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僕は友達に悩みを打ち明けた



「ふーん、なるほど。つまり、その御手洗さんと上手くいってないんだ」


「うん。でも、なんでそうなったのか、分からなくて……」


 ちょうど近くにあった公園のベンチに二人で腰掛けていた。夏の日差しは強いけど、ここは木陰になっていて少しひんやりしていて心地良い。早希ちゃんは考え込むように、白い顎に手をやった。


「ちょっと話逸れるけど、その御手洗さんって、向こうの商店街の人です? 親が何の店やってるかとか分かりますー?」 


「えっと……確かお菓子屋さんだったかな」


「なるほど。オッケーです、話を戻しましょー」


 早希ちゃんはうぅん、と細い首を捻った。……フードの隙間から覗くその肌の余りの白さに、日焼けしてしまわないか心配になるけど。きっとこの子は僕なんかが言うまでもなく、しっかり対策してそうだ。


「……お兄さんの話を聞いても、確かにちょっと唐突というか、そこで怒るのかって感じですねー。……でも」


 これは私の考えだけど、と言いながら、彼女は呟いた。


「結局、人と人とが完全に分かり合うことなんて出来ないですよー。何に対して怒るのかも人それぞれで、ここで私達が考えてても、彼の感情が理解出来るとは思えないっていうか」


「確かに、そうだね。……あはは、ごめんね、変なこと聞いちゃって」


 早希ちゃんのもっともな意見に、僕は曖昧に笑って誤魔化すことでこの話を終わりにしようとしたけど、彼女は例えば、と正面にある木を見ながら話を続けた。


「私が今、何を考えているのか分かりますー?」


「……うーん」


「分からないですよねー? ……私は、ちょっとくらい分かってくれても良いと思うけど…………まぁ、そんな話は今は抜きにして。それでもやっぱりお兄さんには――というか私以外の誰にも、私の考えを、気持ちを直接感じることは出来ません」


 胸に手を当てながらそう言った聡明な少女は、ちらりと僕の方を見て笑った。


「ごめんなさい、急に変なこと言っちゃって。……引いちゃった?」


「ううん、全然」


「お兄さん、やっぱり優しいですよね。……それで、彼と仲良くしたいなら、月並みな結論になっちゃうけど、話し合うしかないと思いますよー? 彼と、完全には分かり合えなくても、擦り合わせて上手くやれるように」


「……そうだね」


 早希ちゃんの言う通りだと思う。でも……。


「? どうかしましたー?」


「……あのさ」


 はい、と相槌を打つ彼女は真剣な顔をしていて、早希ちゃんが悩みをちゃんと聞いて一緒に考えてくれているのが分かった。それが嬉しくて、つい誰にも話してなかったことまで聞いてもらいたくなる。


「……御手洗君との話にも関係してくると思うんだけど。……僕は、お祭りの準備、皆にもっとやる気になって欲しいって思ってて」


「はい」


「でも、今のまま続けても、一応形にはなると思うし。それに、商店街の家でもない僕がそんなに口を挟んでいいのかってとこもあって…………ごめん、話がまとまってないね。えっとね……つまり、さ」



「――僕の希望を、人に押し付けたくないんだ」



 あの日の告白から、ずっと考えていたこと。

 もう僕のせいで、誰かに嫌な気分になって欲しくない。迷惑を掛けたくない。

 そう思っていても、僕は人に合わせることさえ上手く出来なくて、きっと御手洗君が怒っているのもそのせいだと思う。


「……なるほどー」


 年下の女の子相手に何を言ってるんだ、とは思わなかった。そんなに長い付き合いとかじゃないけど、それでも僕はこの隣にいる少女には一目置いていたし、信頼もしていた。


 実際早希ちゃんは僕の情けない言葉を聞いても、特に驚いた様子はなかった。少し吟味するように間を取ったあと、口を開く。


「それでも、好きなようにすればいいと思うなー。お兄さんなら、きっと好きにやっても、皆が楽しくなれるように出来るはずですよ」


「……ありがとう。でも僕は実際、うまくやれてなくて……」


「途中で色々あるかもしれないけど、最終的にはってことですよー」


「……どうして、僕のことをそこまで買ってくれるの?」


 僕がそういうと、早希ちゃんは一瞬躊躇うようにしたあと、


「……だって、お兄さんの話、千夏から一杯聞いてるから。あの子があんな風に褒めちぎる人なんて、私他に知らないです」


「…………」


 妹のことを引き合いに出されたら、僕はもうどうしようもない。

 あの子が僕のことをそこまで言ってくれるなら、兄として覚悟を決めるしか道はなかった。


「なるほど。千夏がそう言うんなら、そうなのかもしれない」


「……あの、前から思ってましたけど、お兄さんってシスコン?」


「うっ……否定できない」


「あはは、やっぱりー。……まぁ、とにかくですね」


 笑いながら一度言葉を切った早希ちゃんは、輝きを宿した大きな瞳で僕を射抜いた。



「そのお兄さんの在り方に、救われる人もいるってことです」



 その時、公園に一際強い風が吹いた。

 周りの木々がさわさわと揺れ、その拍子に彼女のフードも外れて、綺麗な髪が露わになった。

  

「ぅぅ~~!?!?」


 ボン、と顔を真っ赤にした早希ちゃんは高速でフードを被り直して、バッとベンチから立ち上がった。


「あー! そう言えば、私はもう少し走らないといけないんだったー!」


「え、何かあるの?」


「あ、いえ。そういう訳じゃないんですけどー! 運動しないとすぐ太っちゃうんで!」


「そうなんだ。意外」


 全然そういう風には見えないけど。少し様子が落ち着いた早希ちゃんは真面目な顔で頷いた。


「はい!……お兄さんがちょっと特別なだけで、普通はまず痩せるのに苦労するし、痩せた後も維持するのは大変なんですよー」


「……そうなのかあ」


 僕の場合は、朝毎日走ってるし、お菓子をほとんど食べなくなって、それで体重が減ったのかと思ってた。

 でも確かに、言われてみればそもそもの体質とかもすごく影響しそうな気もした。僕、昔も痩せてたしね。


「そうなのです。……あー、あと私に関しては、太っている風に見られやすいからっていうのもあるけど……」


 彼女はパーカー押し上げる自分の胸元をちらりと恨みがましく睨んだあと、こっちに軽く頭を下げた。


「それじゃ本当に私はこれで。もしして欲しいことがあったら何でも言って下さいね? 商店街のことに関してなら、力になれるかもですよー」


 そう言って笑って、彼女が軽やかに公園を走り去っていくのを見送る。

 ……優しくて賢くて、人のことを思いやれる、芯のある女の子。

 ベンチの彼女の座っていた場所に、甘くて、でも少し落ち着くような良い香りが残っている気がする。……駄目だ駄目だ、流石に気持ち悪い。これ以上は考えちゃいけない。


 僕は慌てて立ち上がり、家までの道を歩き出した。


 極力更新しますが、毎日は厳しいかもしれません。よろしくお願いします。

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