91 クロエと佳奈美
佳奈美というのは、可愛くて健気で優しい女の子。
銀色の綺麗な髪を靡かせ、肌は雪のように真っ白で。四肢はモデルが憧れるほど細長くて、凹凸のある身体つきもをつ。その上誰にでも優しくて、笑顔が可愛い女の子。
そんな彼女に、俺は恋をした。
この世界に生まれてから一度も恋をしたことがなかったのに、気づけば自然と彼女のことを好きになっていた。でも俺の心には一つだけ、気がかりが残っていた。
それは彼女はクロエなのか、ということだ。
クロエとは前世の俺の妻であり、転生した今でも愛している女性だ。彼女とは毎日のように愛し合っていて、その日々は今でも鮮明に覚えている。でもある日俺は死んで、彼女とは二度と会えなくなった。
でも俺は、諦めることができなかった。
俺がこうやって転生できているのであれば、彼女も同じく転生しているのではないか?という考えを胸に、今まで十五年間彼女を探し求めていた。
でもやはりクロエは見つけられなくて、俺は半分諦めかけていた。
そんな時だった。彼女と出会ったのは。
「私たち、どこかで会ったことがある?」
入学式の日、たまたま隣の席に座った彼女はあまりにもクロエと似ていた。いや、正確には、クロエにしか見えなかった。それは多分、魂が彼女こそがクロエだと教えてくれたからだろう。
でもその後俺は彼女はクロエではないと判断した。落ち着いて見てみると佳奈美はクロエとは全く容姿も雰囲気も似ていないから。
つまり俺は、上辺だけで彼女を見ていたということになる。今思うと最低だ。こんな俺のことを好きになってくれたクロエに向ける顔がない。
でも俺は次第に彼女がクロエなのではないかと思うようになった。それは話し方や仕草、あるいは少しずつ似てきた雰囲気などから。佳奈美は俺の打ち解けていく間に、少しずつクロエに似てきていたのだ。
そして俺はある日、彼女のことが好きなんだと気付いた。そばにいるだけで心が温かくなって、なんでもない話をしているだけでも綺麗に笑ってくれる彼女のことを。その一挙手一投足はクロエにとても似ていたが、俺はクロエでは無く佳奈美と向き合うということを決めた。
いつまでもクロエに縛られて佳奈美に嫌な思いをさせたくないと思ったから。そういう意味では、俺はクロエより佳奈美のことを好きになっているのかもしれない。でも何度も何度も話していくうちに佳奈美がクロエとは同一人物にしか見えなくなっていった。
正直な話、大好きになった佳奈美が心残りであるクロエの転生した姿であるなら、それ以上好都合な話はない。もしそうであるなら、俺はなんの罪悪感もなく佳奈美のことを好きでいられる。
でも俺の心にはまだ少しだけ、憂いが残っている。
それは多分、彼女とクロエの関係が明らかになるまで晴らされることはないだろう。だがまだ確認はしない。
それでもし二人が全くの別人であることがわかったら、俺は今目の前にいる好きな女の子のことを好きでいられなくなるかもしれないから。
だから俺は、佳奈美とクロエのことがハッキリするまで告白なんてしないつもりだった。もしまだ友達という関係であるのなら、俺が気持ちを抑えさえすればそのままでいられるから。
でも俺は、彼女への気持ちが抑えきれなくなって、とうとうその言葉を言ってしまった。
「好きだ」
と。




