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70 生誕祭


「三、二、一…」

「「「(しゅう)、誕生日おめでとう(ございます)!!!」」」


 日を跨いだ瞬間、家族はそのような言葉を叫んだ。その理由は簡単で、今日が柊の誕生日だからだ。


「これで柊も十六歳ですねっ♪」

「もう十六歳か〜」

「早いわねぇ」


 姉、父、母がリビングでお祝いをしてくれ、柊もさりげなく笑顔になる。


「別に早くはないだろ。この十六年は本当に長かったからな」

「そうなのか?」

「まあな。色々あったし」


 いや本当は何もなさすぎてめちゃくちゃ時間が長く感じただけなんだけど。でもそれを今言うのは場違いな気がするのでその言葉を飲み込んで目の前の机にあるものに目を向ける。


「それよりほら、ケーキ食べないか?マジで楽しみにしてたんだよな」

「ふふ、そうね♪」

「相変わらず食べることに関しては目がないですよねっ。それが柊の魅力なんですけど♡」


 特に姉の花音(かのん)はニコニコと嬉しそうに笑っていて、まるで自分のことのように喜んでいる様子だ。


 そんな彼女の笑みは普段なら少しウザいと感じたりもするが、今の柊はテンションが高いのであまり気にしなかった。


「別にいいだろ?好きなんだから」

「えっ?♡も、もうっ…♡お父さんとお母さんがいる前でそれはマズイですって…♡」

「アンタに言ったんじゃねぇよ」

「柊、お前…」

「だから違うって」

「わ、私はいいと思うわよ…?」

「その目やめろ」


 両親はなぜか微笑ましいものを見るような目を向けてくる。いや、普通に誤解なんだけどな?


「ったく…姉さんが変なこと言うから」

「ふふ♡ごめんなさいっ♡」

「はぁ…いつになっても変わらないなぁ」


 特にその謝っているのに全然反省してな誘うに笑うところとか。本当に彼女は小さい頃からこんな感じなので、いい加減大人になって欲しいところではある。

でもこれについては彼女にも反論があるようで、少し目をキリッとさせながら口を開いてきた。


「そんなことはありませんよ?だって私、学校ではよく大人な人だって言われますから」

「それは学校では演技してるからだろ?」

「別に演技はしてませんよ?あれも間違いなく本当の私です。ただその、柊を前にすると愛が溢れてしまうだけで」

「じゃあ学校で友達と話している時に俺と会ったら?」

「お友達と話している内容を全て忘れて柊に全ての愛を捧げますね」

「そういうところだぞ」


 まあ、知ってた。


 花音は昔からこうだ。柊のことになると他のことが全然見えなくなって、自分の全てを曝け出してくる。それが学校とかの公共の場でも発動するから、余計にタチが悪い。

 だから柊は学校で出来るだけ花音には会わないように気を付けていたりする。でも花音には視界の端に入るだけで柊を感知するという特殊能力があるので、その警戒心は無駄になることも多々。


 というのはともかく、今は目の前に現れているケーキをどうにかしよう。


「はーい、取り分けるわよ?」

「お、待ってました」

「柊はどれぐらい食べる?」

「そうだな〜」


 柊は沙也加(さやか)に大体の大きさを指定し、その大きさに切ってもらう。


「はい、どうぞ」

「ありがと」

「じゃあ次は花音」

「はい。私は__」


 そんな感じで家族全員がケーキを取り分けた。そして余ったケーキを冷蔵庫にしまった後、四人は同時に飲み物を掲げた。


「それでは、柊の誕生日を祝って」

「「「「乾杯!!!!」」」」


 まだ深夜だからそこまで大きく祝いはしない。でも柊にとってはこういう小さな祝い事でも嬉しくて、つい毎年テンションを上げてしまう。


「ん〜!美味いなこれ!!」

「でしょ!?実は最近評判の店に作ってもらったのよね〜!」

「え、もしかしてあの駅前のですか!?」

「ええ!!まさか予約が取れるとは思わなかったわ〜」

「お母さん流石です…!」


 花音に褒められて沙也加はドヤ顔を見せた。でもそうなっても文句が言えないぐらいこのケーキは美味しいし、それだけ予約が取りづらいのだろう。


 それを何となく理解した瞬間、柊の心には感謝の気持ちかわ湧き上がってきて、それを特に隠しもせずに言葉にした。


「母さん、ありがとう」

「ふふ、どういたしまして♪」


 沙也加は嬉しそうに笑ってくれて、こちらも感謝した甲斐があったというものだ。

 そして柊はまたケーキに目を戻し、大きな一口を味わった。


「うん、最高」

「結構甘いな」

「そうですね。お父さんからすれば少し甘すぎるのでは?」

「ん〜…まあ少しだけ?でもそこまで気にはならないかな」

「ふふ、なら良かったわ」


 父は甘すぎるものが苦手だ。どちらかと言えば苦いものの方が好きというかなり渋い好みを持っている人なのだが、今回はこちらの好みに合わせてくれたらしい。


 やはりこの人は、憧れるのに値するカッコいい人だ。そういう目を彼に向けるが、向こうは全く気づく様子もなくケーキに目を向けている。


「ん…?なんか少し苦いところがあるような…?」

「ふふ、気づいたかしら?」

「沙也加、何かしたのか?」

「内緒よ♡」

「そうかい…」


 でもまあ、この人も結局母に振り回されているからこちらと同類ではある。いや二人は別に血の繋がりもないし夫婦だから問題はない。


 それより問題なのは、この花音という実の姉である。

「ん…?どうかしました?」

「いや、別に…」

「ふふ♡もしかして私に見惚れてました?♡」

「なわけねぇだろ」

「照れなくていいんですよ?♡私、柊にならどんな目を向けられても嬉しいですから♡」

「誤解を生むようなことを言うな」


 まあ、こういうこと。

 普通に血の繋がりのある弟にこういうことをしてくるから非常に怖い。それを彼女は愛だと言っているのだが、明らかに重すぎる気がする。でも今更それを否定することはできないので、誤解を生まない程度であれば軽く受け入れるのが優しい弟である。


「その…えっちな目でも…♡」


 ごめん、やっぱ全否定したい。


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