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77 期待


「海に行きませんか?」


 カフェで仲良く三人で話をしている時、急に花音(かのん)がそう言い出した。


「海ですか…いいですねっ」


 どうやら佳奈美(かなみ)も賛成のようで、小さな笑みを浮かべている。そうして二人がいいのであれば、こちらからは特にいうことはないので賛成しておく。


「そうだな」

「ふふ、じゃあ決定ですねっ!いつにしますか?」

「私はいつでも大丈夫です。あっ、でも水着を買いたいので…」

「そうですね…。水着を買わないといけませんねっ」


 二人は顎に拳を当てて考え始めた。


「もし良かったら一緒に買いに行きます?」

「いいんですか?」

「はい。佳奈美ちゃんの水着、選びたいですっ!」

「ふふ。じゃあ私も花音さんの水着選びたいですっ」

「是非お願いします!!」


 二人とも、水着の話で盛り上がっている。

 そんな中、唯一の男である(しゅう)は想い人の水着姿を想像していた。


(佳奈美の水着かぁ…どんな感じなんだろうなぁ…)


 期待に胸が膨らんでいく。

 彼女は服の上からでもわかるほどのナイスバディであるので、水着姿になればどうなるのかとても見ものである。いやそういう目で見ているとかではないよ!?


(きっと素晴らしいものが見れるんだろうなぁ…)


 …いや、そういう目で見ているかもしれない。


 しかし普段の柊ならそんなことは考えないようにしているので、今の彼の脳は少しだけ暴走している。


「…柊?どうしたんですかそんなに期待した目をして」

「え!?いやそれは…」


 どうやら表情に出ていたらしく、花音に怪しいものを見る目を向けられてしまう。


「もしかして、私たちの水着の想像をしていたんですか?」

「!?っ…えっと…あの…」

「ふふ。別に怒るつもりとかではないので安心してください。ただその、あまり姉の水着で妄想を膨らませすぎないでくださいね…?」


 頬を赤くして何言っているんだ?


 最初は素晴らしい想像力を発揮してこちらの思考を当てたのに、途中からその素晴らしい想像力で自分の世界を作りやがった。でもこれは別に今に始まった事ではないので軽くツッコんでおくことにした。


「いやアンタのはどうでもいいんだよ」

「ふーん…じゃあ佳奈美ちゃんの水着に興味があるんですか?」

「!?っ…それは…」


 軽はずみなツッコミが仇となり、こちらの思考を完全に当てられてしまった。そして当の本人である佳奈美も何かを察したように頬を赤く染め上げていて、目をチラチラとこちらに向けてきている。


「そ、そうなの…?」


 彼女の目は恥ずかしながらも期待に満ちていて、こちらの言葉を待ち望んでいる様子だった。それに対し、流石に否定するのも申し訳ないので覚悟を決めて正直に話すことに決めた。


「あ、ああ…佳奈美の水着は…見てみたいな…」

「〜〜っ!!!」


 なんとか失礼な内容に言葉を選びながら返答すると、佳奈美は視線を逸らして恥ずかしそうまで悶え始めた。

 そんな可愛らしいほぼバカップルな二人を、花音は微笑ましいものを見る目で見つめていた。


「ふふふっ」

「何が面白いんだよ…」

「別になんでもありませんよ?ただ二人とも仲がいいなと思いまして」

「……」


(コイツ…分かってやってやがる…!)


 花音は柊の佳奈美への好意を知っている。だから今こうやってウブな気持ちを抱く柊のことをニヤニヤと笑いかけている。でも佳奈美に気持ちがバレるわけにはいかないのでこちらからは何も言い返せないという。


 そういう柊からすれば不利でしかないことを花音は分かってやっているので、余計にタチが悪い。そしてその悪戯心は、隣に座る佳奈美の心にも影響を与えている。

 彼女は花音の言葉を聞いた瞬間に身体を大きく跳ねさせ、かなり慌てている様子だ。


「ま、まあ確かに私たちは仲のいい友達ですけどね!!でも別にそれ以上のことなんて何もないんですよ!?」

「はい?それは分かってますよ?」


 ん〜…余計なことを言わないでくれ。


 まあ花音は二人が何をしたか知っているからこうやってニコニコと笑っているが、知らなければかなり問い詰められていただろう。

 でもだからと言ってこの佳奈美の暴走は見過ごせないのでしっかりと喝を入れておく。


「佳奈美、ちょっと話しすぎかも」

「私はただ柊と友達だってことを言いたくて__」

「はいはい、その辺にしておきましょうね。二人とも仲がいいのは分かりましたから、喧嘩しないでください」


 佳奈美さん、そんなに友達アピールされると傷つくよ…。だってキスしたんだよ?普通の友達相手にそんなことしないよね?


 少なくとも柊は佳奈美のことをだいぶ意識しているので、何度も脈なしみたいなことを言われると悲しくなる。でもまあ、最低限の好意がないとキスなんてしないことぐらいは前世の経験からわかっているから心配していないけど。


 でもちょっと悲しいじゃん…。


「まあとにかく、そのうち海に行くって話でいいか?」

「はい」

「う、うん…」


 とりあえず話を戻して忘れよう。


「んで?いつにする?」

「私は佳奈美ちゃんと水着を買いに行くので…」


 そうして三人は海に行くことを決めた。


 そして柊は、今までにないほどの期待感を胸に抱いたのだった。


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