僕は準備をした
「――――だからその時、俺は言ってやったのよ。『ジョージ、痩せたのはお前の馬だけだろ』ってな」
御手洗君がそう言って話を締めくくり、どうだ、とこちらの様子を伺ってくる。
僕は隣に座った霞と顔を見合わせた。彼と仲良くしようね、と霞にアイコンタクトすると、分かっているとも、と頷きを返される。
「……あはは、そう来たか~。ちょっと意外だったね、霞?」
「普通につまらなかった」
「そうそう、普通につまらない……って、ええ!?」
霞はバッサリと切り捨てていた。
「ちょっと!? さっきのアイコンタクトは何だったの!?」
「? 思ったことを正直に言ってやれってことだろう?」
「違うよ!? いくら本当に面白くなくても、そんな言い方したら傷つくでしょ!?」
「…………くすん」
お祭りの準備、その二回目の集まり。
今日は最初から御手洗君と僕達の三人で作業をしていた。
僕達は手を動かしながら彼の言う、とっておきの小話を聞いていたんだけど。
静かになってしまった御手洗君を前にして、僕は小声で霞に話しかける。
「せっかく3人で作業してるんだからさ、もうちょっとさぁ……」
霞も僕の耳元に口を寄せて意志を伝えてきた。
「余計なお世話だよ。君はボクの母親かい? ……別に、必要以上に馴れ合う必要は無いだろう」
「…………」
まぁ。
確かに霞の言う通り、突き詰めて考えれば仲良くする必要はないのかもしれない。
「でも、どうしても嫌ってわけじゃないなら、仲良くした方が楽しいし、楽だと思うけどな。それに、霞も趣味の合う人と話す機会って、そんなにないでしょ?」
「! ……まあ、それはね」
「そう。まだ知り合ったばっかりだし、もう少し話してみてもいいんじゃない?」
「……分かったよ」
ふぅ。
まぁ、この辺が落としどころかな。
御手洗君の方を見ると、黙々と作業を進めていた。僕達も頑張ろう。
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「……………………よし、終わった」
さっきから作っていた何個目かのペーパーフラワーが完成した。机に置いてあった材料の紙がなくなったから、二人がそれぞれ手元で作っているので最後かな。
「俺も出来た。……これ、ステージにつけるんだっけ? ちょっとちゃちくね?」
御手洗君は自分の手元の花を見て笑っている。
「ははは、まぁ飾ったら意外と映えるのかもしれないよ。……そういえば、今年はステージに出る人が足りてないって聞いた?」
「ああそれ、この前母さんが話してたかも」
「へぇー。ま、俺達の気にすることじゃないだろ。それより、キリ良いしちょっと休憩にしようぜ」
御手洗君は作り終えた花を机に置くとそう宣言して、ポケットからスマホを取り出して横向きに持ち換えた。と、霞がその画面をのぞき込んで言う。
「何をやっているかと思えば、それかい?」
「! 知ってるのか?」
「まぁ、少しかじっているね」
僕もちらりと彼の画面を覗くと、何かのゲームをしていた。
「お、おお。……じゃ、じゃあさ、フレンドになろうぜ」
「ん? ……しかしこのゲーム、わざわざフレンドになるメリットが薄くないかい?」
「……お、おう。まぁ、そうかもな……」
「そんなことより、このゲームの真価はやはりシナリオにあると思うんだが、どうかな?」
「! そう、そうなんだよな! 圧倒的ボリューム、そしてクオリティを伴ったシナリオ。そもそも、まだこのゲームが出る前に原作をPCでやっていた俺に言わせればだな……」
ゲームに詳しくない僕は二人の話についていけない。休憩と言ってもそんなに疲れてもいないので、今のうちにこれからの作業のことを考えておこうかな。
……えっと、次に作るのは看板かな。
よし、前に座っている平岡さんに話を聞きに行こう。
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僕が部屋の前方に向かうと、そこの机では今日もちょっと遅刻してきた平岡さんが小さな声でぶつぶつ言いながら、何かを書きつけていた。
「くそ、どいつもこいつも杜撰な仕事しやがって……はぁ!? レシート紛失しましただぁ!? 舐めてんのかよ!」
「…………」
……ちょっと待った方がいいかな。いや、でも平岡さんの独り言は止む気配が無い。意を決して声を掛けてみる。
「あの、何してるんですか?」
顔を上げた平岡さんは一瞬怪訝そうな顔をしたけど、普通に答えてくれた。
「あん? ……あ、これか。これは祭りの準備で買った物の記録を取ってんだ。予算内に収まってるかどうかの確認用だな。来年の予算にも関わってくるから、適当にやるわけにもいかねぇし……なかなか怠いんだわ」
「…………そ、そうなんですか」
なんだか、口調がいつもと違うような。僕のそんな視線に気づいたのか、平岡さんはへっと笑った。
「そりゃ、小学生のガキどもって言ったって、あいつらの大部分は商店街の知り合いのガキだからな。下手なこと言ったら俺が親父に殺される。まぁ、その点分別の付いてそうなお前の前なら良いだろって訳だ。…………で、何か用か?」
「あ。えっと、看板作ろうと思うんですけど、出店する店のリストってありますか?」
「おう、それか。ちょっと待ってな。……しっかし頑張るねぇ、お前も親にどやされて来たんだろ?」
「いえ、特にそういう訳じゃないです」
僕が首を横に振ると、ファイルの中からリストを取り出しながら平岡さんは目を丸くした。
「マジか。よくやるねぇ。……それじゃこれな。ま、ほどほどに頑張ってな」
お礼を言ってプリントを受け取って、席に戻ろうと振り返って室内を見渡した時、近くの小学生たちのところの画用紙が残り少なくなっているのが分かった。ついでにそれも前の机から取って持っていこう。
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この部屋で一番割合の多い小学生たちは、固まって作業をしていた。邪魔しないように彼らの脇に画用紙をそっと置いて離れようとしたんだけど、一人の小学生がこっちを見ていた。
「あ……ありがとうございます」
「気にしなくていいよ」
怖がらせないように笑顔を作って手を振って、それで終わりのつもりだったけど、その子はとことことこちらに歩いてくる。
「おにいさんって、たべるのすきなんですよね? うちのおかし、おいしいですよ」
僕は屈み込み、目線を合わせながら話を聞く。
「へぇ。おうち、お菓子屋さんなのかい?」
「うん! パパとママね、とってもつくるのじょうずなの!」
それはすごいね、と頭を撫でてあげると、その子はえへへと嬉しそうに笑った。……小さい頃の妹を思い出していると、いつの間にか小学生に囲まれてしまっていた。
「おいおまえ! おれんちのにくもうまいぞ!」「ぼくのうちのさかなも、したがとろけるほどうまいよ」
集まってきた子達の話を聞く。皆人見知りとかしないんだなぁ。
……あ、そう言えば商店街の子ども達はよく集まって遊んでいたと思うから、知り合いが多いのかもしれない。実際僕も昔、遊びに混じったことがあった気がする。
周りを見ると、高学年の子供たちが、数人で集まっておしゃべりしていた。喋っている彼らの脇には飾り付けの折り紙が置いてあるけど、あんまり作業が進んでいるようには見えない。…………まぁ、僕が言うべきことじゃないよね。
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少しすると小学生たちは作業に戻っていて、僕も席に戻ろうかと思っていると、
「……なぁおい、そこのあんた」
「…………あ、僕?」
今度は近くにいた中学生に声を掛けられた。男の子三人組だ。
……うん? この三人、前にもどこかで見たことあるような……。いや、気のせいかな。商店街の子どもなら、この辺で見ていてもおかしくないんだけど。
「あんた、相良と仲良いのか?」
「あ、うん。割と」
「へ、へぇ……そっか」
僕が返事をすると、その子は目を逸らしつつ頬をかいた。その仕草はいかにも興味ないですよ、と何でもない風を装ってる感じがした。……ん、んん?
「えっ、もしかしてだけど。……霞のこと、好きなの?」
思わずそんなことを聞くと、彼は突然顔を真っ赤にして椅子から立ち上がった。
「は、はぁ!? ば、バッカじゃねぇの!? と、ととと突然何言ってんだよ!?」
「なんだ、違うかぁ……」
彼女は普段そういう話をしないから、つい気になっちゃったんだけど、僕の勘違いだったかな。と、その子の両隣に座った二人の中学生が口を開く。
「おいおい健太、嘘は良くないぜ。お前前から相良のこと気になってるって言ってたじゃねーか」
「相良が来るって言うからこのイベントに参加したのにな。こんなイケメンで年上の彼氏いたら詰みだな、ドンマイドンマイ。次いこうぜ次」
「うわぁぁああああああああああ!」
健太と呼ばれた彼は泣きながら小会議室を飛び出して行ってしまった。残った二人と僕は顔を見合わせる。
「…………ごめん、余計なこと言っちゃったかな?」
「や、傍から見てたら誰でも分かることなんで。……あー、でも一応、相良さんには言わないでもらっていいっすか?」
「勿論」
僕が頷くと、二人はぺこりと頭を下げた後に部屋を出て行った。多分、先に出て行った子を探しに行ったんだろう。……それにしても、霞は学校ではどんな感じなのかな?
久しぶりの投稿になります。待って頂いていた方、お待たせしました。これから極力毎日更新できるように頑張りたいと思います。




