9 隣の美少女
その後は他愛もない会話が続き、三人は入店から一時間半後に店を出て行った。
「ありがとうございました〜」
一人の店員さんの声を背に、三人は帰路についた。
「佳奈美ちゃんはお休みの日は何をしているんですか?」
そして店から数歩進んだところで花音がそのような質問をし、佳奈美は少し考えた後それに回答した。
「ん〜…基本家でゆっくりすることが多いですね。本を読んだり映画を観たり、ですかね」
「へ〜、意外とインドアなんだな」
これほどの美少女だから毎日のように外に出てショッピングでもしているのかと予想した柊は驚きを表情にし、その発言にに姉の花音も乗っかってくる。
「驚きました…。佳奈美ちゃんほどの美人であれば既に男性の一人や二人いるものかと」
「っ!?そ、それはあり得ませんよっ!!」
花音がいちいち言う必要もない爆弾発言を投下し、当然の如く佳奈美は反論をした。
「私、そんなことしませんよ!ていうかそもそも…男の子の友達だっていたことがないですから、そんな取っ替え引っ替えできるわけないですよ…」
佳奈美は過去の異性の悲しをし始めると途端に恥ずかしそうに頬を赤らめ、両手を使って顔を隠し始めた。
そしてそれを見た花音は意外そうに声を上げ、勢いよく佳奈美に迫った。
「え!そうなのですか!?私てっきり彼氏がいるものかと思っていましたよ。佳奈美ちゃん可愛いくて優しいですし」
「そ、そんなことないですヨォ…」
急に褒められて照れくさくなったのか、佳奈美は顔を逸らして明後日の方向を向いた。
だがその明後日の方向にはちょうど柊の顔があって、二人の目線はそこで交わる。
「…っ!!」
「……!」
だが二人はなぜか気まずさを感じて目線を逸らし、何とも言いにくい空気感となった。
しかしそんな中でも花音はニコニコと笑みを向けていて、彼女はさらに佳奈美に言葉をかける。
「じゃあ、柊が初めての男性のお友達ですね?」
「…はい」
「あら♡これはなかなか期待できそうな展開ですね♡」
なにが?
「まあ柊のことはそう簡単にはあげませんけど♪」
だからなにが?
そのようなことを考えている間に花音はこちらにやって来て腕に抱きついて来て、謎に姉弟の仲の良さ的なものをアピールし始めた。
だがそれをされると佳奈美にシスコンと勘違いされる可能性があるため、柊はすぐに花音を引き剥がして距離を取った。
「何くっついてんだよ!」
「だって今のうちに私たちが愛し合っていることをアピールしないと取り合いになるかと思いまして」
「何の取り合いだよ!?」
「柊の、ですよ?♡」
「何言ってんだよ…香賀さん引いてるぞ」
花音があまりにもベタついてくる為流石に佳奈美はこちらにドン引きの目を向けていると感じてすぐさまそちらを向いてみると、佳奈美はなぜかまた頬を赤く染めていて。
「え…どしたの?」
「いや、その…二人は恋人みたいに仲がいいなと思って…」
「それはよろしくない誤解だ」
「それに、花音さんの言い方が…わ、私が神庭くんのことを恋人として花音さんから取り上げようとしているみたいに聞こえて…」
「あー…」
この恋愛経験皆無の乙女はちょっとした花音の発言に勘違いをしてしまいそうになったらしく、フラフラと目線を彷徨わせながら口を開いた。
そしてそんなことを考えていたと言うことを知った柊は一瞬花音の言葉の足らなさに呆れたが、同じく恋愛経験皆無なためすぐに勘違いをし始めて。
「…!?た、確かにそう聞こえなくもないな…。これは姉さんが悪いぞ…!!」
「え〜、私ですか?私はただ柊とずっと一緒にいたかっただけなのですが…。誤解させてしまったのならごめんなさい」
「いえ…誤解しそうになった私が悪いので」
佳奈美と花音はお互いに謝って一応この誤解については一件落着したようなのだが、その傍で柊は今も少なからず誤解を加速させている。
(つまり、香賀さんは俺と恋人になることを想像したってことか…?そういう想像をするってことは、少なくとも俺のことを良いと思ってくれて…)
少なからず、彼女はこちらのことを嫌ってはないないだろう。
もし嫌いな人物であれば仮にそのような話題になったとしてもその人間との未来など想像もしないはずだから、佳奈美はこちらのことを友達としてある程度好いていてくれているのだろう。
いやもしくは、佳奈美は心の中では恋愛的な目でこちらのことを見ていたり…。
(いや落ち着け俺!!今目の前にいるのは今日あったばかりの友達だぞ!!確かに見た目も綺麗で性格も優しくて純粋で良い子だけど、それでもクロエじゃないだろ!!)
そこで柊は前世から心に決めている人物の顔を思い出し、何とか佳奈美への邪推を収めていった。
「ふぅ…それより香賀さん。家ってあとどれぐらいで着くんだ?」
とにかく先ほどの歪んだ考えを忘れるために自ら佳奈美に声をかける。
すると佳奈美は少し頭を悩ませた後、推測を交えた回答を出した。
「多分…もうすぐだと思う。この道見覚えあるし」
「へ〜、じゃあこの辺なのか。意外と家近そうだな」
今三人が通っている道は柊と花音の家の近くであるため、佳奈美の家は二人の家の近くであると推測できる。
それがわかった瞬間花音は大声で喜びの声を上げ、佳奈美に対して目を輝かせ始めた。
「えー!!じゃあこれから毎日遊べますね!!」
「そ、そうですね」
「嬉しいです!!家が近いお友達と夜にお散歩とか憧れてたんです!」
「そうなんですね…」
「姉さん、あんま香賀さんを困らせるなよ」
インドア派の佳奈美は毎日友達と遊んだり夜に散歩したりするのに抵抗があるのか、苦笑いのような笑みを花音に向けていた。
その理由に気づいた柊はすぐに花音にストップをかけ、佳奈美のことを庇った。
すると花音は珍しくこちらの意見に従って表情をしょんぼりとさせ、小さく佳奈美に謝罪をした。
「ごめんなさい…あまり家が近いお友達がいなかったのでつい…」
「大丈夫ですよ。私も近くに友達がいると思うと引越し直後の新しい環境での不安とかが薄れて気が楽ですから」
佳奈美は花音に優しく笑みを向け続ける。
「でもその、毎日夜にお散歩とかなると…私と花音さんだけでは不安で…もしよかったら、神庭くんも一緒だと嬉しいんですけど…」
佳奈美は夜に女性二人で散歩をするのが怖いらしく、こちらに散歩のお誘いをかけてきた。
それに対して柊は断るわけにはいかないと首を縦に振る。
「ああ。俺でよければ、毎日でも付き合うよ」
「そんなこと言って、一人だけ走り出すんじゃないですか?あなた、毎日のように夜走ってますし」
「え、そうなの…?それなら別に無理しなくてもいいけど…」
「いや、流石に友達が不安になっているのに放置はできないよ。だから俺も散歩する。走るのは…まあ歩くのも運動になるから大丈夫」
柊は毎晩走るのが日課であったが、今日からは歩くことが日課になりそうだ。
でもだからといって気を落とすことなどない。
なぜなら共に歩んでくれる友達がいるからだ。
やはり、友達とは良いものだ。
(クロエも、毎日一緒に散歩してたよな)
柊はまたクロエとの日々と今を重ねるが、別に佳奈美と重ねているわけではないから問題ない。
「あ、着きました。ここです、私の家」
そんな風に色々なことを考えているとどうやら佳奈美の家に着いたらしく、柊はその家に目を向けた。
「え…?ここって…」
「あら、もしかして」
その瞬間姉弟は大きく目を見開き、途端におもちゃを買ってもらった子供のようにテンションを上昇させた。
「「お隣さん!!!???」」
二人は同時に大きな声を上げた。




