春日局様の陰謀
紅葉狩りでの春日局が父を毒殺しようとした陰謀を阻止した俺。しかしそれでは我が生涯は終えるわけには行かない、とまた豊国大明神さまの手によってこの世に帰ってきてしまったのだ。
「……で、殿、いかが致します?春日局一派を闇討ちして全員斬ってしまう、というのは。」
と天さんがあっさり言い出す。
「いやそれは無茶でしょ。天さん腕は立つけど柳生宗矩はじめ柳生の腕っ効きが固めているもの。とはいえひとまず父上の毒殺を阻止しないと。」
それから俺は天さんと天さんの手下に相手の動向を調べてもらった。
「……うーむ。奴らを殺すのは無理でも使う毒は手に入りましたな。」
「さすがは天さん。これが毒ですか……」
と二人で毒の入った壺を前にして話す。もちろん全部盗んでは台無しなので毒は半分ぐらい取ってきた。
「……で、若様、いかがなさるおつもりで。」
「天さん、俺も天さんもかんたんには死なないよね。」
「……まぁそうですが……まさか。」
「うん。そのまさか。」
そして俺たちは考えられるあらゆる毒消しを入手して戻ってきた。
「ではいくぞ。」
「ご武運を。というかこれ若君が失敗したら次は私ということですよね。」
「そこをなんとか。」
「いやでござる。」
腰が引けている天さんに泣きついて、俺が三回試したら天さんが1回試すことになった。天さんが俺の死んだ回数を感知できるからこその手段だ。
「ぐはぁ!」
「また失敗にござる!」
…とりあえず5個目の毒消しまで使って失敗に終わった。
「しかしお役に立てず申し訳ない。」
と天さん。うん。天さん死なないけど復活に時間かかるので天さんが死ぬと試すのが遅れちゃうんだよね。というわけで毒を試すのは全部俺になってしまった。
「ぐはぁ!」
「また失敗にござる。」
……と試し続けること13個め。
「お、いけそうか。」
「若君駄目でござる。拙者が見たところ、4日後に若君は死にまする。」
……そして四日後俺は死んだ。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「おお忠長よ、って略していい?」
とあまりの回数の多さに豊国大明神さまはなんか息切れしている。
「いいですよ!この局面乗り切るまでは俺が死んだらすぐ戻してください!」
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
……と試し続けること33個め。
「お、この薬飲んでから毒、その後この薬を飲むと今の所なんともないぞ。」
「吾輩の見たところでも若君、毒は完全に制御されておりまする!5年後に死ぬ、とかもありませぬ!」
……そう、3年殺しとかややこしいのもあったので『後でやばい』と判明した時はさっさと殺してもらっていたのだ。変な所に慣れるな俺。
……こうしてついに春日局(と柳生)の毒に対する完璧な対策を身に着けた俺は紅葉狩りで弁当をパクパク食べた。
「おお、春日局様の弁当は美味しゅうございますな。しかし父上には私の用意したこちらのお弁当を!」
「お、なにがやりたいのかよくわからないがそちらの弁当はわしの好物ばかりではないか。よしよし、わしはそちらを食べよう。」
と父上は俺の用意した安全な弁当を食べられた。
「……春日局様、柳生宗矩様と一緒に後でお話が。」
後ほど、江戸城の俺の屋敷に二人を呼びつけた。
「……こちらが春日局様が用意なさった弁当です。お二人もいかがですか?」
いやぁ、などと遠慮されている内に春日局様が抱いている猫がこちらに飛び出してきて、弁当の魚を食べてしまった。とすぐにギャアアアと声を上げてのたうち回り、死んでしまった。
「……これはどういう事で?お二方。」
「かくなる上は若君御免!」
と言って斬りかかってくる柳生宗矩さすが剣速早い!しかしそこに横から飛び出る柳生十兵衛が真剣白刃取りで受け流す!
「父上!お止めくだされ!」
「十兵衛なぜお前が。」
「私が呼んで来ていただいていたのです。」
俺が続ける。
「父を毒殺しようとしたお二方の陰謀、すでに露見しております。」
「そなたはわらわらをどうするおつもりじゃ!」
「どうもいたしませぬよ。お二方は徳川家にとって大事なお方です。しかし父を毒殺するようなことは止めていただきたい。」
「しかしそうでもしないと諸侯が貴殿を将軍に、と担ぐ機運が高まりすぎていて不安なのじゃ!」
「私は将軍には就きません。将軍は兄、家光のものです!」
「なぜじゃ!」
「私は上を見すぎて高転びになりたくはないのですよ。それに私は兄が優秀な将軍に成れることを知っている。将軍に必要なのは見栄えではなく天下を切り盛りする才覚でしょ。」
「うーむ。そのようなことを申されてもにわかに信じられませぬ!」
という春日局様に、考え込んだような柳生宗矩様が口を開く。
「いや、忠長様の言うことを信じてもよいのかも知れませぬぞ。」
「なぜじゃ。」
「実は天海僧正から聞いたのですが……」
と伊賀甲賀の忍軍争いを止めた話をした。
「……というわけで忠長様は競わせるのを止め、家光様が跡取りである念押しを家康公にしたとか。」
「その様な荒唐無稽な話、わらわには信じられませぬ!」
という春日局様の前に天さんが現れた。
「いえその話は真実であります。こうして忠長様に恩義を感じた我々伊賀忍者がこのようにお仕えしているのであります。」
と言って天さん配下の手練共がその忍術の一端を見せる。当然奥義は見せていないのだろうけど。
「おお、おお、なんというこの世のものとも言えない技の数々よ……」
と驚く春日局様。うん。恐慌状態にならないだけさすがの女傑。
「……この様な者たちを率いられているわけで、忠長様が本気ならば我等柳生と死闘を繰り広げどちらが勝つとも言えない事になったでしょうな。しかし、忠長様が十兵衛に声をかけられた、ということは。」
「我らと和議を結ぶ用意がある、ということか。」
「さすがは春日局様であります。」
と俺は引き取った。そして今後は将来の家光様を共に支えていこう、ということで共に固く約束を結び、父秀忠の危機は去ったのであった。
「しかし。」
と春日局様が続ける。
「徳川将軍の権威を打ち砕く陰謀、幕府権威失墜を狙う九条関白道房・三条大納言実条・烏丸少将文麿らはどう思うかな?」
うへー。某一族の陰謀、前半戦防いだんだから後半の話はやめようよ。とにかく兄の首は斬らせないぜ。




