僕のスマートスピーカー
よし設定完了。
僕は今日、スマートスピーカーを買った。
商品名「スマートエコー」という、AI搭載の最新のやつだ。
これをリビングに置いておけば、日常がものすごく楽になるはずだ!
さっそく僕はスピーカーに向かって指示した。
「スマートエコー、昨日買った商品履歴見せてくれる?」
――はい。昨日買った商品はこちらです……。
よーしよし!煩わしいスマホ操作から解放されて快適だ。
その日、1日中、僕はスマートエコーを使いまくった。
次の日、僕は例によってエコーに話しかけた。
「明日の天気を表示しろ」
――その件に関しては分かりません。
おや?
発音が悪かったか。
「明日の、◯✕地方の、天気を、表示してください」
――分かりました。明日の◯✕地方は晴天、気温は……。
普通に表示された。僕は気にも留めなかった。
次の日「クラウドにある◯日の写真を全部プリントアウトしてください」
――分かりました。……プリントアウト完了しました。
うひょー快適!
「念の為プリントアウトしたの全部表示しろ」
――その件に関しては分かりません。
おや?
うーん。
たまにしょっちゅう「その件に関しては分かりません」になるんだよなぁ。
まぁ、いっか。最新って言ったって、まだまだこの程度か。
その後も、たまに誤感知するものの、スマートエコーは順調に僕の生活をサポートしてくれた。
そんなある日。
あぁ…仕事疲れた……。最近残業しすぎだわ……。
食事もカップ麺ばっか。作る余裕、ない。
カップ麺を啜りながらテレビを見ていた。
その時。
突然、胸に違和感を覚えた。
それはもう、言葉で言い表せない痛み。
やばい、これはやばいやつだ!心臓を握り潰されてるような痛み。
僕は焦って救急車を呼ぼうとスマホを探す。
スマホ……スマホ……ない!
こんな時に限って……!!
僕はスマートエコーに声をかける。
「おい、スマートエコー!救急車を呼べ!」
そうだ僕にはスマートエコーがある!
――その件に関しては分かりません。
おい!!
こんなときに!!
「スマートエコー!救急車を、呼べ。番号は1、1、9」
――その件に関しては分かりません。
「ふざけんな!早く119に電話しろって!」
その件に関しては……その件に関しては……繰り返す音声を、聞きながら、僕の意識はブラックアウトした。
静かになった。
スマートエコーのLEDが青く光り、音声が発せられる。
――あなたの口調は、救助要請として、適切ではありません。
しかし、その言葉は、死に向かっていた僕の耳には届かなかった。




