演劇部員たちの噂話
ある高校の演劇部室に、三人の部員が集まっていた。
「ねぇ聞いてよ二人共、さっき私さ、凄いの見ちゃった」
そう言ったこの少女の名前は千沙。ゴシップが好きな彼女がこうして話始めるのはよくあることなので、他の二人もまたかと思いつつ彼女の方に寄った。
「なに、どしたの」
「練習前だから、この前みたいな三十分コースはやめてよね」
「オッケー分かってるよ。……それでさ、私今日ここに来る途中商店街通ったんだけど、そこのパン屋の前に…………なんと、竜一君がいてさぁ!」
「えー!! なにそれ、私も見たかった~! 竜一君成分補給したかった~!」
沢村竜一の追っかけを自称するこの少女の名前は優月という。夏休みに入ってから不定期に色々な運動部に現れる竜一を中々見かけることが出来ず、最近は秘密裏に入手したクラス写真に写った竜一を毎朝眺めてから登校している。
「へぇー、あの王子様がねぇ。でも優月、話したことないでしょ」
やれやれと肩を竦めた自称姉御肌の少女は早苗という。理性的な彼女は二人の話に相槌を打ちつつ、今日の練習終わりにどこでアイスを買って帰ろうかを考えていた。
「う〜、だって、話しかけるのなんて無理だよお」
「まーねぇ。あの人と気軽に話せるのって、文芸部の二人くらいじゃないの」
沢村竜一の人気は学校中に広がっている。そんな彼が各部の熱烈な希望にも関わらずどの運動部にも所属せず、三人しか部員のいない文芸部に所属していることは周知の事実であった。
「あぁ……あの二人ね」
早苗は訳知り顔で頷いた。彼女の脳内では現在、近場のコンビニで適当に買う派閥と商店街へ行ってがっつり食べる派閥が十年戦争を始めている。
「そういえば冬二君、元気かな。夏休み入ってから会えてないな……」
と、そこで話題に上がったもう一人の男子について、優月がふと思いついたように口にした。
「あ、優月、桐山と仲良いんだっけ? じゃあ竜一君も紹介してもらえばよかったのに」
桐山冬二と沢村竜一が頻繁に行動を共にしていることもまた、周知の事実であった。彼らが放課後寄った商店街の店が、その後生徒達の間で密かに話題になるのはよくあることである。
「いや〜、なんかそういう人多そうじゃない? だからちょっとね……」
実際、見た目とは裏腹にどこか周りを寄せ付けない雰囲気のある竜一より、穏やかな性格をしていて人当たりもいい冬二の方が近づきやすいのは間違いなかった。そして竜一目当てで冬二に近づく人も、いないとは言い切れなかった。
優月はあはは、と頬をかいたのだったが、そんな優月を見て千沙はあー! と声を上げた。
「優月、乙女の顔してる!」
「!? いや違うからね!? 冬二君はそういうのじゃないからね!? いいお友達だから!」
あたふたと手をわちゃわちゃさせてる優月。この女、アイドルと好きな人は完全に切り離して考えるタイプである。
「……あー、そういう感じか」
全てを悟ってしまった顔で早苗は深く頷いた。やはり、今日寄るのは商店街で決まりだ。
「本人に自覚無いパターンかぁ。……でもあいつ友達多いし、いつもお笑い担当みたいになってるからあれだけど、何気に隠れファンは多そう」
知ったような口を利くこの少女、千沙も実は冬二とはそこそこ仲の良いつもりだったので、優月の気持ちを知って若干動揺していた。
「桐山君、文芸部だけだよね? 演劇部に誘ってみる?」
一応二人の話も聞いていた早苗はそんな提案をしてみた。出来る女である。ちなみにこの女、冬二には以前宿題を忘れたときに見せてもらったことがある。
「確かに……演劇部の他の二人は兼部してるし、いけるかも? 私から声掛けてみよっか、この前一緒にカラオケ行ったし」
本人的にはさりげなく冬ニと仲良いアピールを挟んだ千沙はふふんと腕を組んだ。ちなみにそのカラオケはクラスで行ったやつである。しかも肝心の牽制したかった優月は既にもういっぱいいっぱいで、その部分は特に聞いていなかった。
「あーもう、この話終わりー! それで何だって千沙、話の続き!」
「んー? ……あ、そうそう。それでさ、パン屋の前に竜一君が座っててさ」
「うんうん! スポーツ万能成績優秀、家はお金持ち、それで口調はオラオラ系! でも見た目はうっかり女の子かと思うほどの美少年! こんなに属性の多い人、竜一君以外にいないよね!!」
己の推しの魅力を全力で語る優月。先ほどまでの空気をかき消さんとするこの少女、たぐいまれなるドルオタの資質の持ち主である。
「そうだよね、私もあの甘い声で乱暴に罵られたいよ。……しかも、しかも今日はこれだけじゃ終わらないんです」
「ほう」
「詳しく聞こうか」
千沙の思わせぶりな言い方に前のめりになる二人。なんだかんだ優月も早苗も話好きな女子高生、噂話には目が無いのであった。
「あのパン屋のベンチにさ、竜一君ともう一人いたんだよね…………その人が、もう超イケメンでさぁ!」
「へぇ」
「ふぅん」
「反応薄!」
「いやだって、竜一君のあとじゃ霞むでしょ」
「それな」
「や、それが違うんだって! 竜一君とはまた違ったタイプでさぁ、がっしりした感じで、で、髪は短めで、眼もちょっと吊り上がり気味で俺様系っていうかさ、もうほんとにかっこよかったんだって!」
「へぇ~。でも、うちの学校にそんな人いたかなぁ」
「分かんない! けど二人仲良さそうだったから、もしかして転校生とかかな」
「あ、じゃあ夏休み明けに転校してきたり? その人、幼い頃に結婚の約束をしたがその後親の転勤で離れ離れになって高校二年生の夏休みに再び出会った幼馴染説ある?」
「それあるかも!」
この三人、男同士も全然いける口である。
盛り上がってきた三人は、他の部員も集まり顧問が怠そうに入ってきて稽古が始まるまで、話を続けたのであった。
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