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73 運命の刻


 夏の夜風に当てられた二人の友人は、ベンチの上でそっと手を合わせながら目を合わせる。


「お誕生日おめでとう…」

「あ、ありがとう…」


 でも二人の目には緊張が映っていて、あまりうまく会話が弾まない。


(どうすればいいんだ…!こういう時なんて言ってたんだっけ…!?)


 前世では彼女どころか妻がいたので多分こういう経験をしているはずだ。でもその時の記憶はなぜか思い出せなくて、(しゅう)は判断に迷っていた。

 でもその時、佳奈美(かなみ)が勇気を出して話を始めてくれた。


「あのっ、これ__!!プレゼント…」

「え、マジで…?いいのか….?」

「うんっ…!君のために選んだからその…受け取って欲しい…」

「っ…!?わかった…。ありがとな」

「どういたしまして…」


 そんなの頼んでもいないのに、彼女は何も言わなくてもプレゼントを用意してくれていた。

 そんなことをされると惚れてしまうだろ?いやもう惚れてるんだけど。


 それでもどこか彼女に対する好きという気持ちが増すのを感じ、自然と手を握る力を強めていた。それには佳奈美も少しだけ身体を跳ねさせて反応をしましたが、特に何かを言われることはなかった。

 でもまだ気まずい空気は流れているので、とりあえずこのプレゼントの話題で食い繋ぐ。


「これ、開けてもいい…?」

「うん…どうぞ?」


 佳奈美から渡されたプレゼントを丁寧に開けていく。そして包装を外し、中の箱を開けた。


「これは…タオル?」


 箱の中から現れたのは、見るからに高そうなタオルだった。


「うん…!タオルと、ハンカチも入ってるよっ」

「へ〜…。ちなみに理由を訊いても?」

「えと…大した理由じゃないんだけど…。その、柊くんってこういう夏場でも普通に運動したりするでしょ?だからその時に使えるようなタオルがいいかなって思って…あと、ハンカチはおまけかな…」

「なるほどなぁ」


 佳奈美の口ぶりは見るからに自信無さげで、下を向いて小さな声で語っている。


「ごめんねっ…。私、男の子にプレゼントをあげるのなんて初めてで…っ」


 やはり佳奈美はどこまでも謙虚な人で、あまり自信を持っていない様子だった。でもちゃんと嬉しいということは知ってもらいたいので、彼女に少し強めの口調で言葉をかける。


「いや、嬉しいよ。多分、たくさん悩んでくれたんだよな?」

「それは…うん…」

「そうやって佳奈美さんが悩んだ上で選んでくれたのなら、正直言って何でも嬉しいな。でもこれは実用性もありそうだし、なんか使うたびに誕生日のことを思い出しそうだからより嬉しい」

「…え?」

「まあつまり…俺も始めて家族以外の女の子にプレゼントをもらったから…めちゃくちゃ嬉しいってこと」

「〜〜っ!」


 自分で言っててかなり顔が熱くなるのを感じたが、それ以上に佳奈美の顔を赤くなっているようだった。


「喜んでもらえたなら…よかった…」

「ああ。本当に嬉しいよ。ありがとう」


 なぜか佳奈美に感謝を伝えようとすると緊張が解けた。それは多分、使命感からくるものだろう。彼女にも喜んでもらいたくて、後悔してほしくなくて、こちらが喜んでいることを伝えないとと思ったのだ。


 そしてそれを伝えた今、彼女は嬉しそうに小さく笑っていて、気づけば二人は互いに見つめ合っていた。


「「……」」


 佳奈美の綺麗な目が、ずっとこちらを向いている。今まで眩しくて直視できないと思っていて好きな人の目は、思いの外透き通っていて。


 そこで何か行動を起こさないとと考えた柊は頭を回して話題を捻り出そうとしたが、なぜか彼女の手がピクンと動くのを察知して。


「…柊くん…」

「っ…佳奈美さん…」


 緊張で少し震えている佳奈美の手を、優しく握り返す。すると彼女のでは安心したように力が抜けて、でも握る力はさらに強まっていて。


 さらに柊のドキドキは最高潮に達し、今にも逃げ出したいという気持ちでいっぱいになる。でも、そんなことはしない。


 だってこんな最高のチャンスを逃したら、一生後悔すると思ったから。


「ねぇ、その…」

「ん…」

「!?」


 そこで佳奈美は何かを察したように目を瞑って少し上を向いた。その仕草だけで柊は彼女が何を待っているのかがわかり、ここで下がるわけにはいかないと顔を近づけていった。


「いい、のか…?」

「…」


 佳奈美は恥ずかしくて声も出せなくなっているようだが、それでも小さく頷いてくれた。

 もう、これは引き下がれなくなった。でもここで先に進めばもう突き進むしか無くなってしまう。こんな人生を分ける二者択一の状況でも、柊はは特に迷うことはなかった。


 なぜなら、彼はもう佳奈美との道に進むことを決めていたから。


「……」


 柊は静かに目を瞑り、さらに顔を近づけていった。


 そして二人の唇は、運命の刻に交わり合った。


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