ込む姿勢になった。
僕が彼女に振られたことについて、誰も、何も聞いていないみたいだった。
……ともすれば、その事実さえなかったかのように。
だけど僕ははっきりと覚えている。
緊張で震えた膝を。胸に走った痛みを。
「……竜一、まだ?」
「っと、わりぃわりぃ。待たせたな」
呼び掛けると部室の中から彼の声が聞こえて、それから部室の入り口にスポーツ用のシューズを持った竜一が現れた。
二人で玄関に向かって歩く。
「そういや、三国の奴は隣の県の予備校の夏期講習に行ってて、それから向こうにずっといるらしいな」
「! ……そ、そうなんだ」
「相変わらずよくやるよなぁ」
竜一は前を向いたまま、何でもないような口ぶりでそう言う。
……多分、竜一は気付いてるはずなんだ。
僕と彼女の間に何かがあったって。
それでも何も聞かないのは、僕が話すまで待ってくれているのか。
…………。
覚悟を決めるのには少しの時間がかかったけど、とうとう僕はあのさ、と口を開いた。
「僕、この前三国さんに振られちゃってさ」
「――ははっ! また、面白そうな話じゃねぇか。詳しく聞かせろよ」
校舎の外に出ると、陽はもう沈みかけていた。夕暮れの空は少し目に痛かったけど、それ以上に暖かさを感じた。
手をかざして、目を細める。
彼女と顔を合わせるのは、夏休み明けになるのかな。
その時までには、平気な顔が出来るようになっていたらいい。
竜一に肩を組まれながら、僕は帰り道を歩いた。
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――――しかし、実際には僕のこの予想は裏切られることになった。
夏祭り当日、僕は三国凪と再会する。
この頃には僕の生活の中心は既に夏祭りの準備になっていたけど、いよいよもって全ての総決算は、夏祭りに果たされることになるのだ。
僕はそこで自分の勘違いを知り、そしてまた、一人の女の子に恋をする。




