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79 勝負水着


 もう起きてしまったことは仕方がない。いくら恥ずかしがっていても満足してもらえるような水着は決まらない。

 そんな感じの振り切った思考のもと、佳奈美(かなみ)は再度水着選びに奮闘し始めた。


 まずはいくつかの水着をピックアップし、それを試着してみる。


「お〜、似合ってますねっ」

「可愛らしいですねっ」

「とても綺麗ですっ」


 その度に花音(かのん)からはお褒めの言葉をいただいたが、なぜか自分の中では納得がいっていなかった。


(ん〜…なんかもっとこう、(しゅう)の心を射止められるようなものがいいな…)


 先程から試着している水着も、自分なりに悪くないと思っている。でもそれはあくまで、悪くない止まりだった。

 言うなれば、()()の水着だった。


(もうちょっと個性を出した方がいいよね…清楚な感じの水着とか、ヒラヒラで可愛いのとか…あとセクシーなのとか…)


 一旦セクシー路線は置いておくとして。やはりある程度の個性がないとこの美少女の花音より視線を集めることなんてできない。でもだからといって、柊はどんな水着が好みなんだろう?


(ん〜…私の方が花音さんより柊の情報が少なすぎる…)


 花音は柊の姉だから何年もそばに居た。だから彼女は柊の好みを完全に知っているはずだ。


 それに対して、こちらはまだ出会って数ヶ月。柊の水着の好みは愚か、私服の好みすら知らない。だから清楚系で行けばいいのか可愛い系で行けばいいのか、判断に迷っている。


 そしてそんな時、入れ替わりで試着室に入って行った花音が結論ともいえる水着を着てこちらに見せつけてきた。


「これ、どうですか?」

「!!!」


 花音がカーテンを開けた瞬間、近くに居た女性全員が彼女に目を向けた。彼女が着ていたのは、青を基調とした清楚さがある色合いに、少しだけセクシーさの残されたビキニだった。

 そしてそれを着ているのは、全身真っ白な肌でスタイルは抜群。それに出るとこはハッキリと出ていて、誰にも引けを取らない圧倒的な仕上がりの身体を持つ少女で。


 これ以上ないほどの完成度を誇る彼女の姿は、一周回って眩しく見えるほどだった。


「っ!!眩しいわっ!!」

「美しすぎるっ!!?」


 そんな声が周りから聞こえてくる中、佳奈美は花音の水着を見て率直な感想を述べた。


「とても似合ってます。花音さんの清楚さを強調させつつ自分の身体の魅力もしっかりと引き出していて、今までの水着で一番いいと思います」

「ふふ、ありがとうございますっ」


 花音は嬉しそうに笑い、鏡で自分の姿を見始めた。


「これ、とてもいいですよねっ。よし、決めました!私、今年はこの水着で勝負します!!」

「そ、そうですか…」


 彼女は自身満々な表情で拳を握り、今年の勝負水着を決めた。まあその勝負の相手は弟なんだけど。でも佳奈美からすればそれはかなり危機的な状況であるため、内心かなり焦っていた。


(こ、こんな水着で柊の前に立たれると…きっとメロメロになっちゃうよ〜っ!!!)


 今まではなんとか張り合えていたつもりだった。でもあの水着を見た瞬間、その小さな自信は塵と化した。


(どうしよう!?このままじゃ柊を取られちゃう!!)


 元々佳奈美のものではないが、かといって花音のものでもなかった。でもあんな水着を見せられたら、きっと柊は喜んで花音のものになるだろう。


 それだけは…見過ごせない…!!


(わ、私もいい水着選ばないと…!!そして柊をメロメロにするんだからっ!!!)


 佳奈美は花音への対抗心を燃やし、水着選びに奮闘した。店にある数多の水着から数個を厳選し、試着して。それでも納得がいかなくて、また選び直して。その繰り返しが一時間ほど続き、そこで花音に苦笑いを向けられた。


「佳奈美ちゃん?別に焦らなくていいんですよ?まだ時間はありますから、明日や明後日に見にきたのでもいいんですよ?」

「は、はい…」


 確かに言われてみれば、別に今日選ぶ必要はない。それに他の店に行くという選択肢もある。


(とりあえず今持っている水着で最後にしよっか。花音さんも疲れ始めてるだろうし)


 いつまでも彼女を待たせるわけにもいかない。なので今日はこれで最後だという気持ちを胸に抱きつつ、気合を入れてその水着を試着した。


 そしてカーテンを開き、花音に見せびらかした。すると彼女は驚いたように、けれども嬉しそうに感想を述べ始めた。


「佳奈美ちゃん…すごく似合ってます!!」

「!!!」

「是非これにしましょう!!今日試着した中で一番可愛いですっ!!」


 花音の目は本気だった。早く終わらせたいからとか最後だからとかではなく、純粋にこれが一番だと言ってくれている。


 それを聞いた瞬間、佳奈美の胸にはいろんな感情が湧き上がってきた。そんな中一番表に出てきた感情は、自信というものだった。


(これなら…!柊の視線を釘付けにできる…!!)


 鏡を見ながら自信を見なぎらせ、決断を下す。


「私、これにしますっ!この水着で勝負します!!」


 佳奈美は確かな自信を胸に、この夏の勝負水着を決めた。


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