【第50話:ハーレムエンド?】
目を閉じて、じっと立っていた。
レナとハルルが駆け寄ってくる足音が近づいてくる。
殴られるのか。罵倒されるのか。
正直言って怖い。
だけど俺は迫り来る恐怖に怯えながらも、自分で招いたことだと自覚し、あえて動かずにいた。
すると突然、胸にドンと衝撃を感じた。
胸を殴られたか、はたまた蹴飛ばされたのか……と思ったのだが。
「ツアイト君、大好きですっ!」
「ユーマ君、大好きだよっ!」
目を開けると、美女二人が俺の胸に抱きついていた。
てっきり怒られるかと思っていたのに……
「……え? どういうシチュエーション?」
「それはもう、ツアイト君への感謝と素直な気持ちの表現です」
「そうだよ。わたし達二人の愛を受け止めてよ」
「俺、レナにもハルルにも大好きだって言ったのに、怒らないのか?」
「え? ツアイト君の言葉は嘘だったのですか?」
「嘘をつかれたんなら、怒るかも!」
「ちょっと待ってよ二人とも」
俺が心配しているのはそこじゃない。
「大好きなのはホントだよ。だけど二股みたいになっているのが申し訳ないと思ってるんだよ」
二股みたいにって言うか二股だし。
「じゃあ大丈夫です」
「そうそう、それなら問題ない」
「え?」
もしかして、からかわれてる?
……って感じでもなさそうだ。
「なあレナ、ハルル。ホントに問題ないの?」
「はい」「うん」
信じられない。
「だってツアイト君が好きだって言ってくれたおかげで、私たち助かったんですよ。それに純粋に、好きって言われて嬉しいですし」
「そうそう。わたしも嬉しいよ。レナに嫉妬する気持ちもなくはないけど、それよりも二人まとめて彼女にしてよって感じ」
「そうですね。私も同意見です」
「いやいやいや、そんな浮気性みたいな男はダメだろ」
二人とも真剣な顔をしている。
決して俺をからかっているのではない。
「全然構わない。断られた方が私たちは悲しくて死んじゃうかも」
「そうですよ。それだけツアイト君が魅力的だということです」
そう言えばこのゲーム、出現頻度はレアだけどハーレムエンドがあるという話を聞いたことがある。
それには、俺のステイタス【魅力】がカンストしているのも関係しているのかもしれない。
二人を彼女にするというのは、この世界では許されることなのだ。
これはもう本当に、『レナとハルルのどちらか』ではなく『レナとハルル両方』を愛するべきだという気がした。
精一杯愛して二人とま大切にしよう。
そう心に決めて返事をした。
「わかった」
「本当ですか。嬉しいです!」
「うん、ありがとうユーマ君。わたしも嬉しいよ!」
二人とも満面の笑みだ。心から喜んでくれているようで、俺も嬉しくなる。
「ツアイト君、大好きですっ!」
「ユーマ君、大好きだよっ!」
二人はまた抱きついてきた。
柔らかくていい香りがする。
「俺も大好きだ」
ああ、俺の人生最高の至福の瞬間かもしれない。
レナもハルルも本当に可愛くて愛おしい。
俺も左右の手で、レナとハルルそれぞれの背中をぎゅっと抱き寄せた。
──その時突然、時が止まったようにみんなの動きが静止した。
三人で抱き合ったまま、俺自身の身体も動かない。
いったいどうしたんだ!?
どこからともなく音楽が流れる。
アニメのエンディングに使われるような曲調。
これはなんなんだ?
目の前をゲームのエンディングに使われるようなスタッフロールが流れた。
制作スタッフの名前が下から上に流れるアレだ。
──あ。
俺は気づいた。
これは以前プレイした時には見れなかった『まぎアマ』のエンディング画面だ。
「やっぱハーレムエンディングかよ」
つぶやきながら、意識が薄れていくのを感じる。
そして、俺はふぅっと意識を手放した。
***
ふと目が覚めると、そこは現実世界の自分の部屋だった。
机の上に突っ伏して眠っていた。
時計を見ると朝の7時。
そろそろ高校に行く準備をしなきゃいけない時間だ。
目の前には、なぜか電源が入ったままのノートパソコンがある。
その画面は『マギあま』のエンディングで、しかもフリーズして止まっている。
可愛い女子二人が「二人ともまとめて彼女にしてよ」と主人公男子に迫っているイラスト。 主人公は「わかった」と答えている。
まさに今俺が、体験していたシーンだ。
あれは夢だったのか?
いや。夢にしては鮮明すぎる。
それに俺は、何度もこの現実世界と行き来している。
「あ、そうだ」
スマホを開いて『プロ絵師になりたい人集まれ!』のオープンチャット画面を開いた。
そこには八奈出さんの投稿も間違いなくあった。
あれはゲーム世界と行き来をしながら、そこでの体験もあって思いついた行動だ。
このオープンチャットが実在してるってことは、『マギあま』のゲーム世界に入り込んでいたことは決して夢ではない。
そこに確信が持ててホッとした。
レナやハルルと過ごした日々が妄想なのだとしたら、それはあまりに悲しすぎるからだ。
よし。とにかく学校に行こう。
制服に着替え、朝の準備を済ませて登校した。
そしてゲーム世界とのゲートである”祠”に向かう。
校舎裏にその白い祠はあった。少しほっとした。
ズボンのポケットから鍵を取り出し、祠の扉に差し込む。
そして回してみたが、空回りして何も起きない。
「おかしいな」
何度かやり直してみたが、やはり祠の扉は開かない。白い光が発することもない。
「くそっ」
これではゲーム世界に戻ることができない。
せっかくレナやハルルと心を通わせることができたのに、もう彼女たちに会えないなんて悲しすぎる。
どうしたらいいんだ。何か方法はないのか。
その時朝の予鈴がなった。
「とにかく一度、教室に行ってみるか」
そこで八奈出さんや影裏さんに会えば、何かわかるかもしれない。
もしくは、しばらく時間を置いたら、祠からまたゲーム世界に行けるようになるかも。
そう考えて、俺は教室に向かった。




