僕は変化と変わらないものを確かめた
「あっ、こっち来た!」
それから僕達は演劇部室に向かっていた……んだけど。
「あの人、何年生なんだろう?」
「かっこいいよね……あんな彼氏欲しいなぁ」
?
なんだか周りを歩いている生徒達の様子がおかしい。
今も近くで女子生徒達がこっちを見てはひそひそ話をしていた。
「あのガタイ……柔道部に欲しいな」
「おい、我らがレスリング部の邪魔をするな」
廊下の向こう側からも声が聞こえる。
どうも僕達の話をしているみたいだ。
竜一の人気はやっぱり凄いなぁ。
本人は興味ないし、自覚も無さげだけど。
と思っていたら、段々周囲に人が増えて、いつの間にか囲まれていた。
「あ、あの! ちょっとすみません!」
「君、うちの学校の生徒かい?」
――――何故か竜一ではなく、僕が。
えぇ? どういうことなの……。
困惑している間に周りに人は更に増えて、竜一の姿も見えなくなってしまう。
ちらりと時計を確認すると、もう待ち合わせの時間だ。
「あの、ちょっと待ち合わせしてて……」
「じゃあこれだけ! これだけ答えてください!」
うーん。
周囲の人たちは質問に答えないと引いてくれなさそうだ。
「……ええと、まぁ、この学校の生徒だけど」
仕方なく一つ答える。
すると質問した人は退いてくれたけど、他の人はおお!! と更に盛り上がってしまい、逆効果だったかもしらない。
もう行かなきゃいけないんだけど……。
「うっそ!」「初めて見た」「今まで学校来てた?」「名前教えてもらっていい!?」「竜一君とどういう関係なんですか!?」「こっち睨んでください!」「是非柔道部に!」「いや、レスリングだ!」「どすこい! 相撲部でごわす!」
「え、えっと……」
何人もの人から矢継ぎ早に質問されて焦る。別に彼らも悪気があるようには見えないし、どちらかと言えば好意的な印象だけど……流石に人数が多すぎる。
いくつか答えようとするけど、押し合いへし合いな様子であんまり聞こえてないみたいだし、そうこうしているうちに、もう待ち合わせ時間を過ぎてしまっていた。
どうしよう………。
と、心底困っていたその時。
「――はぁい、ちょっと通りますよぉ」
間延びした、だけど不思議と人に聞かせる声がした。
すると一瞬だけ、僕を取り囲んでいた人達が固まった。
その間に声の主はすっと彼らの隙間を通り抜けて僕の所までたどり着くと、僕の服の袖をぎゅっと掴む。
「私この人に用事があるので、また今度にしてくださいねぇ」
その一連の余りに自然な動きにぽかんとしている彼らの脇を、彼女と引っ張られた僕は駆けていく。
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「……はぁ。もうここまで来たら大丈夫ですかねぇ」
しばらくして、足早に廊下の奥まで歩いていた彼女、天道利香はそう言って僕の服の袖から手を離すと、こちらにくるりと向き直った。
「た、助かったよ……」
ふぅ、と一息つく。
……さっきのは多分、自分が人からどう見えるかをよく理解して、適切に振る舞える彼女だからこそ出来たことだ。
部室棟が近くなるにつれて周りに人がいなくなった廊下で、僕が改めてお礼を言うと、利香はむぅ、と頬を膨らませた。
「本当ですよぉ、約束の時間になっても来ないから探してみたら、あんなことになってるんですから」
「……うぅ」
ぐうの音も出ない。
バイト先のカフェで仲良くなった彼女は、演劇部だと前に聞いたことがあった。それで昨日のうちに相談したいことがあると連絡して、今日も約束の時間に間に合うように行動していた筈だったんだけど……。
「なんであんなことに……」
「――そうか? 俺は当然の反応だったと思うけどな」
いつの間にか僕達の後ろについて来ていた、少し疲れた顔をした竜一は僕達の会話に入ってくると、そんなことを言った。
「どういうこと?」
僕が尋ねると、彼はやれやれと肩を竦めた。
「お前、別人レベルに容姿変わってんだぞ。はっきり言って容姿だけで見りゃ、俺の次くらいには整ってる感じに」
「またまた」
竜一の次って言ったら、学校で二番目ってことだよ? 流石にそんな……。
「タイプ違いますから、好みによるでしょうけどねぇ……おにぃさんの方が好きって人もいそうですよぉ」
大真面目な顔で利香がそんなことを言うので…………信じられないけど、どうやら本当らしかった。
自分じゃ、全然実感湧かないんだけど。
……さっき僕の周りにいた人たちの中には、夏休み前まで僕の悪口を言っていた人もいた。
見た目が変わったからって、ここまで掌を返したように反応が変わるものかな。
ちょっとだけ悲しくなる。
……あれ?
でもだとすると、新たな疑問が出て来る。
「でも、二人は別に態度変わってないよね?」
歩きながら僕が聞くと、前を歩く利香はんー、と唇に指を当てながら答えた。
「私はおにぃさんが痩せていく様子を見てたっていうのもありますけど…………まぁ、大事なのは中身ですからねぇ」
「幾ら見た目が変わったって、俺が認めてんのは最初っからお前の内面だからな……って」
同じタイミングで竜一も返事をして、お、と利香の方を見て笑う。
「気が合うな。お前、なんて名前だっけ?」
「あ、天道利香って言います。よろしくお願いしますねぇ、竜一先輩」
「……前から思ってたんだけどよぉ、なんでこの学校の奴らは俺のこと下の名前で呼ぶんだ?」
「だって竜一先輩って言ったら、この学校の有名人……スターじゃないですかぁ」
「何言ってんだよ。悪目立ちしてるのはそうだろうが、スターって……んなわけねぇだろ。俺はダチも少ねぇしよ」
「あはは、面白い冗談ですねぇ。…………え、本気で言ってますそれ?」
初対面らしい二人が話している間、僕が何も言えないでいると、利香が足を止める。
「おにぃさん、着きましたよぉ?」
「! あ、うん」
僕は部室に案内されながら、かけがえのない友達にこっそり感謝した。
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演劇部室。
三人の生徒が部室に入ってくる。
「ただいま~、パン買ってきたよ~………って!?!?!?」
「どしたの優月、急にうずくまって…………って、うわお。竜一君いるじゃん。今日桐山来るって利香が言ってたし、その付き添いかな?」
「でも桐山君いないみたいだけど……ていうか、竜一君の隣の人、知らないな。あの人も付き添い?」
「あー、あれ、私がこの前パン屋の前で見た人だ。すごいイケメンでしょ」
「確かにね……でも、どこかで見たような気もする」
「何で千沙も早苗も二人ともそんなに落ち着いてるの!? やば、私、竜一君成分過剰摂取で倒れそう…………って、あれ? あそこにいるのってもしかして、冬二君じゃない?」
「えぇ? 優月、何言ってん…………本当じゃん。痩せたなぁ」
「へぇ、あんな風になるんだ。確かに前から目鼻立ちは整ってると思ってたけど…………それより優月、顔赤くない?」
「!? ぜんっぜん、赤くないけど!?」
「あーあ、惚れ直しちゃったかぁ」
「違うからね!? そういうんじゃないって前に言ったよね!?」
「――あ。優月、利香が呼んでるよ」
部室の奥で二人と話していた利香が彼女達に手を振っていた。
「部長って呼ばれるの、まだしっくり来ないなぁ……っていうか、やっぱりアレ冬二君か……よし、」
冬二達の方に近づいていく三人。
「おーい、冬二君久しぶり~」
「桐山、元気にしてた?」
「あのさ桐山君。課題見してくれない? お願いします何でもしますから」
「――――あ! 三人共、久しぶり!」




