87 デートではない
佳奈美がこちらの筋肉を触りまくっていたおかげでたくさんの人からの視線が集まってしまったため、二人は人目から隠れることができる場所まで帰ってきた。
「ふぅ…」
「あら、早かったですね」
そのテントで二人のことを出迎えたのは、天使のような美貌を兼ね備えた水着姿の美少女だった。
「もういいんですか?」
「まあ…いいよな?」
「う、うん…っ」
流石にこの空気のまま二人きりにされるのも気まずいのでそう言ってくれて安心した。
そしてその反応を聞いたもう一人の美少女は、嬉しそうに柊の手を取った。
「じゃあ今度は私とデートしてくださいね♪」
「あぁ…お手柔らかに頼む…」
このどこまでもブラコンの姉、花音は毎度のごとくデートのつもりで遊びにきているようで。でもまあ、今は逆にそういう明るい感じで来てくれた方が助かる。
「…で、何するんだ?」
「ふふ♡実は何も考えてないんです♡」
「……」
まあ毎年一緒に海に来てるからやることもなくなるよな。正直こっちもネタ切れだったし。
でもちゃんと彼女のことを満足させないと後で面倒なことになりそうなのでちゃんと考えることにする。
「ん〜…例えば、ちょっと遠くまで泳いでみるとか?」
「あ〜…とてもいいんですけど、今日はメイクしているので…」
「ん〜…じゃあビーチバレーとか」
「ボールがありませんね」
「だよなぁ…食べ歩きとか?」
「食べ歩き!!!???」
なぜか激しく反応を示してくる。
「お、おお…あの辺の屋台回ってみるか…?」
「はい!!ぜひそうしましょう!!」
花音はなぜか突然ノリノリになったが、納得してくれたならいいのでとりあえず歩き始める。
「じゃあ行くか」
「はいっ!!」
花音にさりげなく手を繋がれているが、一応気づいていないふりをする。でも流石にこんな美少女と手を繋いでいるとなると周りからの視線を感じるので、適当に話をして気を逸らす。
「にしても姉さんって食べるの好きだよな。海に来てまで食べ歩きするなんて」
「そうですね♪でも、こうやって水着で歩くのは中々できないことですから、とても新鮮で楽しいと思いますよ?♡」
「そういうもんか」
「そういうものです♡」
まあ楽しいならなんでもいいんだけど。
「でもアレじゃないか?せっかくダイエット頑張ったのにまた太るんじゃないか?」
「!!!!!!??????」
あ、これ地雷踏んだわ。
「し、柊…いつからそんなことを言うようになったんですかぁ…???」
「っ…」
(そういえば姉さんは今日のために滅茶苦茶ダイエット頑張ってたんだった!!)
ヤバい。目を見れない。
だって彼女は今日のために必死でダイエットを頑張っていたのだから。めちゃくちゃ付き合わされたからそれはよく知っている。
でもだからこそ、この発言は失敗だったことが身に染みるというわけだ。
(ヤベェどうしよう…流石に無神経すぎて我ながら引くわ…って、そういうのはどうでもよくて!!そんなことより早くこの人をどうにかしねぇと!!)
マズイ。そろそろ怒りのグーが出てきそうだ。まあ痛くもなんともないんだけど。
でもそんなことよりも、この人を怒らせることは死に値するほど面倒なことになるというのは今までの経験からよく知っているため、柊は急いで言い訳を綴った。
「いや、その…もしそうなったらまた一緒に頑張らないといけないなぁって思って…」
「ふぅん…また私に付き合ってくれるんですか?」
「それはもちろん…!俺だってスタイル抜群の姉さんが見たいし…!」
「ふぅん…なるほど…」
いつもならこれでいけるはずなんだが…!!頼む!!今回もいけてくれ…!!
「もしかして、それで私が許すと思ってるんですか?」
いけなかった。花音さんプンプンだった。
「いや…もちろんそんなつもりじゃないよ。もっとこう、別の形でもお詫びをするつもりだ…」
「例えば?」
「例えば…?えっと…その…」
もうこうなったら大胆な案を出すしかない。
花音が喜ぶような…尚且つこの怒りを鎮められるようなこと…。
…割といくらでも思いつくな。だってこの人、こちらのことになると単純だし。例えば今晩一緒に寝てあげるとかでも多分許してくれる。というかなんならさっきの一緒にダイエットの話で押しても多分許してくれる。だってそれぐらい単純なんだもん。
というわけで、もうなんでもいいのでパッと思いついたことを口にすることにした。
「今恋人繋ぎするとか…?」
「許しましょう♡」
「そりゃどうも」
うん、単純すぎるね。
彼女はいつもこうだ。弟のことになるとめちゃくちゃ甘くなる。今だって柊の提案を聞いた瞬間に態度を変え、一瞬で恋人繋ぎをしてきたのだから。
これがたまに面倒な方向に行くこともあるが、軌道修正だってそこまで難しくもない。まあ失敗したら地獄行きだけど。
でも今回は上手く丸めることができたので、とりあえずよしとしよう。
「…なあ」
「はい?♡」
「めちゃくちゃ見られてないか?」
「そうですね♡」
「…」
なんで嬉しそうなんだよ…。
こちとら周りからも視線が集まっていて恥ずかしいというのに、彼女は嬉しそうに身体を寄せてきていて。
恥というものはないのだろう?とも思うが、花音だからという理由で諦めがつく。
それよりも、今はこの状況について少しばかり話し合いたいところである。
「なあ、今日のところは普通の繋ぎ方で__」
「あ!あそこのたこ焼きが食べたいですっ!!柊!!行きましょう!!」
「あ、ああ…」
花音に手を引っ張られ、少し嫌そうについて行く。 でもまあ、たまにはこういうのも悪くない。こうやって姉弟で仲良くすごくのも楽しいから。
だから頼む。デートと勘違いするのはやめて。




