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81 二人と一人


「…なるほど。佳奈美(かなみ)ちゃんは(しゅう)のことが大好きだということがわかりました」

「〜〜っ!!」


 あの後も三十分ほど話は続き、最後には佳奈美はもう電池切れのように身体から力が抜けていた。


「ふふ、そんなに恥ずかしがらなくてもいいんですよ」

「だ、だってぇ…」


 まあ恥ずかしがるのも無理はない。だってこの三十分間ずっと柊のどこが好きなのやらどういう仕草がカッコいいとかを話させられていたのだから。


 でもそれはこちらからしても仕方のないことなのだ。だって大好きな弟のことを語り合えるんだよ?そんなの一日中でも話せる。でも流石にここでそんなことをするわけにはいかないので話を終わらせるために佳奈美に優しく言葉をかける。


「ごめんなさい、少しやりすぎました。でもいいじゃないですか。恋する乙女って感じがしてとても可愛いと思いますから♡」

「そうですか…?」

「はい!やっぱり人って恋をすると変わるんだなと思いました♡」

「変わってるんだ…」


 佳奈美は自前の手鏡を取り出して自分の顔を確認し出した。でも違いはよくわかっていなさそうで、最終的に疑問そうな目をこちらに向けてくる。


「変わってますかね?」

「ふふ、鏡で見てわかるものではありませんよ」

「そうなんですか?」

「はい。私から見て佳奈美ちゃんは間違いなく可愛くなりましたよ」

「そ、そうなんですね…」


 花音(かのん)が言っていることは全て事実である。実際に佳奈美は最近変わったと思っていたし、それが恋のせいだと知ってからその疑問が腑に落ちた。

でもそれは多分本人にはわからないことなので、佳奈美は理解できていなさそうにしている。


「やっぱり、私にはわかりませんね」

「そうですね。これは多分私みたいによく顔を見合うような友達でないと気づかないと思いますから」

「それってつまり…柊もですか…?」


 佳奈美の変化は他人から見ればなかなか気づかないぐらい小さいが、友達から見ればかなり大きなものだ。そしてその友達という括りの中には、当然柊という人物も含まれている。

 そのことに不安を感じたのか、彼女は緊張しながらこちらに質問を投げてきた。それに対し、彼女を安心させるために笑み向ける。


「はい。柊も気づいていると思います」

「〜〜っ!!そ、それってつまり、私が恋をしていることも…??」

「ん〜…それは多分気づいてないと思います」

「そうなんですか…よかったぁ…」


 まあ柊って鈍感だし。いやどちらかといえば女の子のことを避けてきたから気持ちを全然察したりできないだけかも?いや、でもこちらが不安な時とかは結構察して抱きしめてくれたりするし…て、今はそんな話どうでもいい。


 佳奈美は安心したように胸を撫で下ろし、直後にあることに気づく。


「でも…私が変わったことには気づかれてるんですよね…?」

「恐らく」

「じゃあその、柊も私のことを可愛くなったとに思っているんでしょうか…?」

「ああ…確かに…」


 柊は佳奈美とかなり親しい友達である。だから恐らく佳奈美が変わったことには気づいている。

 でもあの柊が佳奈美がどう変わったかまで理解できるだろうか?

 正直どちらとも言えないラインである。


「どうなんでしょうね…今度それとなく訊いておきましょうか?」

「やめてください!!絶対にやめてください!!」

「そうですか…?」


 せっかく彼女のために訊いておいてあげようと思ったのに。今晩コッソリ訊いておこっと。


「なら私からは何もしないでおきますね。二人の恋路を邪魔したくはありませんから」

「あ、ありがとうございます…」


 ウソである。

 この女、何もしないとか言っときながら今晩にも柊とイチャイチャしてメロメロにしてやろうと考えているのである。


 相変わらずブラコンすぎる。いや、ここまでくれば恋なのかもしれない。まあどちらにせよあまり良くはないけど。まあ柊のことを愛してるってことだから許してあげて。


「それよりも、そろそろ行きませんか?私、夏服が見たいんです」

「はい…わかりました」


 佳奈美は間違いなく柊に相応しい女性だ。容姿も綺麗で美しいし、内面も純粋で優しい。これ以上ないほどの人物だと言える。


 でもそんなの、羨ましすぎない?だってさ、そんな完璧美少女に迫られたら誰でも落ちちゃうでしょ?それはもちろん柊のだって例外ではない。このままでは柊が佳奈美に取られてしまう。それは喜ばしいことであると同時に、とても悲しいことでもある。だから花音は、どうすべきか悩んでいる。


(二人の恋は応援したい…けど、柊が私の手から離れるなんて、考えたくもない。私、どうすればいいんでしょう…)


 こんなジレンマ的な状況でも、最終的には決断を下さないといけない日が来る。今自分にできることは、その日が突然訪れたとしてもなんとか精神状態を保てるような準備だけだ。


(…どちらにしろ、私は二人の選択を尊重するだけ…。柊が幸せになれと考えたら、受け入れられるはず…)


 今の花音の幸せは、柊が幸せそうにしていることだ。


 そして柊が最も幸せになれるのは佳奈美と恋人になれた時だろう。そんなことはわかっている。

 そして二人の話を聞く限り、二人はほぼ間違いなく未来で恋人になるだろう。そんなことはわかりきっている。


 でも、どうしてもそれを心から祝福できない自分がいる。心のどこかで、柊がずっとこちらにいるままの世界を求めている。そんな未来、存在しないはずなのに。


(私、もう決めたはずだったんですけどね…。柊が幸せになるなら、私から離れて行ったっていいって…。でも、なぜか、どうしても受け入れられない…)


 心の中の悪魔が声をあげている。


(ごめんなさい…私、最低ですね…)


 自分の最悪な部分が垣間見え始める。それはいつか口から出てしまうという可能性を秘めている。


(でも、柊を不安にさせるわけにはいきませんよね…だからお姉ちゃん、頑張りますねっ…!)


 きっと柊はこちらが気にしていると知ったら確実に心配してくれるだろう。でも、幸せそうに笑う柊にそんな感情はいらない。柊にはただ、ずっと笑っていてほしいから。


 だから柊。絶対に私の気持ちに気づかないでくださいね

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