8 友達トーク
まあそんなわけで一人の美少女と友達になった柊と花音は家の近くにできたファミレスを訪れ、各々が思う存分昼食を頬張り尽くした。
特に柊なんかは想像し難いほどの量を食い荒らし、さらにはどでかいパフェを頬張っているため、佳奈美から少し引いたような苦笑いを向けられてしまう。
「あはは…神庭くんって沢山食べるんだね…」
「…」
だが食事に夢中になっている柊がそのような視線に気付くはずもなく。
「ふふ、相変わらず食いしん坊ですね♪」
「食べ盛りの男子高校生ってみんなこうなんですかね?」
「うーん、私もあまり見たことがあるわけではないので一概には言えないんですけど…少なくとも柊より食べている人はお父さん以外では見たことがないですね」
「お母さんは大変ですね…」
「まあ…食費を確認する度に恐ろしい何かを見たような表情はしてますね…」
「大変なんですね…」
食べることはいいことであるが、世間一般からすれば柊のそれは食べ過ぎに当たるため、佳奈美は未だに戸惑っている様子だった。
「そ、それよりも私たちも食べましょうか…」
「そうですね。でないと柊が食べ終わってしまいそうですし」
柊は大きいパフェを食べているのに花音と佳奈美が頼んだ小さなケーキを食べる方が遅いと流石に迷惑かと感じ、二人は颯爽とケーキを食べ始めた。
だがしかしその時にはもう遅くて、柊はそのタイミングでパフェを食べ終えていた。
「ご馳走様。美味かったなぁ」
「は、早いね…」
「ん?そうかな?別に普通だと思うけど」
「いや普通ではないと思うけど…」
「ふふ、柊はいつもこうなので気にしなくていいですよ。とりあえず私たちも早く食べちゃいましょうか」
なんか貶されているような気がしなくもないが、今は腹がいっぱいだからそんなことはどうでもよくて。
そんなことより気になることは柊の頭にいくらでもあるので、二人が食べ終わるのを待ってからそれについて話し始めた。
「そういえば香賀さんって最近こっちに引っ越して来たって言ってたよな?それってなんか事情があったりするの?」
「あ〜、それは」
柊の質問はあまりにストレートすぎるので佳奈美は少し回答に躊躇うかと考えたが、思いの外彼女はすぐに答えてくれた。
「お父さんの仕事の事情だね。昔から会社で信頼されてたから、今回本社に配属されることになったんだって。それで、私の受験とかの時期も何とか間に合ったからこっちに引っ越して来たって感じだよ」
「へぇ、そんな事情があったんですね」
「じゃあこっちのこともまだ全然わからない感じ?」
「そうだね。ここも新しくできたって知らなかったし」
佳奈美の事情は思ったよりも暗くなくて、柊は心のどこかで安心し、そして花音は何かを思いついたかのように手を叩いた。
「それなら!私たちが街を案内しましょうか?恐らく私たちと佳奈美ちゃんの家は近くですから、沢山案内ですますよっ」
佳奈美ちゃん大好きな花音はしれっと遊びの提案をし始めて、佳奈美もしっかりとその提案に乗っかっていく。
「ぜひお願いしますっ!最近道がわからなくて困ってたんです!」
「ふふ、そういうことならこちらとしても張り切って案内させていただきます♪行き先を考えるのは頼みましたよ、柊♪」
「え?」
なんか気づけば女の子と一緒に遊ぶ約束をされていて、今までそんな経験がない柊は驚きを見せる。
「マジでやるの?俺案内とかしたことないんだけど」
「大丈夫ですよ。私だって案内なんてあまりしたことがありませんから」
「あんた今日新入生を案内してただろ」
「あら、そうでしたっけ?」
「…」
これが無自覚系美少女ってヤツか。
ただの美少女だったら普通に可愛いんだけど、花音は姉だから普通にウザかったりもする。
だがそれを言葉にはせず、ジト目を向けてこちらの感情を伝える。
「ふふふ」
「…」
だが花音は全くこちらの気持ちに気づく気配がないため、諦めて花音の話に乗ることにした。
「はぁ…とりあえず近場の店とかを案内すればいいんだろ?」
「はいっ!」
「まあそんぐらいならなんとかなるか…」
正直緊張でどうにかなる可能性があるが、もうなるようになれと考えて心の準備もできぬまま承諾をした。
そしてそのまま話は続き、今週末に街案内をすることが決まった。
「ふふ、楽しみですねっ」
「はい。どんなところに連れて行ってくれるか楽しみにしてます」
「プレッシャーかけないでくれよ…」
二人からの視線は柊にとってはただのプレッシャーでしかなくて、まだ期間がある今ですら緊張している。
そのため本番になるとどうなってしまうのかとても不安であるが、それを今考えても余計緊張するだけなので頑張って考えないようにして。
とりあえずこの話を忘れるために話題を変えたいと柊は口を開こうとしたのだが、そこで花音に先手を取られてしまってこちらに質問を投げられる。
「そういえば、柊は生徒会に入る気になりましたか?」
花音は以前から柊にしていた話をあえて佳奈美の前で持ち出して来て、こちらにプレッシャーをかけてくる。
だがしかし柊の意志は固いため、当然の如くそれを否定する。
「いーや、全然」
「え〜、生徒会楽しいのに…佳奈美ちゃんも入るんですよ?」
「そ、ソレハタノシクナリソウダネー」
佳奈美を引き合いに出されると回答に困る。
だってここで否定などすれば佳奈美のことを嫌いに思っていると思われるかもしれないし、逆に全肯定すれば好きすぎだろとキモがられるかもしれない。
なので柊は棒読みという手を使って何とかはぐらかしたが、そこで佳奈美からの言葉が飛んできてしまう。
「そうだね!神庭くんがいればもっと楽しくなりそう!」
「っ」
クソ、その笑顔滅茶苦茶刺さるぞ…!!
佳奈美はあくまで純粋な気持ちでそう言葉をかけてくれたが、ごく一般的な男子高校生にとってそのような発言は少し刺激的に感じてしまう。
まあ言うなれば、ボディタッチをされただけで勘違いをしてしまう男子高校生のアレである。
そんな可愛いらしい反応を普段柊は示さないのだが、なぜか今回だけは心の底から湧き上がるものを感じ取って。
(な、なんで俺…こんなにドキドキしてんだ…?)
ただ普通の女友達から少し嬉しいような言葉をかけられた程度なのに、心は必要以上に昂っている。
そんな感じたことのない違和感に対して柊は疑問を抱くが、それよりも今は目の前にいる笑みを向けてくる友達に対して言葉を返さなければ。
「ごめん…。やっぱり、生徒会は無理かな。楽しそうだとは思うんだけど、やっぱり重圧とか責任とかあるし。せめて、もう少し考える時間が欲しい」
「…そっか」
今まで花音に言い寄られた時はただただ否定するだけであったが、佳奈美に綺麗な笑みを向けられた今は時間を欲するような対応をとり、これも花音の思惑通りなのかと思考を巡らせた。
でも今回ばかりは花音の手のひらの上で踊らされても仕方がないだろう。
まだ会って間もないはずの友達にここまで期待してもらっているのだから。
「マジで、ちょっと真剣に考えさせて欲しい。姉さんから色んな話とか聞いて、その上で結論を出したい」
「ふふ、いいですよっ。まあ今までにも生徒会の話は沢山して来たんですけど、もう一回お話ししてあげますねっ♪」
「ああ、頼むよ」
今まで花音の話なんて適当にあしらって来たが、今日からはちゃんと耳を傾けようと心に誓いつつ、対面の席にいる佳奈美に目を向けた。
「香賀さんも…もしよかったら、生徒会での出来事とか沢山聞かせて欲しい。情報は沢山あった方が判断しやすいから」
「うんっ!沢山楽しい思い出教えてあげるから、神庭くんもその思い出の中に登場できるように生徒会に入ってねっ!」
「あはは…考えておくよ」
花音からも佳奈美からも強引な誘いを受けて正直決意がかなり揺らいでいるが、それでも入るかどうかはわからない。
なんてったって、こちとらただの一般人だから。
正直この美少女二人の中に割って入るにしてはかなりビジュ負けしている気がするが、まあ味方である二人が良くしてくれるのなら多分何とかなるだろう。
それよりとりあえず今は、街案内という目の前の問題に立ち向かうとしよう。
え、全然ムリですけど。




