僕はバイトを楽しんだ
夏休みが始まって三週間が経った。
「いらっしゃいませ、二名様ですか? ご案内致します」
今日はバイトの日だ。
「ご注文が決まりましたら、お声掛けください。失礼します」
よし、次はあっちのお客さんのところに…………と思ったら、天道さんにお客さんが話しかけているのが聞こえて来た。
「――――ねぇねぇ、君可愛いね!」
「えぇ~、そんなことないですよぅ」
「いやいや、そんなことあるって! それでさ、よかったら俺とこれから遊ばない?」
「すみませぇん。うち、そういうの駄目なんでぇ」
「じゃあ、連絡先だけでも、どう?」
「えぇっと、だからそういうのはちょっとぉ……」
「――――お客様、何か御用でしょうか? 天道さん、店長が呼んでたよ」
はぁい、と返事をした天道さんが店の奥に入っていくのを見届けて、話していたお客さんの方を見る。何故かその男の人は青い顔をしていた。
「あ、いや何でもありません、ハイ……」
「そうですか? あとすみません、うちはそういうお店じゃないので」
「ハイ、すいませんでした」
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「ありがとうございました、またお越しください」
「ありがとうございましたぁ」
入っていた最後のお客さんが出て行くのを、天道さんと二人で見送る。
「二人共お疲れ様。取り敢えず今のでお昼のお客さんは最後だね」
「ふぇ~お疲れ様ですぅ。……あっ、おにぃさんさっきはありがとうございますぅ。助かっちゃいましたぁ」
「や、まぁ。あれで引いてくれてよかったよ」
「……基本的にはこの店のお客さん、皆良い人なんですけどねぇ。たまにああいう、ちょっとしつこい人がいるんですよぅ。だから助かりましたぁ、私だけだと、言っても中々聞いてくれませんからぁ」
「そうなんだ。……気をつけなね、可愛いんだからさ」
何か対策出来ることがないか、少し考える。…………うーん。
「あ~おにぃさん、それもしかしてぇ、口説いてますかぁ?」
「? いや、客観的な話だよ」
やっぱり、僕がもう少しお客さんの様子を見れたら良いのかな。
「…………そうですかぁ。……上の空でそういうこと言うのはぁ、ずるくないですかぁ」
「ふふっ、利香が照れてるのを見るのは珍しいな」
「! ちょ、ちょっと店長ぅ、別にそんなことないですってばぁ!」
あれ今、僕天道さんになんて言ったっけ。考え事しながら返事したら駄目だな。
「すいません、今何の話してました?」
「…………ぅ~!」
「ハハハ。何でもないさ。君は上手くやってくれてるよ」
「! いえ、全然、僕なんてまだまだです」
普通の仕事の方もまだまだ覚えることが一杯ある。店長はもちろん、本人は全然偉ぶったりはしないけど何気にすごく優秀な天道さんにも教わることばっかりだ。
でもその分色々なことを知れるし、何よりお客さんが楽しそうにしてたりするのを見るとこっちも嬉しい。
「謙虚なんだね、そういうのは好きだよ」
「何か分からないことあったら、私を頼ってくださいよぉ?」
このバイトを始めてよかったな。
よいお年を。




