第29話 鉄人の後釜
「機甲電人六戦鬼……?」
――ニューヨーク市、国際連合本部ビル。そこから真冬の夜景を一望できる部屋に招かれた火弾竜吾は、大都会を彩るイルミネーションを眺めながら、そう呟いていた。
その視線の彼方には、目前に迫るクリスマスに沸き立つ、ニューヨークの人々の姿が窺える。
「そう。半年ほど前、君が新宿で壊滅させた国際犯罪組織『BLOOD-SPECTER』。かつてその連中が保有していた、最恐最悪の殺人兵団だよ」
「それくらい知ってるよ。ていうか、ちょっとでも奴らについて調べたことのある奴が、ソレを知らねぇわけがねえだろ」
炎柄の革ジャンを羽織り、煙草を噴かしている竜吾と共に、その雪景色を見守る白髪の老紳士――エドワード・金城・ヘンドリクス准将は。深く頷きながら遠い眼差しで、空の彼方を見つめていた。
「……機甲電人は1機だけで、21世紀の戦車小隊にも匹敵する戦力を誇る、この時代における主力白兵戦兵器だが……その余りに高過ぎる戦闘力のせいで、当初は随行する兵士や警官が巻き添えを食う事故が多発していた。そこで、全ての機甲電人にはターゲットだけを確実に狙い、無用な被害を出さぬための『手加減』をプログラムするよう義務付けられるようになった」
「だが、機甲電人を入手したBLOOD-SPECTERは、そのリミッターを外す技術を開発して……無慈悲な殺戮兵器に逆行させていた」
「その通り。君が以前戦った、ABG-06もその一つ。機甲電人は正しく扱えば頼もしい平和の番人だが、一度悪の手に落ちればその力は、守るべき人間に向けられてしまう。……通常は頭脳部が損傷すれば、あれほどの狂乱状態になる前に強制停止するものだからな」
「……で。その話が今更なんだってんだ? BLOOD-SPECTERは壊滅して、六戦鬼と呼ばれていた6機のモンスターマシンも国連が回収したんだろう?」
「あぁ、回収したとも。一度はな」
「なに……?」
その発言に眉を潜める竜吾に対し、逞しい顎髭を撫でる国連軍の将官は、神妙な面持ちで言葉を紡いでいく。
老齢とは裏腹に鍛え抜かれた、身長179cmにも及ぶ逞しい肉体を、漆黒のスーツに隠した彼は――歴戦の軍人としての一面を、静かに覗かせていた。
「それから間もなく、奴らの残党による襲撃事件が起きた。……奪われたのだよ、6機全てが」
「……!」
「政府は混乱を回避するために報道を規制し、秘密裏にその行方を追い――つい最近になって、ようやく残党を捕らえる事に成功してな。奴らが手放していた六戦鬼の行方も、明らかになった」
「なんだって……?」
「ポーランドとスロバキアの国境付近に位置する、東欧の小国だよ。国土面積120k㎡、総計人口23000人。タトラ山脈の奥深くに在る、秘境の如き立憲君主制国家だ。そこでクーデターを起こして実権を掌握した大臣が、6機全てを管理しているという情報が入ってきた」
「そんな辺鄙なところに六戦鬼が? しかもクーデターって、なんでその国の大臣が……」
「……これだよ」
老紳士はそこで一度言葉を切ると、室内に設けられた大型テレビに視線を移す。そこでは、地球人類の前に突如現れた「異世界人」に纏わるニュースが毎日のように取り上げられていた。
『――それでは、次のニュースです。セイクロスト帝国第2皇帝、テルスレイド・セイクロスト陛下が来週、我が合衆国への7度目の訪問に――』
かつては結城輝矢という日本人としても暮らしていた、セイクロスト帝国第2皇帝――テルスレイド・セイクロスト。国境となる「門」を繋いでいる日本を含む、全地球国家との友好を望む彼の名は世界中に知れ渡り、今や誰もがその一挙手一投足に注目する人物となっている。
そんな大人物とかつて、肩を並べて異世界で戦っていた経験を持つ竜吾は――戦友を取り巻くこの世界の「負」を知るが故に、苦い表情を浮かべ、画面に映る第2皇帝の煌びやかな姿を見つめていた。
「今は、全世界が浮き足立っている。異世界、魔法……何もかもが我々の理解を超えている、異文明の出現にな。その混沌に乗じて技術や兵器を異世界に売り込み、富を築かんとする勢力も少なくない。イリーガルな手段に出てでも、な」
「……」
「そして、そのような連中の横暴を阻止することが、我々国連軍の急務となっている。ただでさえ異世界の情報を巡り、アメリカや中国、ロシア等が凌ぎを削っている状況なのだ。争いの芽になり得る因子は、早急に摘み取らねばならん。もし万が一、それで帝国に深刻な不利益が及ぼうものなら、これまで我々が積み上げてきた友好的な関係にも支障が出るだろう。最悪、異世界との武力衝突にも発展しかねん」
「……ははん、それで俺に六戦鬼を潰せって依頼をしたいと? 生憎だったな。相棒なら日本で留守番中だし、俺達はもう……」
「君が民間人でありながらROBOLGER-Xとして活動出来ていたのは、データ提供を条件に警視庁から黙認されていたからだろう。そして、警視庁が制式半機甲電人を開発し得るデータを揃えた今、君はお払い箱となった。ヒーローではなくなった今の君に、六戦鬼を倒す術はない」
「おいおい……そこまで分かっていて、なぜ俺を呼び出しやがった? 旅費から何まで国連が負担するっていうから、仕方なく来てやったが……指を咥えて見てろって言うためだけってんなら、流石の俺もおかんむりだぜ」
訝しげな視線を向けて来る彼に対し、ヘンドリクスはゆっくりと重い腰を上げ――エレベーターがある廊下を目指して歩み出して行く。
「人間と機械が手を取り合い、共に正義を守るべく戦う半機甲電人。大紋博士が残したその理念を継ぎ、実現まで漕ぎ着けた君の功績は計り知れない。軍や警察に属してさえいれば、ROBOLGER-Xの力は今も君のモノだったろうに」
「そういう話は警視庁からも日本政府からも、ウンザリするほど聞かされたっつの。あいつじゃあるまいし、そんなの性に合わねぇって。力が欲しくて『ヒーローごっこ』してたわけでもねぇしな」
「……だからこそ。そんな君にも、せめて知る権利くらいはあると思ってな」
「知るって……何をさ」
「君の『後釜』、だよ。……付いてきたまえ」
その後に続く竜吾の方へと振り返り、微笑むヘンドリクスの表情には――自身の色が満ち溢れていた。
◇
「ところで、君が格闘を教えたという例の娘……タカムラ君はどうだね? 君に代わる貴重な戦力になると思ったのだが」
「今のあいつはまだ、そう呼べるほどの段階じゃねぇ。この件までには仕上がらねぇだろうが……それで良いのさ。ガチでヤバい連中を一掃した後の世界を守って行くのが、あいつの仕事だからな」
「そうか……しかし君も、隅に置けんな」
「だろう? 自慢の愛弟子さ」




